どうにもならない社長の秘密
第四章 変わるもの変わらないもの 7
イライラとしたトゲ立つ気分のまま、エレベーターのボタンをダダダと連打した。
『花マル商事』の、ふたりの社員を雇ってほしいという条件。男のほうばかり気にしていて、女性の方は全く気にしてもいなかった。
せめて履歴書を先に預かっておけばこんなことにはならずに済んだだろう。
いや、履歴書を見てからでは遅い。もっと慎重に、とにかくもう少し調べてさえいれば。
エレベーターを降りて吹き抜けから階下を見下ろすと、紫織の席の端のほうが見える。
彼女本人は見えないが、さっきいた開発部の社員の後ろ姿は見えた。
――まだいるのか。
「はぁ」
右手を額にかけて首を振ると、ひょいと光琉が顔を覗かせた。
「社長、大丈夫ですかぁ? やっぱり疲れが取れないんですねぇ? 今日こそ早く帰ったほうがいいですよ。社長、マジで働き過ぎなんですからぁ」
「あぁ、そうするよ」
――紫織が社員になったからって、どうだっていうんだ。
たいしたことじゃない。
接点など皆無に等しいし、実際話をする機会もない。
目にするから気になるだけで、なるべく営業部に行かなければいいのだ。
見ざる言わざる聞かざる。
今後はなるべく自分から行かないようにして、来てもらうようにすればいい。
――気のせいさ。今までとなにも変わらないじゃないか。
そう思いながら、大きく息を吸って心を落ち着けた。
やることは沢山ある。
寝てしまった分を取り戻さなければならない。
席に戻ってパソコンを開いた時にはすでに、彼は自分を取り戻していた。
集中力の高さは、彼の特技の一つだ。
仕事がある限り、どんなことでも乗り越えられる。彼はそう信じている。
そして午後、無事に会議が終わり客の乗った車を見送った時だった。
「宗一郎さん」
――え?
昨夜会った彼女が、日傘をさして立っていた。
「電話をしたのに」
「あぁ、そう」
「もう会わないって、どういうこと?」
『花マル商事』の、ふたりの社員を雇ってほしいという条件。男のほうばかり気にしていて、女性の方は全く気にしてもいなかった。
せめて履歴書を先に預かっておけばこんなことにはならずに済んだだろう。
いや、履歴書を見てからでは遅い。もっと慎重に、とにかくもう少し調べてさえいれば。
エレベーターを降りて吹き抜けから階下を見下ろすと、紫織の席の端のほうが見える。
彼女本人は見えないが、さっきいた開発部の社員の後ろ姿は見えた。
――まだいるのか。
「はぁ」
右手を額にかけて首を振ると、ひょいと光琉が顔を覗かせた。
「社長、大丈夫ですかぁ? やっぱり疲れが取れないんですねぇ? 今日こそ早く帰ったほうがいいですよ。社長、マジで働き過ぎなんですからぁ」
「あぁ、そうするよ」
――紫織が社員になったからって、どうだっていうんだ。
たいしたことじゃない。
接点など皆無に等しいし、実際話をする機会もない。
目にするから気になるだけで、なるべく営業部に行かなければいいのだ。
見ざる言わざる聞かざる。
今後はなるべく自分から行かないようにして、来てもらうようにすればいい。
――気のせいさ。今までとなにも変わらないじゃないか。
そう思いながら、大きく息を吸って心を落ち着けた。
やることは沢山ある。
寝てしまった分を取り戻さなければならない。
席に戻ってパソコンを開いた時にはすでに、彼は自分を取り戻していた。
集中力の高さは、彼の特技の一つだ。
仕事がある限り、どんなことでも乗り越えられる。彼はそう信じている。
そして午後、無事に会議が終わり客の乗った車を見送った時だった。
「宗一郎さん」
――え?
昨夜会った彼女が、日傘をさして立っていた。
「電話をしたのに」
「あぁ、そう」
「もう会わないって、どういうこと?」
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