どうにもならない社長の秘密

白亜凛

第三章 そんな偶然ならいらない 12

 美由紀もそれなりに、インターネットで検索して精一杯お洒落をしていたつもりだったけれど、自分がいかに野暮ったくて訛っている格好悪い女の子かということはすぐに理解した。

 どんなに見た目がダサくても、心はみんなと変わらない。
 都会育ちの同級生達の、きれいに引かれたアイラインの目元とかグロスの塗られた唇の端に浮かぶ侮蔑の色に、気づかないほど鈍感じゃない。

 でも紫織は違う。
 お気に入りの手作りバックを『可愛い』と褒めてくれた。
 いつも穏やかで、ふんわりと優しい空気をまとっている紫織のとなりにいると、優しい気持ちになれる。紫織はそんな女の子だった。

 宗一郎も同じ大学の、理系の学生だった。

 文系だった紫織や美由紀と彼との接点は、大学の図書館の自習室。
 ある日の午後、アルバイトが終わって紫織と待ち合わせた図書館に行った時、紫織は彼と一緒にいて、見ればグラフ作成を教えてもらっているようだった。

 彼がどんなふうに、彼女に声をかけてきたのか細かいことはわからない。
 スラリと背が高くて、白いシャツにジーンズといういつも同じ格好をしている彼はいつも同じ席にいたので、存在は知っていた。

『工学部の鏡原さんよ。色々教えてもらっていたの』
 でも、長めの前髪と眼鏡で隠れていたのは、切れ長の魅力的な瞳だったことを、紫織に紹介されるその時まで知らなかった。

 引っ込み思案で、ちゃらついた男子学生を苦手としていた紫織も、無口だけれども誠実な彼に心を開くのは難しいことじゃなかっただろう。

 おとなしい紫織と無口な宗一郎。
 ふたりは瞬く間に恋に落ちた。
 宗一郎が就職先を決めて間もなく、紫織にプロポーズをした。

 泣いて喜ぶ紫織にもらい泣きをしたのは、いまから七年前。あの時、美由紀は気づかなかった。

『ねぇ美由紀。この前ね、友達に聞かれたの。好きな人にフラれる時、どんな風にフラれたら、彼のことが忘れられるのかなって』

  紫織にそう聞かれて、その時何も知らなかった美由紀は、少し悩んでから答えた。

『うーん。できるだけ冷たくフラれる方がいいな。中途半端に優しくされたら忘れられないもん。いっそ思いっきり酷いことを言われたほうがいい。『お前みたいな田舎者相手にするわけねーだろ』とかね』

 宗一郎と別れたと、泣きはらした目をして紫織が打ち明けてきたのは、それから数日後のことだった。

『私、お見合いをするの』

 少しずつ見えてきた状況は、慰めようもないほど厳しかったのである。

 

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