どうにもならない社長の秘密

白亜凛

第三章 そんな偶然ならいらない 11

 彼は、あの日の別れをバネにして頑張ったのだろうか?

 そう思う事すら傲慢だと言われるかもしれないが、野心などなかったはずの彼が、起業までして成功したのだ。

 あの素敵なビルで、大勢の社員を抱えて社長室に入った時、彼はどう思ったのだろう。


 でも、もし自分が宗一郎の立場だったら?

 あそこまで酷いことが言えた?

 『SSg』に就職することは、できれば辞退してほしいというのはわかる。
 でも、落ちぶれたもんだな、なんて酷いことまで言うのはなぜ?

 お金や権力で人は変わる。
 それは箱入り娘から、ただの世間知らずになった自分が、この目で見て肌で経験してきたことだ。

 ――でも。私ならあんな酷いことは絶対に言わない。絶対に。


***


「宗一郎っ? え?『SSg』って宗一郎の会社だったの?」
 紫織の報告を聞いて、美由紀も絶句した。

「そう。もう最悪。あいつがパソコンに送ってきたメッセージに何て書いてあったと思う? 落ちぶれたもんだな、だって」

「そんなこと言ったの? 宗一郎が?」
「そうよ。酷すぎるでしょ」

 口にした途端、消えたはずの怒りがまた込み上げてきた紫織は、冷蔵庫から取り出した発泡酒を手に取りゴクゴクと一気に飲んだ。
「くたばれっ! アホ」

 それから立て続けに飲んで三本目の缶が並んだ頃には、お酒に弱い紫織が酔いつぶれるのには十分だった。

「宗一郎のバカヤロー」
 遠吠えのようにそう叫んで、紫織はパタッとテーブルに突っ伏した。

 そんな紫織を見て、美由紀はため息をつく。
 ――やれやれ。
 美由紀と紫織は大学の同級生で、そこでふたりは友達になった。

 紫織は綺麗だった。
 髪の先から爪の先まで本当に綺麗で、いい匂いがして。紫織を通してブランド物という存在を、その時はじめて意識した。
 東北の片田舎から、誰も知り合いのいない都会に来た美由紀の目に彼女はキラキラと、本当に輝いているように見えたのである。

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