どうにもならない社長の秘密

白亜凛

第三章 そんな偶然ならいらない 2

 ジーンズを履いている人や、ラフな服装をしている人が多いせいかもしれないが、皆が二十代のように見える。

 これから面接するここ『SSg』の社長が青年というからには社員が若いのも当然かもしれない。

 やはり、場違いなところに来てしまったのではないか。
 紫織もいまはまだせめてギリギリ二十代ではあるが、せめてあと数年若ければと、動揺のあまり自分でも訳のわからないことを紫織は考えた。

 知らず知らずのうちに、深いため息が出た。

「――ハァ」

「さっきから溜め息ばっかだなぁ。大丈夫だって、俺だっているんだから」
 紫織の不安を見透かすように、室井が歯を見せて、にっかりと笑う。

「課長、お願いです。私より先には絶対辞めないでくださいね! どんな仕事でも私、がんばりますからっ」

「どんな仕事でもって? もしかして紫織。ここのこと調べていないのか?」

「はい。だって、どんなところでも頑張るしかないし。調べたら絶対自信喪失しちゃうから」

 そりゃそうだけどと、室井は呆れたように首を振る。

 ――課長は知らないからそんなことを言うのよ。
 だって。IT企業で検索したりしたら、間違って“彼”がいまどうしているか、わかっちゃうかもしれないんですよ?
 紫織は心の中で、そう言い訳をした。

 七年前別れた恋人。
 彼はIT業界のどこかにいるだろう。
『私、お金のない人とは結婚できないの。わかるでしょ? 百年続く呉服屋の一人娘なのよ、私は』
 あの日、彼に言い捨てた一字一句を、紫織は忘れていない。
 忘れてはいけないと思っている。
 純粋で綺麗に輝いていた彼の瞳から、光が消えた一瞬のことも。
 まるで幕が下りたように、彼は瞼を閉じた。

 そのシーンは深い傷となって、心の奥底に深く刻まれている。

 ――あわわ、こんな時になに暗くなっているの?
 だめだめ今思い出すことじゃない。

 我に返った紫織が深呼吸をしたところで、エレベーターからチンと軽い音が響く。
 社長のいる、最上階の五階についた。

 さあ、いよいよだ。
 エレベーターを下りると、正面に見えた若い女性がスッと立ちあがり、微笑みながら紫織たちの元へ歩いてきた。

「こんにちわ。室井さん」

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