2度目の人生をガチャで貰ったスキルで世界最高のサッカー選手を目指す話

梅雨前線

小学生編 3 世界の至宝

浦和レッド セレクション会場


さてセレクションとは何をする所なのか、という疑問を持っている方も居るだろう。


基本的に一日を通して行われる試験だ。もちろん運動能力や技術力を測る内容のものになる。午前中に基礎技術試験が行われる。この時点で大体半分くらい落とされるだろうか。ここでまず一次合格。


その次に昼食を挟んでの二次試験へと移行する。二次試験ではミニゲームを行う。最初は4v4のランダムマッチ、その後に8v8のミニゲームを行うのだ。ここでまた振るいにかけられ、二次合格者が決まる。


その後に簡易的な面接試験が実施され、これを三次試験と呼ぶが、ここまで来たら余程人格に問題なければ合格だ。ただし、試験官が二次で合否を迷った選手はここで厳しくサッカー関連の質問形式の試験を受けなくてはならない。その為三次は試験官の態度によって天国か地獄かが分かれるのだ。




さて一次試験開始だな。最初に行うのは軽いアップだ。いきなりドンパチ始める訳ではない。受験生の緊張を解くために、また怪我の予防として綺麗に整えられた芝生のフィールドを走る。


皆顔が硬い最中、俺だけ一人ニヤニヤが止まらない。なぜならばここの芝生は最高グレードだ。【スキル】の影響かわからんが俺の感覚は常人よりかなり鋭い。その感覚が言っているのだ、ここの芝生半端ないと。ここいいよ、と。


芝生はさて置き、先程みたいに俺に突っかかってくる野郎は居らず、平和なランニングを終えた。


次はストレッチを行う番だ。最初のアップではあまりに酷くなければ減点されることは無い。だがここで圧倒的な柔軟性を見せてやろうじゃないか。


ピターーン


ピターン


ぴったーーーん。


どうだ試験官方?おっとやり過ぎてしまったかな?


元々鼻息荒くして俺の事見てたみたいだけど鼻血でそう?大丈夫?


俺の隣の奴は圧倒的な柔軟性に感化されたのか頑張り過ぎて足が攣りそうになってる。相当痛かったんじゃないだろうかピクピクしているな。あっ減点されてる、どんまい。


3つ目は20メートル走。


「受験番号60から70番位置につけ、よーーい、ドンっ!」
パッんっと音が鳴ると同時に俺は全力疾走。


「67番さ......さ3.94秒です!よ、4秒きりましたっ!」




動揺隠せない測定係。ここまでいくと周りがザワザワし始める。


そして最後はドリブル&リフティングの技能確認。


受付が暴走した時に列に並んでいた奴らは俺をフィジカルだけの奴だと思っているみたいだな。またニンマリと嫌ららしい嘲笑を向けてくる。


まぁぶっちゃけるとクラブに加入していないイコール上手くないは大体合っている。


俺みたいに個人的な練習を淡々とできる小学生なんていないだろ。居たとしても確率的には30万人居るサッカー少年のどのくらいだろうか。1%は超えないだろう。


技術はないと見て盛大に失敗すると思っているのか更に酷くしたニヤニヤ顔でこちらを見てくる。本当に性格悪いな〜おじさん心配だよ君たちの将来、と思いながらも直ぐに切り替える。


テストを行う前にしっかりと自分の番号と名前を言わなくてはならない。


「受験番号67番 二宮ケイです!」


発声練習をいつもしているお陰、滑舌のいい透き通る声がセレクション会場に響く。


技術力試験だ。俺が一番好きな『運ぶ』に当てはまるものだ。コーンが20メートル先まで様々なパターンで並べられている。それらに触れず、どこまで正確に早く運べるかが肝となる。




先程のアップや20メートル走の結果を知っているのか係員も緊張しているみたいだ。
「は、始めっ!」


吃ったなこの人。


さてここにいるセレクション生散々俺を馬鹿にしてくれたよなぁ?大人げないとか知らないから。お前らがトラウマになるレベルの圧倒的な才能の差、技術の差を見せてやろうじゃないか。


全力疾走で加速、バカだ、何やってるんだ、これだから素人は、と言う声を背に、
完璧にコントロールされたボールはコーンの周りを通過していく。


4年生では考えられない様なアジリティから繰り広げられる圧倒的な精度。もはやボールの支配と言っていいだろう。まるでボールが二宮の足に貼り付けられているのではないかと思うほど足にピタリと付いたままコーンの間を駆け抜ける。


先程見せた4秒を切る俊敏性を維持したまま、20メートルにも及ぶコーンテストを終わらせてしまった。


かかった時間は4.2秒。全力疾走との誤差はたったの0.26秒。


ボールなしの全力疾走とたったの7%しか違わないという事だ。


15%切れば御の字、なんて優秀なんだと言われるプロの世界。それを圧倒的に超える結果を4年生が見せてしまった。


日本サッカー会の革命、未来のスター誕生はこの小さなセレクション会場で起こってしまったのだ。


俺をクソ雑魚扱いしてた奴は口パクパクしている。俺が見ている事に気付くと直ぐに顔真っ赤にした。


あー、きっとあれは恥ずかしがっているんだろうな。


皆さんも経験したこと無いだろうか、自分はニワカにも関わらずイキった結果、そのウンチクを垂れた相手がプロでがっつり指摘された気分だろう。


え、分かりにくい?すみませんちょっと憧れのざまぁができて少し気分が良くて。


さて大分加点できたんじゃないだろうか?
おっと何やら高そうなスーツを着たおっさんが顔を真っ赤にして乙女みたいにジャンプしてる。


やばい、気持ち悪い。どっかの園長先生と同じ臭いがする。関わっちゃいけません。見てはいけませんだな。


ちなみにリフティングは両足同じ精度で200回した。リフティングとは案外100回できれば1000回と直ぐに出来る。しかしそれで身につくのはリフティングの為の能力だ。


俺が目指したのは両足同じ精度でミートし続ける事。両足合計たったの200回だが、全くブレないリフティングを目の当たりににした係員は顔を引き攣りながらもう十分ですと言った。


これで一次終了だ。






◆◆◆◆◆◆◆


《とある元日本代表》




「はっははははは、はは」


乾いた笑いしか出てこないな。なんだこのレベルは.......俺が現役の時に同じ事が出来ただろうか?


多分出来たであろう。だがそれは小学生レベルのスピードに落としてやっとだろう。いや、できるか....おいおいおい!今4.2秒って言ってなかったか?!


「おいっ!二宮ケイの20メートル走結果を持って来いっ!!」


俺がそう言うと駆け足で部下がデータを持ってきてくれた。持って来た部下は既にデータに目を通したのか冷や汗を流している。


ば、ばかな......?


「おいおいまじかよ....こいつはたまげた、」


「は、はい。彼は本物ですよ部長!確実に取りましょう!」


俺の部下もしっかりとこの会場の雰囲気に影響されてしまった。ワンプレーで誰もが吃ってしまうくらいの圧倒的なパフォーマンス。


会場に居るやつしか感じ取れないだろう、強い奴特有の圧。空気が物理的に重くなったと錯覚する感覚。セレクション会場をまるまる支配しやがった...


記録も記録で、はっまた凄い結果だなぁ。こいつに50メートル走させたら小学生の日本記録超えるんじゃないか?


おいおい誤差7%かよ。お前、もうなにもしなくてもプロなれるよ。ただただ身体が出来上がるのを待てばいいよ。やばい、こいつの将来を少し考えただけでもワクワクが止まらない!


「はっはは!はっっはははっはーーー!」


こんな素晴らしい事があって良いのか。本当にあの時浦和レッドのオファーを受けて良かった。最初はジュニアの育成なんてクソ面倒いと思っていた。せめてユースジュニアかユース生を育成したかったのだが、本当にこの仕事を受けて良かった。


今日この歴史的瞬間を当事者として目にできて。二宮ケイ君サッカー界へようこそ。


そして日本に生まれて来てくれてありがとう。




だが二宮ケイ君の事で副理事長と大宮アルディーは一つ間違いを犯したな。サッカーの神様は怒っているだろう。


二宮ケイは日本の至宝じゃない。








ーーー世界の至宝だ。






 ◆◆◆◆◆◆


《とある小学生は》


おいおいおい嘘だろ.......?


あいつすげーやつじゃん!なんだよあの受付、全然コネじゃないじゃん!!


は、はずかしいっ!


あ゛ああぁぁあ!俺ってただのダサいやつじゃん。何が受付の人いじめてる〜だよ!俺ダサ過ぎっ!


だが俺の周りにはまだ現実を受け入れられてない奴もいるみたいだな、可哀想に。


俺はまだいい、恥ずかしさが先に来ている。だが他の奴らは絶望してるんじゃないか........? 正直俺も気を抜くと心折れそうになる。




二宮って奴一体どれくらい練習したらこのレベルになるんだよ。いや、練習したらここまで上手くなるのか。


俺も地元では天才だ、神童だと言われ続けてきた。地元のサッカー団のコーチには今まで見てきた子で一番才能があるなんて言われた。クールにあざすっと返したがその後の1週間ニヤニヤしながら過ごし、夜になるとコーチの言葉を思い出し、枕に顔を埋めて足をバタバタさせた。


周りの連中も大なり小なり同じ境遇の奴らだろう。皆地元でちやほやされ育った。メンタルが弱い奴なんて今のワンプレーでサッカーに諦め付いただろう。


本当の才能、天才ってこいつの事言うんだな。次元が違い過ぎる。


あっ、やばい目が合ったどうしよう


うぅぅ.....






謝ったら許してくれるだろうか......。

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