【書籍化】勤め先は社内恋愛がご法度ですが、再会した彼(上司)とまったり古民家ぐらしを始めます。
かける言葉の最適解(わくくん目線)
「一番可愛い彼女の表情」は日々、毎分毎秒ごとに更新されていく。
「している時の彼女の表情」もそれはもちろんそうで、全身を欲望に支配され、突き動かされている時でさえ、俺は彼女の微細な表情の変化を見逃したくないのだった。
──それなのに。
夜、彼女と一つのベッドに眠るのは、最近はもう当然のようになっていて。
その夜も、時間を惜しまずにたっぷりと彼女を可愛がり、様々なことを、色々な角度から試みた末に──彼女は、抜け殻のようになっていた。
喉を反らせて高い声をあげ、くたりと横になった彼女の体を拭きながら、反芻する。
「今日彼女はどれくらい感じていたか」
「初めての時と比べてどう変わったか」
「快楽だけでなく愛情を伝えられたか」
今日は、自分だけでなく、俺にも気持ちよくなって欲しい──舐めさせて欲しい、触らせて欲しいと懇願する彼女の、熱に浮かされたような、うるんだ瞳を見ただけで、すさまじい欲望が背筋を駆けめぐり、あやうく射精しそうになってしまった。
彼女がそばにいる時──特に、体を交えている時は、いつも彼女に対して抱いている焦り、渇望といった苦しさにも似た感情が、少しは和らぐ。
無理をさせているかもしれないと、考える時もあるけれど。
それでも、やめることは出来なくて。
彼女の世界はいつも、広く開かれている。そんな彼女を見ると、好ましく感じる。
でも自分はどうか。彼女の笑顔を見るたび、幸福感を感じる。
やっと手に入れた、と充足感をおぼえもする。
けれどその一方で、暗い炎が心の内で燻ぶっているのを自覚せずにはいられなかった。
幸福感も、充足感も。
満たされるのはいつも一瞬。
次の瞬間には、この「完璧な状況」はいつか失われるのではないか、それは遠い未来ではなく、もしかすると近いうちなのではないかといった不安が心を貫いて、どうにかなりそうになったりもする。
「……、」
ため息がこぼれた。
行為を終えた後、こんな風に思考が後ろ向きにループすることはいつものことだった。
彼女が口を開き、ややかすれた声で言ったのは、そんな時だった。
「──あの、創太郎くん。あまり、見ないで欲しいんだけど」
「え?」
「……してる時に創太郎君、ずっと私の顔を見てくるでしょう?いつも」
「うん。そうだね。ずっと見てるね」
「は、恥ずかしいから、あまりまじまじと見ないでいただけると、助かります……」
どう答えたものか、一瞬迷う。
なぜなら、行為の最中に彼女の顔を見ないようにするというのは、俺には到底無理な話だったので。
彼女と暮らし始めてそれなりの時間が経っているが、つまり彼女は、俺の性分というものをまだよくわかっていないのだった。
とりあえず、彼女の言葉には答えずに、薄い布団から見える範囲の、彼女の肌を観察する。
一番最初につけた左側の鎖骨のキスの跡は、やや色が薄くなっているように見えた。
そこから上の、首筋から肩に至る稜線には薄っすらと歯形がついていて。
これもそれなりに、目立たなくなってきている。
彼女の肌から性行為の痕跡が消えるまでの時間でさえ、把握したかった。
唇で食んで、肌を吸って、彼女が呻いて、そこから元に戻るまでどれくらいの時間がかかるのか。
吸う強さを変えると、どの程度それは変化するのか。
彼女のことはなんでも、正確に知っておきたい。
でも彼女は俺に対して、そうでないのかもしれない。
後ろ向きな考えが浮かんで、胸のあたりがちり、と痛んだ。
「あの……創太郎くん、聞いてる?」
「聞いてるよ。セックスの時、篠原さんは感じてる顔を俺に見られたくないってことだよね。たとえばイキそうになってるのを堪えられなくなった瞬間とか」
「ちょ……っ!!なんでそんなにはっきり言うの?そういうのも、やめて欲しい」
「そういうのって?」
「だ、だから!見るのもそうだけど!淡々と、そういうあからさまなことを言わないで欲しいの。してる時も」
これはやや心外だった。
ネガティブな感情も胸の痛みも一瞬にして吹き飛び、行為の最中に自分がどんな言葉を彼女にかけているかに意識が集中する。
俺はセックスの際、べらべら喋るタイプではない。
さりとて無言で事を進めるのもいかがなものかと思うので、彼女を安心させるためにも適宜、彼女も知り得ないであろう「彼女の状態」を、端的な言葉で知らせている。
具体的には、
「とろとろに濡れてる」
「やっぱりここが良いんだね」
「いま、すごく締まってる。自分でわかる?」
「『待って』って、嘘でしょ?体は欲しいって言ってるよ」
と、いうようなことを、彼女の目を見ながらか、もしくは耳元で言っているだけなのに。
そんなに、あからさまだろうか?
俺からすると、彼女の状態を逐一把握して、言葉にすることは愛情表現の一つでもあるという考えなのだが。
改めて、彼女の顔を見やる。
そして、
最中に、自分がかけている言葉に何も間違いはないのだと、再確認する。
彼女──あずみはいま、頬に残った情事の火照りが冷めやらぬまま、わずかな怒りをそこに滲ませて、一生懸命に俺をにらんでいて。
その表情の、可愛いらしさときたらなかったので。
可愛い、触りたい、キスしたい、好き、美しい、舐めたい、またしたい、奥まで突き立てたい、かき回したい、好き、見たい、感じさせたい、触りたい、中に出したい、啼かせたい、抱きつぶしたい、めちゃくちゃにしたい、イかせたい、とにかく挿れたい、中に出したい、可愛い、キスしたい、
愛してる。
「んんっっ──」
感情が溢れたのに任せて、彼女が一生懸命に尖らせていた唇へ、自分のそれをぶつける。
彼女の膝を割って上半身を滑り込ませ、下半身を密着させると、すぐに「つながった」感覚があった。
「んうぅ……っ」
合わせた唇から漏れた甘い呻きに脳天が痺れる。
腰を打ち付けてつながりを深く求めるたび、そこからまた、甘い熱が生まれて、お互いの体に拡がっていく。
後ろ向きなことを考えるのは、今じゃなくていい。
幸いにも、明日は休日。
夜はまだまだ長いのだっだ。
「している時の彼女の表情」もそれはもちろんそうで、全身を欲望に支配され、突き動かされている時でさえ、俺は彼女の微細な表情の変化を見逃したくないのだった。
──それなのに。
夜、彼女と一つのベッドに眠るのは、最近はもう当然のようになっていて。
その夜も、時間を惜しまずにたっぷりと彼女を可愛がり、様々なことを、色々な角度から試みた末に──彼女は、抜け殻のようになっていた。
喉を反らせて高い声をあげ、くたりと横になった彼女の体を拭きながら、反芻する。
「今日彼女はどれくらい感じていたか」
「初めての時と比べてどう変わったか」
「快楽だけでなく愛情を伝えられたか」
今日は、自分だけでなく、俺にも気持ちよくなって欲しい──舐めさせて欲しい、触らせて欲しいと懇願する彼女の、熱に浮かされたような、うるんだ瞳を見ただけで、すさまじい欲望が背筋を駆けめぐり、あやうく射精しそうになってしまった。
彼女がそばにいる時──特に、体を交えている時は、いつも彼女に対して抱いている焦り、渇望といった苦しさにも似た感情が、少しは和らぐ。
無理をさせているかもしれないと、考える時もあるけれど。
それでも、やめることは出来なくて。
彼女の世界はいつも、広く開かれている。そんな彼女を見ると、好ましく感じる。
でも自分はどうか。彼女の笑顔を見るたび、幸福感を感じる。
やっと手に入れた、と充足感をおぼえもする。
けれどその一方で、暗い炎が心の内で燻ぶっているのを自覚せずにはいられなかった。
幸福感も、充足感も。
満たされるのはいつも一瞬。
次の瞬間には、この「完璧な状況」はいつか失われるのではないか、それは遠い未来ではなく、もしかすると近いうちなのではないかといった不安が心を貫いて、どうにかなりそうになったりもする。
「……、」
ため息がこぼれた。
行為を終えた後、こんな風に思考が後ろ向きにループすることはいつものことだった。
彼女が口を開き、ややかすれた声で言ったのは、そんな時だった。
「──あの、創太郎くん。あまり、見ないで欲しいんだけど」
「え?」
「……してる時に創太郎君、ずっと私の顔を見てくるでしょう?いつも」
「うん。そうだね。ずっと見てるね」
「は、恥ずかしいから、あまりまじまじと見ないでいただけると、助かります……」
どう答えたものか、一瞬迷う。
なぜなら、行為の最中に彼女の顔を見ないようにするというのは、俺には到底無理な話だったので。
彼女と暮らし始めてそれなりの時間が経っているが、つまり彼女は、俺の性分というものをまだよくわかっていないのだった。
とりあえず、彼女の言葉には答えずに、薄い布団から見える範囲の、彼女の肌を観察する。
一番最初につけた左側の鎖骨のキスの跡は、やや色が薄くなっているように見えた。
そこから上の、首筋から肩に至る稜線には薄っすらと歯形がついていて。
これもそれなりに、目立たなくなってきている。
彼女の肌から性行為の痕跡が消えるまでの時間でさえ、把握したかった。
唇で食んで、肌を吸って、彼女が呻いて、そこから元に戻るまでどれくらいの時間がかかるのか。
吸う強さを変えると、どの程度それは変化するのか。
彼女のことはなんでも、正確に知っておきたい。
でも彼女は俺に対して、そうでないのかもしれない。
後ろ向きな考えが浮かんで、胸のあたりがちり、と痛んだ。
「あの……創太郎くん、聞いてる?」
「聞いてるよ。セックスの時、篠原さんは感じてる顔を俺に見られたくないってことだよね。たとえばイキそうになってるのを堪えられなくなった瞬間とか」
「ちょ……っ!!なんでそんなにはっきり言うの?そういうのも、やめて欲しい」
「そういうのって?」
「だ、だから!見るのもそうだけど!淡々と、そういうあからさまなことを言わないで欲しいの。してる時も」
これはやや心外だった。
ネガティブな感情も胸の痛みも一瞬にして吹き飛び、行為の最中に自分がどんな言葉を彼女にかけているかに意識が集中する。
俺はセックスの際、べらべら喋るタイプではない。
さりとて無言で事を進めるのもいかがなものかと思うので、彼女を安心させるためにも適宜、彼女も知り得ないであろう「彼女の状態」を、端的な言葉で知らせている。
具体的には、
「とろとろに濡れてる」
「やっぱりここが良いんだね」
「いま、すごく締まってる。自分でわかる?」
「『待って』って、嘘でしょ?体は欲しいって言ってるよ」
と、いうようなことを、彼女の目を見ながらか、もしくは耳元で言っているだけなのに。
そんなに、あからさまだろうか?
俺からすると、彼女の状態を逐一把握して、言葉にすることは愛情表現の一つでもあるという考えなのだが。
改めて、彼女の顔を見やる。
そして、
最中に、自分がかけている言葉に何も間違いはないのだと、再確認する。
彼女──あずみはいま、頬に残った情事の火照りが冷めやらぬまま、わずかな怒りをそこに滲ませて、一生懸命に俺をにらんでいて。
その表情の、可愛いらしさときたらなかったので。
可愛い、触りたい、キスしたい、好き、美しい、舐めたい、またしたい、奥まで突き立てたい、かき回したい、好き、見たい、感じさせたい、触りたい、中に出したい、啼かせたい、抱きつぶしたい、めちゃくちゃにしたい、イかせたい、とにかく挿れたい、中に出したい、可愛い、キスしたい、
愛してる。
「んんっっ──」
感情が溢れたのに任せて、彼女が一生懸命に尖らせていた唇へ、自分のそれをぶつける。
彼女の膝を割って上半身を滑り込ませ、下半身を密着させると、すぐに「つながった」感覚があった。
「んうぅ……っ」
合わせた唇から漏れた甘い呻きに脳天が痺れる。
腰を打ち付けてつながりを深く求めるたび、そこからまた、甘い熱が生まれて、お互いの体に拡がっていく。
後ろ向きなことを考えるのは、今じゃなくていい。
幸いにも、明日は休日。
夜はまだまだ長いのだっだ。
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