【書籍化】勤め先は社内恋愛がご法度ですが、再会した彼(上司)とまったり古民家ぐらしを始めます。

梅川いろは

秘密の恋のたどる道 5

 新田部長はむっつりと押し黙っている。

 最初に口を開いたのは創太郎だった。

「…では、転勤というのは?僕が調べたかぎり、過去に何件か事例があったようですが」

 西尾さんが新田部長にちらりと目配せをしたのがわかった。

 新田部長は軽くため息をついて頷き、口を開く。

「過去に事例があったのは確かだな。しかし厳密には、社内での恋愛が直接の理由ではなく、勤務地の変更をやむなしとされるような理由があった者たちだ」

 存外に優しく穏やかな声で、部長が続ける。

「一例を挙げると、勤務時間中に会議室や資料室などの密室にしけこんでいかがわしい行為に及んでいたやつなんかがそうだな。それも一度衝動的にそうなってしまったとかではなく、故意に何度もだ。皆が真剣に仕事をしている最中に、皆が使う場所で平気でそんなことが出来る人間というのは、仕事に対するモチベーションやモラルが低いことがままある。実際に調べてみると仕事がずさんだったり、自分がすべきことを他人に押し付けていたりで、今の環境のまま業務にあたらせるには問題があると判断される」

 つまり、

「社内恋愛がばれたことをきっかけに、仕事上の問題が明らかになった人が転勤という形で異動をさせられるということですね」

 創太郎がまとめる。

「そうだ。だから、社内での恋愛をしていると噂の立った者は『業務上の素行』について調査がなされる」

「和玖君と篠原さんはぜーんぜん大丈夫よね。人並み以上にやっているもの」

 西尾さんのたのもしい笑顔を見て、あずみはどっと力が抜ける思いだった。

 創太郎をちらりと見る。彼は表情を変えなかったけれど、まとう空気がまったく違うとあずみは気づいた。

 昨日のような、危うさを感じさせる目つきはもうしていなかった。

「噂の立った者には調査がなされる、これは誰が対象でも変わらない。たとえ取引先の近親者であっても」

「それじゃ、この件はここまででいいよね?」

 西尾さんがさらりと言う。誰に問うているのかは明らかだった。

 上杉さんは気配を殺しているかのように押し黙っている。

 あずみや創太郎が視線を向けても手元をじっと見つめていて、顔を上げようともせず、これ以上の抗弁の意思がないことをないことを全身で示していた。

「では、打ち合わせはこれで終わりということで…」

「あ、ごめん。わたしからもう一点」

 創太郎が締めくくろうとしたところを、西尾さんが挙手してさえぎる。

 どうぞ、と譲られて西尾さんが頷く。

 新田部長が西尾さんを見やった。

「えーと…私事ですが。実は赤ちゃんを授かりまして、先日安定期に入ったんですが」

「…!!」

 

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