【書籍化】勤め先は社内恋愛がご法度ですが、再会した彼(上司)とまったり古民家ぐらしを始めます。
八月のいちばん長い日 6
とろけるような食感のメロンを食べ終わると、創太郎が本題を切り出す。
「西尾さんには言ってなかったんですけど」
「うん?なに、なにか大変なお願い?だからこんなお弁当をごちそうしてくれたの?」
「当たらずとも遠からずです、たぶん。聞いてくれますか」
「聞きますとも」
あずみは二人のやりとりを横から見守っていた。
ここに来るまで創太郎とはなにも打ち合わせていない。でも、西尾さんをランチに誘った時に彼の意図は察していた。
それでも、緊張する。西尾さんはどんな反応をするのか。優しい人だからあからさまに否定的な反応はしないと思うけど、でも、引かれたら…。
「僕と篠原さんですが、付き合ってます。いろいろあって、入社前からの関係です」
「…」
西尾さんは何も言わなかった。
てっきり多少なり驚いた反応を示すと思っていたので、あずみは戸惑った。
「に、西尾さん?」
「えぇっ!?」
どうやら一瞬言葉の意味を理解できず、反応が遅れたらしかった。
西尾さんは慌てて両手で口を覆い、周りをキョロキョロ見渡すと、創太郎とあずみを交互に見て言った。
「…ほんとびっくりしちゃった。全然二人ともそんな素振りないし!」
「驚かせてすみません」
創太郎が謝る。
西尾さんは気にしないでというふうに手をぶんぶん振り、上気した顔で続けた。
「いやでも、そうなればいいのになぁ、とはなんとなく思ってたの。二人とも綺麗な見た目で仕事は超のつく真面目ぶりで性格も良いし、集中してる時の空気感が似てて…」
なんだかすごくはしゃいでいる。あずみは西尾さんの褒めちぎりぶりに赤くなったり照れたり忙しかった。
「入社前からのお付き合いってことは、けっこう長いの?」
「期間としてはまだ長くないんですけど、いろいろありまして。そのあたりの話はまた今度ゆっくり、食事しながらでも」
創太郎の言い方はやわらかかったけれど、話を本題に戻そうとしているのが分かった。
「西尾さんにお願いしたいのは、証言です」
その一言で、敏い彼女はすべてを把握したようだった。
「なるほどね。打ち合わせはその件で?あの二人のどちらかに知られて大騒ぎされたんでしょ」
「僕がうかつでした…街中で買い物をした後に見られたみたいで」
「気にすることない。そんなことで仕事を放って打ち合わせの場で追及しようなんて思う方がどうかしてるんだから」
まるで見ていたかのようにあのふたりの行動を当てるのがすごい。
「それで、証言ってことは他の人にもあることないこと言いふらして問題をでっちあげられそうになってるってこと?」
「まだその段階ではなかったみたいですけど、正直どうなるかわかりません。向こうの良識に期待したいところですが」
創太郎の声のトーンが沈む。
「うちの会社には『社内恋愛はご法度・どちらか転勤の慣習』もありますし」
あずみの手にぎゅっと力が入る。そうなれば転勤になるのはあずみの方だろうと思った。
西尾さんが難しい顔になる。
「ああ、それね…」
商談室の中に重い沈黙が落ちる。手の中のほうじ茶はすっかり冷え切っていた。
「手札をあの二人が握ってるのが気に食わないけど、大丈夫。私だっていくつかカードを持ってるから」
西尾さんが壁の時計をちらりと見た。つられてあずみも確認すると、昼休憩が終わるまであと数分くらいしかなかった。
そろそろ片付けて席に戻らないとまずい。
「とにかく、話はわかった。わたしは和玖君と篠原さんの味方だから」
あたたかみのある、心強い言葉だった。思わずあずみは泣きそうになる。
「…ありがとうございます」
「慣習の件は不安だと思うけど、あまり悲観しないで。まだわからないでしょ」
てきぱきと全員分のお弁当のごみを分別しながら、西尾さんは続ける。
「本当は会社が終わった後にでもこのメンバーで話せたらいいんだけどね。しばらく私、都合が悪くて」
「いえ、証言してくれるだけで十分です。ありがとうございます」
「とりあえず、デスクには別々に戻りましょうか。一緒に戻るといろいろ気にするでしょ、あの二人は」
西尾さんの提案の通りあずみ達は別々にデスクに戻り、それから終業までは意外にも穏やかに過ごせた。
もちろん向かいに座る二人から不穏な空気を感じることもあったけれど、午前中に穴が開いたせいか向こうも忙しそうだ。
ふだん三時半に退勤する西尾さんが遅く出社したぶんあずみと同じ時間まで残っていたのが、偶然とはいえとてもあずみには心強く、終業の時間まで仕事に集中することができた。
「西尾さんには言ってなかったんですけど」
「うん?なに、なにか大変なお願い?だからこんなお弁当をごちそうしてくれたの?」
「当たらずとも遠からずです、たぶん。聞いてくれますか」
「聞きますとも」
あずみは二人のやりとりを横から見守っていた。
ここに来るまで創太郎とはなにも打ち合わせていない。でも、西尾さんをランチに誘った時に彼の意図は察していた。
それでも、緊張する。西尾さんはどんな反応をするのか。優しい人だからあからさまに否定的な反応はしないと思うけど、でも、引かれたら…。
「僕と篠原さんですが、付き合ってます。いろいろあって、入社前からの関係です」
「…」
西尾さんは何も言わなかった。
てっきり多少なり驚いた反応を示すと思っていたので、あずみは戸惑った。
「に、西尾さん?」
「えぇっ!?」
どうやら一瞬言葉の意味を理解できず、反応が遅れたらしかった。
西尾さんは慌てて両手で口を覆い、周りをキョロキョロ見渡すと、創太郎とあずみを交互に見て言った。
「…ほんとびっくりしちゃった。全然二人ともそんな素振りないし!」
「驚かせてすみません」
創太郎が謝る。
西尾さんは気にしないでというふうに手をぶんぶん振り、上気した顔で続けた。
「いやでも、そうなればいいのになぁ、とはなんとなく思ってたの。二人とも綺麗な見た目で仕事は超のつく真面目ぶりで性格も良いし、集中してる時の空気感が似てて…」
なんだかすごくはしゃいでいる。あずみは西尾さんの褒めちぎりぶりに赤くなったり照れたり忙しかった。
「入社前からのお付き合いってことは、けっこう長いの?」
「期間としてはまだ長くないんですけど、いろいろありまして。そのあたりの話はまた今度ゆっくり、食事しながらでも」
創太郎の言い方はやわらかかったけれど、話を本題に戻そうとしているのが分かった。
「西尾さんにお願いしたいのは、証言です」
その一言で、敏い彼女はすべてを把握したようだった。
「なるほどね。打ち合わせはその件で?あの二人のどちらかに知られて大騒ぎされたんでしょ」
「僕がうかつでした…街中で買い物をした後に見られたみたいで」
「気にすることない。そんなことで仕事を放って打ち合わせの場で追及しようなんて思う方がどうかしてるんだから」
まるで見ていたかのようにあのふたりの行動を当てるのがすごい。
「それで、証言ってことは他の人にもあることないこと言いふらして問題をでっちあげられそうになってるってこと?」
「まだその段階ではなかったみたいですけど、正直どうなるかわかりません。向こうの良識に期待したいところですが」
創太郎の声のトーンが沈む。
「うちの会社には『社内恋愛はご法度・どちらか転勤の慣習』もありますし」
あずみの手にぎゅっと力が入る。そうなれば転勤になるのはあずみの方だろうと思った。
西尾さんが難しい顔になる。
「ああ、それね…」
商談室の中に重い沈黙が落ちる。手の中のほうじ茶はすっかり冷え切っていた。
「手札をあの二人が握ってるのが気に食わないけど、大丈夫。私だっていくつかカードを持ってるから」
西尾さんが壁の時計をちらりと見た。つられてあずみも確認すると、昼休憩が終わるまであと数分くらいしかなかった。
そろそろ片付けて席に戻らないとまずい。
「とにかく、話はわかった。わたしは和玖君と篠原さんの味方だから」
あたたかみのある、心強い言葉だった。思わずあずみは泣きそうになる。
「…ありがとうございます」
「慣習の件は不安だと思うけど、あまり悲観しないで。まだわからないでしょ」
てきぱきと全員分のお弁当のごみを分別しながら、西尾さんは続ける。
「本当は会社が終わった後にでもこのメンバーで話せたらいいんだけどね。しばらく私、都合が悪くて」
「いえ、証言してくれるだけで十分です。ありがとうございます」
「とりあえず、デスクには別々に戻りましょうか。一緒に戻るといろいろ気にするでしょ、あの二人は」
西尾さんの提案の通りあずみ達は別々にデスクに戻り、それから終業までは意外にも穏やかに過ごせた。
もちろん向かいに座る二人から不穏な空気を感じることもあったけれど、午前中に穴が開いたせいか向こうも忙しそうだ。
ふだん三時半に退勤する西尾さんが遅く出社したぶんあずみと同じ時間まで残っていたのが、偶然とはいえとてもあずみには心強く、終業の時間まで仕事に集中することができた。
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コメント
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コメントを書く梅川いろは
みょうがさん、こちらこそありがとうございました。
みょうが
ありがとうございました