【書籍化】勤め先は社内恋愛がご法度ですが、再会した彼(上司)とまったり古民家ぐらしを始めます。
八月のいちばん長い日 3
社内では淡々としているように見える彼が秘めている仕事への情熱は、並々ならぬものがあると傍から見ていてあずみは感じていた。
正直、彼と再会してまた付き合い始めたころの自分は、大人の彼を好きになったつもりでいたけれど、中学時代の創太郎に対する恋心の延長のようなものを抱いていただけだったように思う。
でも、今は。
今は、違う。
自分は思い出に残る15歳の和玖創太郎ではなく、大人になった彼のことを、改めて好きになったのだ。
真面目で仕事熱心なところ。家事を分担してくれるところ。
お金を支払う場面で、あずみの負担が大きくならないよう、気をつかってくれるところ。
おばあさんと仲が良いところ。ほかにもたくさんある。
いつも彼は、あずみが穏やかな気持ちで日々を過ごせるように気を回してくれる。
あずみと付き合ったことで彼の人格や仕事ぶりが誰かに否定されて、そのせいで今取り組んでいる仕事を取り上げられる可能性があるというのなら。
無念と決意、悲憤の混ざった感情が体の奥から湧き上がって、あずみの顔を熱くした。
創太郎が口を開く。
「篠原さんと僕はお付き合いしています。それは事実として認めます」
視界の端で、寺本さんの体がわずかに揺れた。
創太郎が言葉を続ける。
「ただ、役職者に報告するというのは少し待っていただけませんか」
気負いのない声の中には、有無を言わせない力強さがこもっていた。
寺本さんも上杉さんも口をはさまず、ただ創太郎の話に耳を傾けている。
「たしかにこの会社では、社員同士での恋愛は歓迎されていません。でも、社則にない以上はあくまでごく個人的なプライベートのことですから、それを他の人の口から言われたくないです」
さらに彼は続ける。
「そもそも役職者に報告ということについてですが、業務になんら関係のない色恋沙汰を一方的に知らせて対応を求めるというのは、むしろ寺本さんと上杉さんにとってリスクの伴う行動だと僕は考えます」
もっともな話だった。いくら「社内恋愛はご法度」の姿勢を会社が取っていたとしても、役職者によっては、忙しい業務のさなかに悪意のある告げ口のような報告があれば、むしろ報告してきた人間に対して心象を悪くするだろう。もしくは歯牙にもかけないか。
しなやかに見えて、時には強引にせまるところ。これも創太郎の持っている強みのひとつなのだと感じる。この年齢でリーダーを任されているだけのことはあった。
上杉さんは口をつぐみ落ち着かない様子になり、寺本さんはいまだ強気の姿勢を失わず上目遣いに創太郎を見ていたが、もはや何も言えないようだった。
「僕の言いたいことは以上です。この後もみなさん仕事が立て込んでいると思うので、この打ち合わせは終わりにしようと思っていますが、他には何かありますか?」
誰も返事をしなかったけれど、創太郎がタブレットと手帳を片付けたことで、完全に会議室の中はお開きの空気になっていた。
「では、終了することといたします」
寺本さんと上杉さんは無言でさっさと立ち上がり、オフィスとは逆方向に歩いて行ってしまった。このまま昼休憩に入るのだろう。
いまの空気のままデスクに戻って顔を突き合わせるのはつらく、それはおそらく向こうも同じなのだと思った。
何かを心配するような目でこちらを見ていた彼と目が合う。
笑って大丈夫だよ、と言おうとして、声が出なかった。
(あれ、なんだろうこれ…視界がせまい。暗い)
正直、彼と再会してまた付き合い始めたころの自分は、大人の彼を好きになったつもりでいたけれど、中学時代の創太郎に対する恋心の延長のようなものを抱いていただけだったように思う。
でも、今は。
今は、違う。
自分は思い出に残る15歳の和玖創太郎ではなく、大人になった彼のことを、改めて好きになったのだ。
真面目で仕事熱心なところ。家事を分担してくれるところ。
お金を支払う場面で、あずみの負担が大きくならないよう、気をつかってくれるところ。
おばあさんと仲が良いところ。ほかにもたくさんある。
いつも彼は、あずみが穏やかな気持ちで日々を過ごせるように気を回してくれる。
あずみと付き合ったことで彼の人格や仕事ぶりが誰かに否定されて、そのせいで今取り組んでいる仕事を取り上げられる可能性があるというのなら。
無念と決意、悲憤の混ざった感情が体の奥から湧き上がって、あずみの顔を熱くした。
創太郎が口を開く。
「篠原さんと僕はお付き合いしています。それは事実として認めます」
視界の端で、寺本さんの体がわずかに揺れた。
創太郎が言葉を続ける。
「ただ、役職者に報告するというのは少し待っていただけませんか」
気負いのない声の中には、有無を言わせない力強さがこもっていた。
寺本さんも上杉さんも口をはさまず、ただ創太郎の話に耳を傾けている。
「たしかにこの会社では、社員同士での恋愛は歓迎されていません。でも、社則にない以上はあくまでごく個人的なプライベートのことですから、それを他の人の口から言われたくないです」
さらに彼は続ける。
「そもそも役職者に報告ということについてですが、業務になんら関係のない色恋沙汰を一方的に知らせて対応を求めるというのは、むしろ寺本さんと上杉さんにとってリスクの伴う行動だと僕は考えます」
もっともな話だった。いくら「社内恋愛はご法度」の姿勢を会社が取っていたとしても、役職者によっては、忙しい業務のさなかに悪意のある告げ口のような報告があれば、むしろ報告してきた人間に対して心象を悪くするだろう。もしくは歯牙にもかけないか。
しなやかに見えて、時には強引にせまるところ。これも創太郎の持っている強みのひとつなのだと感じる。この年齢でリーダーを任されているだけのことはあった。
上杉さんは口をつぐみ落ち着かない様子になり、寺本さんはいまだ強気の姿勢を失わず上目遣いに創太郎を見ていたが、もはや何も言えないようだった。
「僕の言いたいことは以上です。この後もみなさん仕事が立て込んでいると思うので、この打ち合わせは終わりにしようと思っていますが、他には何かありますか?」
誰も返事をしなかったけれど、創太郎がタブレットと手帳を片付けたことで、完全に会議室の中はお開きの空気になっていた。
「では、終了することといたします」
寺本さんと上杉さんは無言でさっさと立ち上がり、オフィスとは逆方向に歩いて行ってしまった。このまま昼休憩に入るのだろう。
いまの空気のままデスクに戻って顔を突き合わせるのはつらく、それはおそらく向こうも同じなのだと思った。
何かを心配するような目でこちらを見ていた彼と目が合う。
笑って大丈夫だよ、と言おうとして、声が出なかった。
(あれ、なんだろうこれ…視界がせまい。暗い)
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