【書籍化】勤め先は社内恋愛がご法度ですが、再会した彼(上司)とまったり古民家ぐらしを始めます。
おはようとおやすみの間のこと 6 ※R-15
「着替えるのは後にして、とりあえずごはんにしようか」
「そうだね。お腹空いちゃったし」
家に着いて、洗面所で創太郎が手を洗いながら提案してきたのを、あずみは何の否やもなく承諾した。
お祭りに行っていた時間は幸いにもずっと涼しい風が吹いていて、さほど汗をかかずに済んだのだ。それにもう少し、彼の浴衣姿を眺めていたいというのもある。
あずみは創太郎にたすきがけをしてもらい、キッチンに立つと、サラダを作ることにした。
「そういえば創太郎君、自分で着るだけじゃなくて、人の着てる浴衣を直すのも出来るんだね」
「ああ、おばあちゃんに仕込まれたんだよ。着道楽のじいちゃんが遺した着物をお前が受け継ぎなさい!着ないともったいない!って。まぁほとんど着てないけどね」
「そうなんだ。私は一人で着られないから尊敬するよ、そういうの」
ほど良く熟れたトマトを洗いながらあずみが言うと、創太郎が真後ろに立って、シンクのふちに手をついた。体が密着して、落ち着かない気持ちになる。
「今度教えるよ。手取り足取り」
耳元に吐息交じりの悪戯っぽい声で言われて、ぴくりと体が反応してしまう。
「…自分で勉強するので、大丈夫です。おばあさんが帰ってきた時に教えてもらえるかもしれないし。あ、そういえば町内会の皆さん、みんなパワフルというか、元気で良い人たちだね」
やや強引に話題を変えると、創太郎は意外にもあっさりあずみから離れてくれた。
「うん。とにかく食べさせようしてくるから困る時もあるけどね。野菜とか、本当にどう考えても食べきれるわけがないだろうっていう量をくれたりするし。ありがたいことだけど」
淡々と言いながら食器棚から取り皿やビール用の小ぶりなグラスを取り出し、ダイニングテーブルに並べてくれる。
「今まで、そういう時ってどうしてたの?」
あずみが来るまで、創太郎はたまにパスタを作るくらいでほぼ自炊をしていなかったらしい。野菜をもらっても持て余していたのではないだろうか。
「社食の厨房に持って行って使ってもらえるようお願いしたり、あとは西尾さんにあげたりしてたよ」
「そっか、痛んだらもったいないしね」
会話をしながら準備をしているうちに、食卓が整った。
屋台で買ってきたたこ焼きと焼きそばはあえてパックのままテーブルに置き、他にはトマトサラダと、昨日のバーベキューで残ったウインナーを焼いたものを並べた。
創太郎が冷凍室でギリギリまで冷やしておいた瓶ビールの栓を抜き、あずみのグラスに注いでくれる。黄金色が入ったグラスの外側は、すぐに白く曇った。
「ありがとう」
浴衣で飲むビールは最高だった。二人ともほろ酔いになりながらくだらない話をして、笑い合う。
あずみが酔い覚ましの水を冷蔵庫から持ってこようと立ち上がり、創太郎の横を通ろうとした時、ぐいっと手首を引かれて、膝の上に横向きに座らされてしまった。
「出かける前の、つづき」
「え、でも…んぅ、」
創太郎はあずみの困惑などおかまいなしに唇を重ねた。
「ふ…」
戸惑いながら必死にキスに応じていると、胸の下の帯を締めていたあたりがふわりと楽になる感触があって、帯や腰ひもが緩められたのだとわかった。
「ん、や…」
襟元から侵入した彼の手に、既に敏感になっていた素肌を撫でられる。そのままじわじわ追い詰めるような愛撫が続いて、横抱きにされリビングのソファに降ろされた。
その後はもう、何も考えられなかった。
いつのまにか、夏の夜はとっぷりと深まっている。
ひとつに溶けあった部分から広がる熱いうねりはその夜、とどまるところを知らなかった。いちばん高いところに昇りつめてなおその先を求めるように、奥へ奥へと彼から追い立てられ、いつしかあずみは堪えきれずに高く掠れた声を上げると、意識を手放していた。
雨戸を開け放った部屋には、この時間いつも心地よい風が通り、熱を持った肌を優しく冷やしてくれる。
体を重ねている時はいっぱいいっぱいであまり何も考えられないけれど、終わった後の落ち着いて過ごせるこの時間があずみはとても好きだった。
いつの間にか流れていた涙をぬぐうように、彼のやわらかい唇がそっと目尻に触れた。
乱れた髪を梳くようにしなやかな指が通されると、心が満たされて眠気が襲ってくる。
そんな風にして、今日も楽しくて幸せな、彼との一日が終わっていく。
こんな穏やかな日々がずっと長く続きますように。
眠りに落ちる直前の、まだ意識を保っていられるほんの一瞬のあいださえ、あずみは祈らずにはいられなかった。
「そうだね。お腹空いちゃったし」
家に着いて、洗面所で創太郎が手を洗いながら提案してきたのを、あずみは何の否やもなく承諾した。
お祭りに行っていた時間は幸いにもずっと涼しい風が吹いていて、さほど汗をかかずに済んだのだ。それにもう少し、彼の浴衣姿を眺めていたいというのもある。
あずみは創太郎にたすきがけをしてもらい、キッチンに立つと、サラダを作ることにした。
「そういえば創太郎君、自分で着るだけじゃなくて、人の着てる浴衣を直すのも出来るんだね」
「ああ、おばあちゃんに仕込まれたんだよ。着道楽のじいちゃんが遺した着物をお前が受け継ぎなさい!着ないともったいない!って。まぁほとんど着てないけどね」
「そうなんだ。私は一人で着られないから尊敬するよ、そういうの」
ほど良く熟れたトマトを洗いながらあずみが言うと、創太郎が真後ろに立って、シンクのふちに手をついた。体が密着して、落ち着かない気持ちになる。
「今度教えるよ。手取り足取り」
耳元に吐息交じりの悪戯っぽい声で言われて、ぴくりと体が反応してしまう。
「…自分で勉強するので、大丈夫です。おばあさんが帰ってきた時に教えてもらえるかもしれないし。あ、そういえば町内会の皆さん、みんなパワフルというか、元気で良い人たちだね」
やや強引に話題を変えると、創太郎は意外にもあっさりあずみから離れてくれた。
「うん。とにかく食べさせようしてくるから困る時もあるけどね。野菜とか、本当にどう考えても食べきれるわけがないだろうっていう量をくれたりするし。ありがたいことだけど」
淡々と言いながら食器棚から取り皿やビール用の小ぶりなグラスを取り出し、ダイニングテーブルに並べてくれる。
「今まで、そういう時ってどうしてたの?」
あずみが来るまで、創太郎はたまにパスタを作るくらいでほぼ自炊をしていなかったらしい。野菜をもらっても持て余していたのではないだろうか。
「社食の厨房に持って行って使ってもらえるようお願いしたり、あとは西尾さんにあげたりしてたよ」
「そっか、痛んだらもったいないしね」
会話をしながら準備をしているうちに、食卓が整った。
屋台で買ってきたたこ焼きと焼きそばはあえてパックのままテーブルに置き、他にはトマトサラダと、昨日のバーベキューで残ったウインナーを焼いたものを並べた。
創太郎が冷凍室でギリギリまで冷やしておいた瓶ビールの栓を抜き、あずみのグラスに注いでくれる。黄金色が入ったグラスの外側は、すぐに白く曇った。
「ありがとう」
浴衣で飲むビールは最高だった。二人ともほろ酔いになりながらくだらない話をして、笑い合う。
あずみが酔い覚ましの水を冷蔵庫から持ってこようと立ち上がり、創太郎の横を通ろうとした時、ぐいっと手首を引かれて、膝の上に横向きに座らされてしまった。
「出かける前の、つづき」
「え、でも…んぅ、」
創太郎はあずみの困惑などおかまいなしに唇を重ねた。
「ふ…」
戸惑いながら必死にキスに応じていると、胸の下の帯を締めていたあたりがふわりと楽になる感触があって、帯や腰ひもが緩められたのだとわかった。
「ん、や…」
襟元から侵入した彼の手に、既に敏感になっていた素肌を撫でられる。そのままじわじわ追い詰めるような愛撫が続いて、横抱きにされリビングのソファに降ろされた。
その後はもう、何も考えられなかった。
いつのまにか、夏の夜はとっぷりと深まっている。
ひとつに溶けあった部分から広がる熱いうねりはその夜、とどまるところを知らなかった。いちばん高いところに昇りつめてなおその先を求めるように、奥へ奥へと彼から追い立てられ、いつしかあずみは堪えきれずに高く掠れた声を上げると、意識を手放していた。
雨戸を開け放った部屋には、この時間いつも心地よい風が通り、熱を持った肌を優しく冷やしてくれる。
体を重ねている時はいっぱいいっぱいであまり何も考えられないけれど、終わった後の落ち着いて過ごせるこの時間があずみはとても好きだった。
いつの間にか流れていた涙をぬぐうように、彼のやわらかい唇がそっと目尻に触れた。
乱れた髪を梳くようにしなやかな指が通されると、心が満たされて眠気が襲ってくる。
そんな風にして、今日も楽しくて幸せな、彼との一日が終わっていく。
こんな穏やかな日々がずっと長く続きますように。
眠りに落ちる直前の、まだ意識を保っていられるほんの一瞬のあいださえ、あずみは祈らずにはいられなかった。
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