【書籍化】勤め先は社内恋愛がご法度ですが、再会した彼(上司)とまったり古民家ぐらしを始めます。

梅川いろは

おはようとおやすみの間のこと 4

 まだ日は沈んでいないけれど、すでに境内にはオレンジ色の明りがぽつぽつともっている。


 広くない参道にひしめき合うように、たこ焼き、焼きそば、りんご飴、フランクフルトなどの定番ものの屋台が並んでいた。若者に人気のありそうなチーズハットグやケバブ、もはや定番になりつつあるタピオカドリンクの屋台も出ているようだ。

 太いストローの刺さったドリンクを片手に持った高校生くらいの数人の後ろを、子どもたちがくじびきの景品らしいビニールトイを振り回しながら走っている。同行していたお母さんに「走らない!」とたしなめられていた。

 スピーカーが古いのか、会場内に流れる祭囃子はややひび割れている。

 いかにも夏祭りの夜らしい賑やかな空気を肌で感じて、ああ、お祭りに来たのだなとあずみは実感した。

「お祭りなんて久しぶり。なんかこう…高まるね」

「うん。独特の高揚感があるよね」

 いつも野菜などをくれる農家さんや、町内会のみなさんが敷地内の集会所で宴会をしているということで先にそちらに向かい、すでに挨拶やお礼は済ませてあった。

 お酒を飲んで上機嫌になったみなさんにおおいに冷やかされて、あずみは赤くなったり謙遜したり、汗をかいたり、なかなか忙しかった。

 ぜひとも上がって一杯飲んでいきなさい、という町内会長さんの誘いは創太郎がうまくかわしてくれたので、これから二人でお祭りを楽しむつもりだ。

 ちょうどお腹の空いてくる時間帯なせいか、どこの屋台も人が並んでいた。

「学生の時にバイトで屋台というか、対面販売の仕事をしたことがあるけど、お客さんに直接売るのってすごく楽しいんだよね。またやりたいなぁ」

「お客さんの顔を見ながら商品を直接売るっていうのはやりがいがありそうだね」

「そういえば、創太郎君は学生時代って何かアルバイトとかしてたの?」

「やってたよ。土日がつぶれるから大変といえば大変だったけど、待機時間が長いから本読んだり課題やったり出来たし、今考えたら割の良いバイトだったな」

 へぇ、と感嘆の声が出た。何をやっていたんだろう。にわかに興味がわいて訊ねる。

「ちなみに、なんのバイトだったの」

 創太郎はなぜかニヤリと笑った。

「運び屋」

「え、は…こび屋?」

 運び屋という単語を聞いてあずみの脳裏に浮かんだのは、法律で禁止されている薬物(小分けの袋に入った白い粉で、密輸が摘発された時のニュースでは末端価格でいくらということが報道されたりする)や、殺傷能力が高くやはり国内では一般人の所持が禁止されている武器(いわゆる拳銃)だった。

 あずみの反応を見て、彼はなにやら満足そうな顔をした。

「何をイメージしたのかはだいたいわかるけど、法に触れるようなことはしてないから大丈夫」

「そ、そうなんだ?」

「俺がやってたのは個人輸入だね。飲食店と契約して、海外で現地の香辛料とか食材を買いつけてくるんだよ。飛行機の搭乗距離が長くなるから航空会社の上級会員にもなれたし、何よりマーケティングの勉強になった」

「すごいね。それってお父さんの提案とか?」

 創太郎のお父さんは国内の五大商社と呼ばれる総合商社のひとつに勤務していて、今はイスラエル経済の中心地であるテルアビブに駐在していると聞いた。そういう人だから、「海外で買って国内で売る」ということに関してはプロ中のプロのはずだ。



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