【書籍化】勤め先は社内恋愛がご法度ですが、再会した彼(上司)とまったり古民家ぐらしを始めます。
おはようとおやすみの間のこと 2
昼過ぎまでは二人とも予定がなかったので、縁側に座ってラジオを聴きながらスイカをかじって、のんびり過ごした。
その後は神社で行われる町内会の夏祭りに行く予定だ。
スイカは昨日家に帰ってきたら玄関先に段ボールが4つ置いてあって、誰かがおすそ分けしてくれたらしかった。
こんな風に近隣の誰かが野菜や果物を無言で玄関に置いてくれるのは、こちらではよくあることなのだという。傘地蔵みたいで感動する。
今回のスイカは二件向こうの農家さん(といってもけっこう遠い)が毎年くれるものらしい。
二人で食べきれるかと心配するくらいの量だったけれど、スイカは包丁を入れずそのままの状態ならけっこう日持ちするということで、とりあえずは慌てなくて済んだ。
箸の先を使ってスイカの種を取りながら、創太郎はヤマノ化成でも秋にお祭りがあることを教えてくれた。
「秋祭り?あ、会社のウェブサイトで見た記憶が」
「そう。毎年10月の第二週の土曜日に会社の敷地内で、地域の人向けにね。普通のお祭りの屋台より食べ物をかなり安く出すからけっこうたくさん人が来るよ」
「へえ。自社製品を地域還元価格でご提供、みたいなコーナーもあったりする?」
「…それをうちの会社がやると、生分解性プラスチックの販売とかになっちゃうから、一般の人にはあまりウケないかもね。出すのは定番の焼きそばとかたこ焼きとか、抽選だとか、あとはカラオケもあるよ」
そちらの準備は9月から始まるらしい。
「各部署から何人か実行委員を選出するんだけど、もしかしたら篠原さんに話が来るかもしれない。会社としては研修の一環でやってるから、経験してない人優先なんだ」
「そうなんだ?お役に立てるかわからないけど、やるからには頑張らなきゃね」
「着ぐるみの役もあるよ。昔、会社のイメージキャラクターだったヤマノぼうやの」
「何それ、やりたい」
あずみが思わず目を輝かせると、創太郎は「言うと思った」と笑った。
「俺も入社一年目にやりたくて志願したけど、外されたな。背が高いと怖すぎるって」
ぼそりと創太郎が言う。そこはかとなく無念そうな表情だった。
大人になった創太郎は外見から受ける印象がクールなのもあって、着ぐるみを着たがるようには全く見えない。
  けれど、よくよく思い出してみれば中学生の時の彼は意外と好奇心旺盛なところのある少年だった。
「着ぐるみ、私もやったことないけど楽しそうだよね。ちびっ子がたくさん群がりそうで」
「うん。ずっと一人っ子で弟とか妹が欲しかったから、子ども見てると楽しくなる」
「じゃあもし私が着ぐるみに入れたら、和玖君のところにたくさん子ども連れてくるね」
あずみがそう言うと、創太郎は一瞬驚いた顔になった後、「楽しみにしてる」と笑った。
そういえば、とあずみは思い出す。
「町内会の人たちって、私のこと何て聞いてるのかな…?変な風に思われたりしない?大丈夫?」
『和玖さんのお孫さんのところに変な女が押しかけてきて住み着いてるらしい』だとか、『さすが色男は違うね』とか、『若い人はいいね。いよっ!ひゅーひゅー』みたいなことを言われていたらと想像すると、いたたまれない気持ちになる。
「あー…それね、」
「え、なに」
創太郎が言いにくそうにするので、あずみは不安になった。
「ごめん、先に謝る。おばあちゃんが適当に話を盛って、『学生時代に付き合ってた創太郎の彼女が、ついにこっちに来てくれることになったからみなさんよろしくお願いします』って勝手に広めてて…だから今日会ったら冷やかされたりするかも」
「えぇっ!?」
びっくりして声が裏返ってしまった。内容から察するに、おばあさんが高齢者住宅に入居する前、つまりあずみがこちらに引っ越してくる前からそう紹介していたということだ。
なんと気の早い…というか、二人が付き合わなかったらどうするつもりだったのだろう。
いやでも、自分たちは中学生のころお付き合いをしていたから、一番最初に「中」をつければ全くのウソでもないような。
創太郎が「ホントごめん…」とうなだれる。
「そ…そうなんだ?でも、その後きちんとお付き合いすることになったから、いいんじゃない?」
昨日おばあさんと話している時にも感じたけれど、なんだか自分はすごく気に入ってもらっているのかも知れないと、改めてあずみは思った。
その後は神社で行われる町内会の夏祭りに行く予定だ。
スイカは昨日家に帰ってきたら玄関先に段ボールが4つ置いてあって、誰かがおすそ分けしてくれたらしかった。
こんな風に近隣の誰かが野菜や果物を無言で玄関に置いてくれるのは、こちらではよくあることなのだという。傘地蔵みたいで感動する。
今回のスイカは二件向こうの農家さん(といってもけっこう遠い)が毎年くれるものらしい。
二人で食べきれるかと心配するくらいの量だったけれど、スイカは包丁を入れずそのままの状態ならけっこう日持ちするということで、とりあえずは慌てなくて済んだ。
箸の先を使ってスイカの種を取りながら、創太郎はヤマノ化成でも秋にお祭りがあることを教えてくれた。
「秋祭り?あ、会社のウェブサイトで見た記憶が」
「そう。毎年10月の第二週の土曜日に会社の敷地内で、地域の人向けにね。普通のお祭りの屋台より食べ物をかなり安く出すからけっこうたくさん人が来るよ」
「へえ。自社製品を地域還元価格でご提供、みたいなコーナーもあったりする?」
「…それをうちの会社がやると、生分解性プラスチックの販売とかになっちゃうから、一般の人にはあまりウケないかもね。出すのは定番の焼きそばとかたこ焼きとか、抽選だとか、あとはカラオケもあるよ」
そちらの準備は9月から始まるらしい。
「各部署から何人か実行委員を選出するんだけど、もしかしたら篠原さんに話が来るかもしれない。会社としては研修の一環でやってるから、経験してない人優先なんだ」
「そうなんだ?お役に立てるかわからないけど、やるからには頑張らなきゃね」
「着ぐるみの役もあるよ。昔、会社のイメージキャラクターだったヤマノぼうやの」
「何それ、やりたい」
あずみが思わず目を輝かせると、創太郎は「言うと思った」と笑った。
「俺も入社一年目にやりたくて志願したけど、外されたな。背が高いと怖すぎるって」
ぼそりと創太郎が言う。そこはかとなく無念そうな表情だった。
大人になった創太郎は外見から受ける印象がクールなのもあって、着ぐるみを着たがるようには全く見えない。
  けれど、よくよく思い出してみれば中学生の時の彼は意外と好奇心旺盛なところのある少年だった。
「着ぐるみ、私もやったことないけど楽しそうだよね。ちびっ子がたくさん群がりそうで」
「うん。ずっと一人っ子で弟とか妹が欲しかったから、子ども見てると楽しくなる」
「じゃあもし私が着ぐるみに入れたら、和玖君のところにたくさん子ども連れてくるね」
あずみがそう言うと、創太郎は一瞬驚いた顔になった後、「楽しみにしてる」と笑った。
そういえば、とあずみは思い出す。
「町内会の人たちって、私のこと何て聞いてるのかな…?変な風に思われたりしない?大丈夫?」
『和玖さんのお孫さんのところに変な女が押しかけてきて住み着いてるらしい』だとか、『さすが色男は違うね』とか、『若い人はいいね。いよっ!ひゅーひゅー』みたいなことを言われていたらと想像すると、いたたまれない気持ちになる。
「あー…それね、」
「え、なに」
創太郎が言いにくそうにするので、あずみは不安になった。
「ごめん、先に謝る。おばあちゃんが適当に話を盛って、『学生時代に付き合ってた創太郎の彼女が、ついにこっちに来てくれることになったからみなさんよろしくお願いします』って勝手に広めてて…だから今日会ったら冷やかされたりするかも」
「えぇっ!?」
びっくりして声が裏返ってしまった。内容から察するに、おばあさんが高齢者住宅に入居する前、つまりあずみがこちらに引っ越してくる前からそう紹介していたということだ。
なんと気の早い…というか、二人が付き合わなかったらどうするつもりだったのだろう。
いやでも、自分たちは中学生のころお付き合いをしていたから、一番最初に「中」をつければ全くのウソでもないような。
創太郎が「ホントごめん…」とうなだれる。
「そ…そうなんだ?でも、その後きちんとお付き合いすることになったから、いいんじゃない?」
昨日おばあさんと話している時にも感じたけれど、なんだか自分はすごく気に入ってもらっているのかも知れないと、改めてあずみは思った。
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