【書籍化】勤め先は社内恋愛がご法度ですが、再会した彼(上司)とまったり古民家ぐらしを始めます。

梅川いろは

これからのこと、託されたもの 6

 カーテン越しの日差しを感じて、寝坊したかと一瞬どきりとした。

 今日は日曜だったと思い直し、創太郎が目を開けると、目の前には彼女の清らかな寝顔があった。

 すうすうと可愛らしい寝息を立てて、よく眠っている。

 長いまつ毛やぴったりと閉じられた唇を見ていると、この上なく心が和んだが、直後に彼女が何も身につけておらず、首筋から胸元まで滑らかな肌を露出させていることに気がつくと、激しい渇きのような欲望が押し寄せて、下腹が疼いた。

 せっかく寝ているのを起こしてまでするのはどうなのかという良識と、少しちょっかいを出してみて、あまり嫌ではなさそうなら進んでしまえというやましい考えが頭の中をよぎる。

 よこしまな視線を感じ取ったのか、彼女のまつ毛がわずかに震えてどきりとした。

 少し緊張しながら見守っていたけれど、目が覚めたわけではなかったようで安心する。

 結局創太郎は彼女の健やかな眠りを尊重することにした。

 

 彼女と引き離された後、高校から学生時代の後半まで、言い寄ってくる女たちとやけくそのように関係を持っていた時期がある。

 そうすれば彼女を忘れることが出来るかもしれないと思ったし、もしかしたら中には彼女のような女がいて、彼女が近くにいた時に満たされていたものがまた戻ってくるかもしれないという気がしたからだ。

 それがある日、全く興味がなくなった。

 誰と付き合っても、彼女といた時のような気持ちにはならないとわかったから。

 相手に対しての感情がなく、この先も気持ちは芽生えないとわかりきっているのに、関係を持ってはいけないと悟った。

 その頃にはもう誰も彼女の代わりには成りえないし、満たせるはずもないと気がついていた。

 せっかく奇跡的に再会して今度は結ばれることが出来たのだから、今度は何を犠牲にしてでも彼女を守り慈しみ、大事にしなければ。

 もう誰かに壊されるのはごめんだった。次に壊されたら、自分はもう立ち直れない気がする。

 だから、壊されないように守る。

 壊そうと近づいてくるものを壊す。

 ただ、それだけのこと。



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