【書籍化】勤め先は社内恋愛がご法度ですが、再会した彼(上司)とまったり古民家ぐらしを始めます。

梅川いろは

これからのこと、託されたもの 5

 並木通りに出ると、むせかえるような夏の熱気に包まれた。あずみは横付けされた車に避難するように乗り込み、シートベルトを着ける。

「はー、楽しかった。また来たいね。おばあさんのお友達にもお会いしてみたいし」

「そうなったらいよいよ俺は話についていけなくなりそう」

 あずみはそれを想像して、ぷっと吹き出しそうになった。かしましいおばあさんがたに圧倒される創太郎は、ちょっと見てみたい。

 ケーキを食べたばかりなのでランチはパスして帰り、早めに晩ごはんを食べようということになった。

 予報を確認すると午後からも天気が良いことがわかって、庭でささやかにバーベキューでもしようかと創太郎が提案し、あずみは目を輝かせた。

 百貨店の地下にある食品街で普段はあまり食べないようなグラム600円以上もする良いお肉や、国産の牛たんを買い、他にはきのこ類、チーズなどを買った。

 グロッサリーに立ち寄って、ワインやクラフトビールを選ぶのも忘れない。

「本当に他に寄らなくて大丈夫?服とか靴とか見たいんじゃないの」

 久しぶりに街中に出てきたあずみを創太郎が気遣ってくれる。

「今期は夏服もうけっこう買ったから、今日はやめとこうかな。和玖君は良いの?」

「俺も今日は良いかな」

 創太郎の私服はいつも品が良くシンプルなのに、いわゆるこなれ感もあるコーデだった。今日はワッフル素材のカットソーに、クロップド丈の細身のパンツを合わせている。

「じゃあもう帰ろうか。俺、炭火おこすの久しぶりだし時間かかりそう。途中で着火剤も買わないと」

 両手に紙袋を下げた彼が自信なさげに言う。あずみは張り切って「手伝うよ」と言い、二人は駐車場に向かうと車に乗り込んだ。

 楽しい予定を控えて笑い合う自分たちをじっと見つめる人がいたことには、あずみも創太郎も全く気がつかなかった。


「蚊が多いから、こまめに虫よけしたほうがいいよ」

 そう言って創太郎は虫よけスプレーをあずみの体にかけてくれた。

 バーベキューコンロと屋外用チェアを二脚用意して炭火を熾し、食材をテーブルに並べたころには、少し日が傾いてきていた。

 まずは良く冷やしたサラダとチーズで乾杯して、その後は焦がさないように気をつけながら、お肉や野菜、きのこを焼く。

 やはり最初は火力が強くなってしまいがちで、網に載せた食材から目が離せない。

 横では創太郎が小さいスキレットにオリーブオイルとにんにく、鷹の爪、きのこ類、むきエビを入れてアヒージョを作ってくれた。

「美味しそう!アヒージョ好き」

「バゲット買ってくるの忘れた…」

 創太郎が残念そうに言った。たしかにオイルのしみたバゲットは美味しい。

「オイルが余ったら明日パスタにしよう。野菜もたくさん入れて」

 そう言ってあずみはおにぎりを頬張る。何を食べても飲んでもとても美味しくて、会話も弾んだ。創太郎もいつもよりたくさん笑っている。

 涼しくなったら二人でキャンプにも行きたいねという話になり、創太郎が淡々と言う。

「テントだと声とか音とか気を遣うな…とにかくゴムを忘れないようにして、すぐ取り出せるようにしておかないと」

「ちょっと、何言ってるのかわからないです…」 

 二人ともほろ酔いで後片付けをした後、創太郎があずみの手首に虫刺されを見つけた。濃い桃色の小さな腫れを見て『虫め…』と毒づく彼が可愛らしかった。

 そのまま手を引かれて一緒にシャワーに入る。当然のようにキスが始まって、かなりきわどいところまで行ったけれど、髪を乾かしてから寝たいのと、近くに避妊具もないので何とか思いとどまってもらった。

 それにしても、今日は風の少ない熱帯夜で、シャワーを浴びたばかりなのにもう汗をかいている。冷水を飲み、ハンディタイプの扇風機で涼しい風を受けながら歯みがきをして自室に戻ろうとすると、彼の腕に引かれて部屋に連れ込まれてしまった。





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