【書籍化】勤め先は社内恋愛がご法度ですが、再会した彼(上司)とまったり古民家ぐらしを始めます。
これからのこと、託されたもの 3
「楽しむのは良いけど、体調管理はしっかりね。この後ケーキ食べたら運動もした方が良いんじゃない」
創太郎が釘を刺すと、おばあさんが反論した。
「運動なら毎日やってるわよ。さっきエレベーターの前で会ったトレーナーの女の子にしごかれて大変なんだから。本気よ、あの子は。容赦がないのよ」
しごかれているおばあさんを想像すると笑ってしまう。創太郎を見ると彼も笑顔になっていた。あずみに見せるのとはまた少し違う、親愛にちょっぴりの呆れを混ぜたような表情だ。
(か…かわいい。こんな顔もするんだな…)
そんなことを考えてあずみが胸をときめかせている時、おばあさんはそれを見て悪い顔でニヤニヤとしていたのだけれど、全くあずみは気がつかなかった。
「あずみさん、あの家には慣れた?古い家だから使いにくい部分もあるでしょう」
「いえ、使いにくいなんて思いません。とても居心地の良いお家で、毎日楽しいです」
おばあさんはにっこりした。
「あらそう?家と同じで調理器具なんかも古いものばかりだから、申し訳なく思っていたのよ」
「いえそんな。ガスの炊飯器で炊くお米は美味しいし、鉄のフライパンは今まで使ったことがなかったんですけど、お肉も野菜も早く焼けて美味しいからびっくりしました」
「そうそう、フッ素も良いけれど、また違った良さがあるでしょう」
「はい。農家さんから美味しいお野菜もいただけるし、食べ過ぎて少し太ったかもしれません」
あずみがそう言うと、それまで二人の会話を黙って聞いていた創太郎が表情を変えずにぴくりと動いた。
(…?何か変な事言ったかな)
おばあさんの笑みが深くなる。
「ちっとも太ってないから大丈夫よ。ねぇ、創太郎?」
「え、俺に聞かれてもわかんないよ」
その後も楽しい会話が続いた。
おばあさんは意外とSっ気があるというか、終始創太郎のことをからかったり、創太郎がやり返すととぼけたりしていて、二人のやり取りを見ているだけで笑ってしまう。
「あらやだ、もうこんな時間。ケーキ食べてお茶飲んだら、もう行きなさい」
「まだ11時だよ」
「こっちも昼食があるから忙しいのよ。エアコンが効いて寒いくらいだから、温かい飲み物が良いわね」
おばあさんは立ち上がって簡易キッチンの戸棚を探ると、やや大きな声で言った。
「あらっ!お紅茶切らしてたんだったわ」
大仰な素振りで、くるりと創太郎を振り返って言う。
「創太郎、下の売店で買ってきて。ティーバッグので良いから」
「コーヒーじゃダメなの。いまパッケージが見えたけど」
「昼前のすきっ腹にコーヒーなんて飲んだら胃が荒れちゃうでしょ。牛乳もないし」
「…わかったよ。紅茶と、あとは牛乳?」
「それで良いわ。お願いね。これお金。おつりでごはんでも食べなさい」
そう言っておばあさんはフランスの老舗ハイブランドの長財布から、福沢諭吉がプリントされたお札をさらりと取り出し、創太郎にぐいぐい押し付けた。
「いや多いよ。ていうかそれくらい出すから良いのに」
「いいから、とっときなさい。ごめんねぇ、あずみさんの前で下品なやり取りしちゃって」
創太郎はしぶしぶお札を受け取っておばあさんにお礼を言い、部屋を出ていった。
(お金、受け取ってたけど後でさりげなく返すんだろうな。創太郎君のことだから)
創太郎が釘を刺すと、おばあさんが反論した。
「運動なら毎日やってるわよ。さっきエレベーターの前で会ったトレーナーの女の子にしごかれて大変なんだから。本気よ、あの子は。容赦がないのよ」
しごかれているおばあさんを想像すると笑ってしまう。創太郎を見ると彼も笑顔になっていた。あずみに見せるのとはまた少し違う、親愛にちょっぴりの呆れを混ぜたような表情だ。
(か…かわいい。こんな顔もするんだな…)
そんなことを考えてあずみが胸をときめかせている時、おばあさんはそれを見て悪い顔でニヤニヤとしていたのだけれど、全くあずみは気がつかなかった。
「あずみさん、あの家には慣れた?古い家だから使いにくい部分もあるでしょう」
「いえ、使いにくいなんて思いません。とても居心地の良いお家で、毎日楽しいです」
おばあさんはにっこりした。
「あらそう?家と同じで調理器具なんかも古いものばかりだから、申し訳なく思っていたのよ」
「いえそんな。ガスの炊飯器で炊くお米は美味しいし、鉄のフライパンは今まで使ったことがなかったんですけど、お肉も野菜も早く焼けて美味しいからびっくりしました」
「そうそう、フッ素も良いけれど、また違った良さがあるでしょう」
「はい。農家さんから美味しいお野菜もいただけるし、食べ過ぎて少し太ったかもしれません」
あずみがそう言うと、それまで二人の会話を黙って聞いていた創太郎が表情を変えずにぴくりと動いた。
(…?何か変な事言ったかな)
おばあさんの笑みが深くなる。
「ちっとも太ってないから大丈夫よ。ねぇ、創太郎?」
「え、俺に聞かれてもわかんないよ」
その後も楽しい会話が続いた。
おばあさんは意外とSっ気があるというか、終始創太郎のことをからかったり、創太郎がやり返すととぼけたりしていて、二人のやり取りを見ているだけで笑ってしまう。
「あらやだ、もうこんな時間。ケーキ食べてお茶飲んだら、もう行きなさい」
「まだ11時だよ」
「こっちも昼食があるから忙しいのよ。エアコンが効いて寒いくらいだから、温かい飲み物が良いわね」
おばあさんは立ち上がって簡易キッチンの戸棚を探ると、やや大きな声で言った。
「あらっ!お紅茶切らしてたんだったわ」
大仰な素振りで、くるりと創太郎を振り返って言う。
「創太郎、下の売店で買ってきて。ティーバッグので良いから」
「コーヒーじゃダメなの。いまパッケージが見えたけど」
「昼前のすきっ腹にコーヒーなんて飲んだら胃が荒れちゃうでしょ。牛乳もないし」
「…わかったよ。紅茶と、あとは牛乳?」
「それで良いわ。お願いね。これお金。おつりでごはんでも食べなさい」
そう言っておばあさんはフランスの老舗ハイブランドの長財布から、福沢諭吉がプリントされたお札をさらりと取り出し、創太郎にぐいぐい押し付けた。
「いや多いよ。ていうかそれくらい出すから良いのに」
「いいから、とっときなさい。ごめんねぇ、あずみさんの前で下品なやり取りしちゃって」
創太郎はしぶしぶお札を受け取っておばあさんにお礼を言い、部屋を出ていった。
(お金、受け取ってたけど後でさりげなく返すんだろうな。創太郎君のことだから)
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