【書籍化】勤め先は社内恋愛がご法度ですが、再会した彼(上司)とまったり古民家ぐらしを始めます。

梅川いろは

7章 これからのこと、託されたもの 1

「コンビニで何か飲み物買う?アイスコーヒーとか」

 前を向いて運転しながら、創太郎があずみに問いかける。

「そうだね、寄っておこうか」

 二人を乗せた車は市街地に向けて、水田や畑に囲まれた国道を走っていた。

 空はすっきりと晴れていて気持ちが良く、窓を開けると蝉の鳴き声が響いた。

 家でのんびりする時間も大好きだけれど、こうやって天気の良い日にお出かけするのもとても楽しい。朝のうちに出発した夏のドライブは気分が高まった。

 創太郎のおばあさんの入居する高齢者住宅は、二人が住んでいる場所から車でだいたい一時間ほどの場所にある。

 引っ越してすぐの時に電話ではご挨拶させてもらったけれど、顔を合わせてのご挨拶が遅れてあずみは申し訳ない気持ちだった。

 そう思って昨日電話をかけると、「今の時代、出来ることは何でもリモートで良いのよ。若い人が気にしなさんな」と言われた。でも最後には顔を見たいと言ってくれたのがあずみとしては嬉しかった。

 コンビニに立ち寄り、二人分のカフェラテを買うために冷凍ケースから氷の入ったカップを取り出してかごに入れる。

 それと、創太郎は緑茶が好きなので500ミリサイズのものと、自分用にアイスティーを買うことにした。

 今日は真夏日になるおそれがあるので、飲み物は多めに。買うものが決まったら、同じ店内にいる創太郎の目をかいくぐるようにしてレジにさっさと持っていく。

 のんびりしているといつも彼が支払いをしてしまうので、買い物の時は素早い行動を心がけなければならない。

「俺が払いたくてやってるんだから、別に気を遣わなくて良いのに。でもありがとう」

 車に戻ると創太郎が言った。

「いいの。ポイント貯めたいだけだから、気にしないで」

「俺だってマイルが貯まるよ。一緒に旅行行きたくないの」

「それは…すごく、行きたいです」

 あずみが答えると、創太郎がくすりと笑った。

「まぁ、マイルがなくたって行くつもりだけど」

「え、ホント?どこに行くとか決めてるの?」

「二人で決めたいから、まだ決めてない。どこに行きたいか、考えておいてね」

 そんな楽しいことをさらりと言ってくれる。

 前職がまとまった休みを取りにくかったので、旅行にはしばらく行っていなかった。今の会社はお盆の夏季休暇や年末年始が長い連休になるように取り計らってくれるようだし、多少ハイシーズンで金額は高くなっても、ゆっくりどこかに行ってみたいとあずみは思った。

「なんか今日はずっとにこにこしてるね?やっぱり天気が良いから?」

「え、なんで天気?」

「天気の良い日はだいたい篠原さんご機嫌だよ。鼻歌歌ってる時もあるし」

「ウソ!!仕事中に!?」

 そうだとしたら恥ずかし過ぎて、もはやつらい。

 赤くなったり青くなったり忙しいあずみを横目でちらりと見て、創太郎が笑った。

「いや、仕事中はやってないから大丈夫。篠原さん、キリっとしててかっこいいよ。朝とか、夕食前とか、家にいる時に歌ってることが多いかな」

「そうなんだ…気をつけよう」

「なんで?気にしなくていいのに」

 景色を眺めながらそんな会話をしていると、市街地に入るのはあっという間だった。バイパスを抜けると一気に背の高い建物が多くなって、繁華街が見えてくる。

 目星をつけておいたパティスリーでオーソドックスないちごのケーキや、桃やアップルマンゴーがどっさり載った夏らしいタルトをいくつか購入し、保冷剤を多めにつけてもらった。

「ここだよ、新しいおばあちゃんち」

「わ、すごくお洒落だね」

 その高齢者住宅は正面から見た感じ、和モダンのテイストを取り入れたお洒落なホテルといった風情だった。

 ガラス張りのエントランスにはのれんがかかっていて、奥には和紙で作られたまるい間接照明が吊るされ、温かみのある光がともっているのが見えた。

 入り口にスタッフがいて、『恐れ入りますが…』と検温を求められた。失礼します、と言って非接触型の体温計の赤い光を、おでこにそれぞれ当てられる。問題のないことが確認された後、手指を消毒して、エントランスへ入った。



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