【書籍化】勤め先は社内恋愛がご法度ですが、再会した彼(上司)とまったり古民家ぐらしを始めます。

梅川いろは

箱庭の日々 7

『中学の時もそうだったのにさ、またヒミツの関係にしなきゃいけないなんて大変だね』

「うん…正当な理由あっての転勤なら従うけど、社内恋愛だからって転勤にはなりたくない」

『あとはその寺本さんだっけ?怖いんだけど。私は仕事第一主義!中身はおじさんなんです!みたいなことを自分でバンバン言う人って、地雷臭がするんだよなぁ。和玖君とのことを匂わせてるのも変だし』

「やっぱりそう思う?」

『でも、和玖君は静観してるのかー。あずみのためにもきっぱり否定してくれたらとは思うけどね』

「うん…」

『まぁでも考えがあるって言うんならとりあえず待ってあげても良いんじゃない?それか、もしどうしても気になるんならハニートラップしかけて聞き出してみれば?何を隠してるの?って』

「ちょ、ちょっと。なにそれ」

『付き合って、一緒に住んでるってことはもうそういう関係なんでしょ?かわいくせまってみたら良いじゃん。お酒飲んでる時とか』

 とんでもないことをさも簡単そうに言ったところで、陽菜は『あっ!?』と素っ頓狂な声を出した。

「どうしたの?大丈夫?」

『ゴメン!陽茉莉がコップのお茶、頭から被って、びしょ濡れになっちゃった!後でかけ直しても良い?』

「ううん、ラインにしよう!そろそろひまちゃんお風呂の時間だし、忙しいでしょ」

『じゃあラインする!ゴメンねー。それじゃ後でね!』

 通話を終えると、外からの風にあおられて、あずみの前髪がふわふわとそよいだ。いつもこの時間に吹く穏やかな山風とは違う、冷たさの混じった風だった。しかも暗い。窓の外を見ると、黒っぽい雲が空にかかっていた。

 今にも大粒の雨が、「まず間違いなく」降ってきそうな気配を感じる。

(そうだ!洗濯物、取り込んでない)

 家に着いたらすぐに水分を摂ったり換気をしなければいけないという、自らに課したルーティーンにとらわれ過ぎていて、すっかり忘れていた。あずみは急いで外の干場に向かった。

 既に外には濃い雨の匂いが漂っていてる。ステンレスの物干し竿に伸ばしたあずみの手に、「ぽつぽつ」などという可愛らしい擬音で表現するには不釣り合いなほど大粒で、しかも冷たい水滴が当たったかと思うと、みるみるうちに勢いを増していった。

(ちょ、ちょっと待ってー!)

 あずみ一人分の洗濯物ならすぐに済んだけれど、それぞれでやっていた洗濯をつい最近一緒にやるようになって量がある上に、今日はシーツもあったので、取り込むのに時間がかかった。

 慌てていたせいでランドリーバッグを持たずに出て来てしまった自分を呪う。

 両手に洗濯物を抱えながら右往左往していると、後ろから創太郎が走ってきた。

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