【書籍化】勤め先は社内恋愛がご法度ですが、再会した彼(上司)とまったり古民家ぐらしを始めます。
箱庭の日々 5
「寺本さんもさ、和玖君のことが好きならもう少し集中して仕事やってくれたら良いのにね。…って、本人はバリバリ働いてるつもりなんだよね。しかもやりたくない地味な仕事はパートの私にやらせればいいと思ってるみたいでさ」
「ひどい話ですね…」
また頭から煙が出そうな気分だった。
西尾さんがきらりと目を輝かせる。
「個人的には篠原さんと和玖君が二人で話してる時の空気感の方がよっぽど彼氏彼女っぽいけどね~」
あずみはお茶を吹き出しそうになった。
「っ…、もう、何を言ってるんですか」
「ていうか、なんか似てるんだよね、二人って。具体的にはどこって思いつかないんだけど」
「そうですか?自分では全然わかりませんけど」
実は、似てると言われたのはこれが初めてではなかった。中学時代からの友人の陽菜にも、「なんか二人って似てる。てか似てきた?」と言われたことがある。
そういえば創太郎とのことを陽菜に報告していなかった。
陽菜は唯一、中学の時から気兼ねのない付き合いが続いてる親友で、創太郎とあずみの経緯を知っている。転職して東京から引っ越す予定だということを伝えたのを最後に、連絡するのをすっかり忘れていた。落ち着いたら連絡してと言われていたのに。
陽菜に連絡して、いろいろ相談してみるのもいいかもしれない。
思わぬタイミングでのひらめきのおかげで、もやもやした気持ちが吹き飛んだ。にわかにやる気がみなぎってくる。そんなあずみのわかりやすい変化に気がついたのか、西尾さんがくすりと笑った。
「なんだか、篠原さんて見ていて飽きないというか、癒されるわ」
「そ、そうですか?自分では早く落ち着いた人間になりたいと思ってるんですけど」
むしろ癒されているのはあずみの方だと思った。仕事の時はまだ肩に力が入ってしまうので、こうしてお昼の休憩にテラスで西尾さんと話していると、とても落ち着く。
彼のことも、そんな風に少しでも癒せたら良いのに。
彼とは同じ家に住んでお付き合いも順調と言えるけれど、それでもときどき距離というか、あずみでは力になれない申し訳なさのようなものを感じることがある。
たとえば、寝不足を思わせる顔色で朝食はいらないと言われた時。
別にそれ自体は個人の都合だからと気にしないようにしてきたけれど、彼があずみに言わずに何かを抱えている気がして心配になってしまう。
じっと黙り込んで、考え事をしている時もある。
そういう時は話しかけても反応が薄いので、あずみは悲しい気持ちになった。そうすると彼はすぐに気づいて少し慌てたように抱きしめてフォローをしてくるのだけれど、日をまたぐとまた同じような時があるのだ。
あずみがもっと落ち着いた性格で、相談相手として申し分のないような人間であれば、彼も一人で悩まずに済むのに、もどかしい。
さっき吹きとんだはずのもやもやがまたやってきた気がして、あずみは小さく頭を振った。もうお昼も終わる時間だし、プライベートのことはとりあえず捨て置いて、仕事モードに切り替えなければ。
西尾さんとオフィスに戻る時、40代後半くらいのやせ型の男性が廊下の向こうから歩いてきた。
なんとなくIDカードをを確認すると「新田」と書いてある。
創太郎が言っていた、「社内恋愛はご法度、バレたら転勤」を主導しているらしい統括部長の人だ。
(まともに見たのははじめてだけど、ちょっと怖そうな…)
すれ違う際、新田統括部長がするどい眼光でギロリとこちらを見てきた。肩がすくみそうになるのをこらえて、軽く会釈をしてやりすごす。
ご法度なはずの社内恋愛をしている身なせいか、どうしても過剰に反応してしまう。しばらくドキドキしていたけれど、呼び止められることはなく席にたどりついた。
「新田さん、怖かったでしょ」
「こ、怖かったです。眼光というか、威厳というか」
西尾さんはあずみの人物評を聞いてふき出した。
「そうそう、怖いオーラがあるんだよね」
「圧倒されてしまいました」
「中身はそんな怖い人じゃないんだけどねぇ」
ゆるく微笑んだまま、ぽつりと言う。
知り合いなのかな?と気になって聞き返そうとしたけれど、他部署の人に話しかけられて、その話はそれっきりになってしまった。
「ひどい話ですね…」
また頭から煙が出そうな気分だった。
西尾さんがきらりと目を輝かせる。
「個人的には篠原さんと和玖君が二人で話してる時の空気感の方がよっぽど彼氏彼女っぽいけどね~」
あずみはお茶を吹き出しそうになった。
「っ…、もう、何を言ってるんですか」
「ていうか、なんか似てるんだよね、二人って。具体的にはどこって思いつかないんだけど」
「そうですか?自分では全然わかりませんけど」
実は、似てると言われたのはこれが初めてではなかった。中学時代からの友人の陽菜にも、「なんか二人って似てる。てか似てきた?」と言われたことがある。
そういえば創太郎とのことを陽菜に報告していなかった。
陽菜は唯一、中学の時から気兼ねのない付き合いが続いてる親友で、創太郎とあずみの経緯を知っている。転職して東京から引っ越す予定だということを伝えたのを最後に、連絡するのをすっかり忘れていた。落ち着いたら連絡してと言われていたのに。
陽菜に連絡して、いろいろ相談してみるのもいいかもしれない。
思わぬタイミングでのひらめきのおかげで、もやもやした気持ちが吹き飛んだ。にわかにやる気がみなぎってくる。そんなあずみのわかりやすい変化に気がついたのか、西尾さんがくすりと笑った。
「なんだか、篠原さんて見ていて飽きないというか、癒されるわ」
「そ、そうですか?自分では早く落ち着いた人間になりたいと思ってるんですけど」
むしろ癒されているのはあずみの方だと思った。仕事の時はまだ肩に力が入ってしまうので、こうしてお昼の休憩にテラスで西尾さんと話していると、とても落ち着く。
彼のことも、そんな風に少しでも癒せたら良いのに。
彼とは同じ家に住んでお付き合いも順調と言えるけれど、それでもときどき距離というか、あずみでは力になれない申し訳なさのようなものを感じることがある。
たとえば、寝不足を思わせる顔色で朝食はいらないと言われた時。
別にそれ自体は個人の都合だからと気にしないようにしてきたけれど、彼があずみに言わずに何かを抱えている気がして心配になってしまう。
じっと黙り込んで、考え事をしている時もある。
そういう時は話しかけても反応が薄いので、あずみは悲しい気持ちになった。そうすると彼はすぐに気づいて少し慌てたように抱きしめてフォローをしてくるのだけれど、日をまたぐとまた同じような時があるのだ。
あずみがもっと落ち着いた性格で、相談相手として申し分のないような人間であれば、彼も一人で悩まずに済むのに、もどかしい。
さっき吹きとんだはずのもやもやがまたやってきた気がして、あずみは小さく頭を振った。もうお昼も終わる時間だし、プライベートのことはとりあえず捨て置いて、仕事モードに切り替えなければ。
西尾さんとオフィスに戻る時、40代後半くらいのやせ型の男性が廊下の向こうから歩いてきた。
なんとなくIDカードをを確認すると「新田」と書いてある。
創太郎が言っていた、「社内恋愛はご法度、バレたら転勤」を主導しているらしい統括部長の人だ。
(まともに見たのははじめてだけど、ちょっと怖そうな…)
すれ違う際、新田統括部長がするどい眼光でギロリとこちらを見てきた。肩がすくみそうになるのをこらえて、軽く会釈をしてやりすごす。
ご法度なはずの社内恋愛をしている身なせいか、どうしても過剰に反応してしまう。しばらくドキドキしていたけれど、呼び止められることはなく席にたどりついた。
「新田さん、怖かったでしょ」
「こ、怖かったです。眼光というか、威厳というか」
西尾さんはあずみの人物評を聞いてふき出した。
「そうそう、怖いオーラがあるんだよね」
「圧倒されてしまいました」
「中身はそんな怖い人じゃないんだけどねぇ」
ゆるく微笑んだまま、ぽつりと言う。
知り合いなのかな?と気になって聞き返そうとしたけれど、他部署の人に話しかけられて、その話はそれっきりになってしまった。
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コメント
梅川いろは
ありがとうございます!!涙が出ます
みょうが
面白いです。続きが気になる。
これからも頑張ってたくさん書いて下さい