【書籍化】勤め先は社内恋愛がご法度ですが、再会した彼(上司)とまったり古民家ぐらしを始めます。

梅川いろは

社内恋愛がご法度というのは、いまどき人権問題だと思うのですが 7

 その日、創太郎が帰ってきたのはそろそろ19時という時だった。スマホに遅くなりそうだというメッセージは来ていた。

 車が駐車スペースに停まる音がして、玄関に向かうと、創太郎があずみを見るなりホッとした顔になる。

「ただいま。なんか外、ぬるいね。汗かいて気持ち悪い」

「おかえりなさい。ごはん用意するから、シャワーどうぞ」

 元気のないあずみの声に、創太郎はわずかに目をみはった。

「何かあった?」

「ううん。とりあえずシャワー入ったら。ごはん用意するから」

 そう言って玄関からきびすを返し、キッチンへ向かう。夕食はそうめんと、今朝の残りで蒸し鶏のサラダにしようと思って、あとは麺を茹でるだけにしてある。

 昼過ぎ、本当に寺本さんからメッセージが届いた。

『お疲れ様です。少しは慣れましたか?リーダーはけっこう気が利かないところがある(笑)ので、今後もし篠原さんのお気を悪くするような発言などがあったらごめんなさい。その場合は私に言ってください。よく言って聞かせます。同期だし、社外でも一緒のことが多いので(←できれば秘密にしていただけると助かります汗)』

『それと、これは一応なのですが…(人差し指を立てている絵文字)』

『篠原さんがいらっしゃる前にうちのチームに入った女性がいたのですが、リーダーに恋愛感情を持ってしまい、業務に支障が出ていたのでチーム内でちょっと問題になりまして』

『結局その人はプライベートでも何か問題があったらしくいま休職しているのですが…』

『うちのチームは女性同士仲が良くて(他の課ではイジメとかあるみたいですが全然理解できない…涙)、楽しく仕事をしているので篠原さんにもそれを理解していただきたいというか、チーム内で恋愛しようとかはあまり考えないで欲しいです汗汗。というかうちの会社は基本社内恋愛厳禁なので。』

『それにリーダーは無駄に見た目が良いのでけっこう社内で人気がありますが、中身をよーく知ってる私からすると正直おすすめできません(笑。ホント奴は外見だけでモテてるんだなという感じです。』

『釘を差してるように聞こえたらごめんなさい。』

『ただ、私は居心地の良いチームでみんなでお仕事を頑張りたいって、とにかくそれだけを考えている人間なので。お仕事至上主義です。←だからモテないのかも笑』

『長々とすみません!今度一緒にランチ行きましょー。それか、金曜日とかに女子会やりましょう。ではでは』

 これを読んだ時の感情はどう表したら良いのか、あずみのつたないボキャブラリーでは説明が難しかったけれど。

 しいて言うならば、全身の血が氷点下まで冷えた後、一気に沸かされて頭のてっぺんから吹きこぼれそうになったみたいな。

 メッセージを受け取った時、お互いのPCを挟んで向かいに座る寺本さんはまっすぐに前を向いて画面を見ていたけれど、視界の端であずみの様子をうかがっているのがわかった。メッセージの内容を確認したあずみの反応が気になるらしかった。

 その時はキンキンに冷えたチルドカップのカフェラテを買ったばかりだったのが幸いした。頭が痛くなる勢いでぐびぐび飲んだので、怒りで上がった体温を少しでも下げられたと思う。

 あのメッセージの文面は、今思い出しても不愉快というほかない。家に帰ったら、同じチームでしかも上司だということを伏せていた創太郎に抗議をするつもりだったのに、それどころではなくなってしまった。

 西尾さんの話では、あんな内容のものを過去にも複数の女性社員に送り付けていたということだったけれど、正直、正気の沙汰ではないとあずみは思った。

 休職した女性社員について、恋愛をしたことで仕事に支障をきたしていたと主張していることも気に食わない。

(あのメッセージって、一種のハラスメントだよね…どうにかならないのかな?)

 あずみはイライラした気持ちを鎮めるために、ふう、とため息をついた。ここに引っ越してきてから色んなことがあって、職場にも慣れていないから体は相当に疲れているはずなのに、精神が張りつめているのか、疲労は感じない。

 けれどこの後食事をして寝る前にもう一度シャワーを浴びたら、気が抜けてどっと疲れが来る気がしていた。


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