【書籍化】勤め先は社内恋愛がご法度ですが、再会した彼(上司)とまったり古民家ぐらしを始めます。
社内恋愛がご法度というのは、いまどき人権問題だと思うのですが 5
寺本さんが声を上げた。声色は綺麗だったけれど、明らかな不満が感じられて身が竦む。
「でも和玖さんけっこういないし、西尾さんはパートだから15時以降は私たちがフォローしなきゃですよね?そんな状況でOJTなんて可能ですか?」
どうやらあずみの研修のことで不満があるらしかった。横から上杉さんが援護するように発言する。
「そうそう。私たち忙しいんで、それはちょっと困ります。OJTのマニュアルもないし!この会社」
「それだったらみんなでフォローするっていうことにしてもらった方が良いです!」
(んん…?)
二人の主張は筋が通っているように見えるけれど、そこはかとない違和感をあずみは感じた。
(フォローしたいの?したくないの?)
「そうですね。お二人とも忙しいと思うので、ご自身の通常業務だけに集中してもらってかまいません。15時以降も。関わらなくて結構です」
創太郎が、かなり冷たく感じられる声色で言う。その突き放すような言い方にあずみは内心真っ青になった。
二人は特に何も感じなかったらしい。それどころかまだ納得が行かないのか、小声で「でも、きっとフォローが必要になるから最初に言っておいてもらわないと…」などとぶつぶつ言っている。
正直なところ、フォローする気があるなら念頭に置いて臨機応変に対応すればいいだけで、リーダーに最初に指示されるのとされないとので、そんなに違いがあるのか疑問だった。
でも、フォローしてもらう立場だし、そんなことを考えるのはよくない。
空気が悪くなりかけたところで、西尾さんがやんわり口を開いた。
「篠原さんが独り立ちするまでは、私が帰る前に篠原さんに簡単な仕事をいくつか任せて、二人の手を煩わせないようにするから」
「西尾さんがそう言うなら…」
「じゃあそういうことで、以上です。あとは月次のニュースレターを確認して、各自仕事を始めてください」
創太郎が締めくくって、各々仕事を始める。西尾さんがさっそくメールとニュースレター、チャットの使い方を教えてくれた。
見たところ、どれも添付ファイルが多い。
扱う資料がたくさんあるようなので、まずは種類を把握しなければ、と気合いを入れた。
それからは総務の山地さんが来て、各部署やプラントを案内してくれた。
なにしろ敷地が広く、歩くのに時間がかかる。ヒールの低い楽なパンプスを履いてきて良かったとあずみは思った。
欅が植えられた敷地内の並木道はとても綺麗に整備されていて、二人だけで歩くのが贅沢に感じられる。雨は降っていないものの、梅雨どきの生ぬるい風が吹いていて、土が水気を含んだにおいが濃く香った。
「あ、じゃあ山地さんと私、同い年なんですね」
山地さんはこくりと頷く。山地さんは地元出身で、高校を卒業してすぐにこの会社に就職したらしかった。ということは、もうこの会社に7年もいることになる。入社して1日目のあずみからすると大先輩だ。
山地さんは余計なことはあまりべらべら話さないという感じで全体的に口数が少ないけれど、ノリが悪いというわけではなく、むしろ話しやすかった。
その後、ミーティングスペースで会社の概要やコンプライアンスの話を聞いているうちに、もう11時を過ぎている。席に戻ると創太郎は席を外していて、寺本さんと上杉さんはひとつのPCを見て何か話し合っていた。なにやら深刻そうな雰囲気だ。
メッセージを確認してみたけれど、当然ながらあずみ宛てにはまだ何も来ていない。
あとはCCで来ているものが2件ほど。内容を見る限りあずみが何かをしなければいけないという雰囲気ではなさそうだった。
後ろから西尾さんが声をかけてくれた。
「午後から教えることがたくさんあるから、先にお昼行っちゃおう。何か持ってきた?」
「あ、はい。お弁当持ってきました」
ランチバッグを持って、西尾さんと一緒に廊下へ出た。昼休みは11時から14時までの間に1時間、各人のタイミングで取っていいことになっていると説明を受けたところだ。
「私も今日はお弁当。3階で食べようか」
パウダールームに立ち寄ってから向かったのは、3階にある、売店が併設されたカフェスペースだった。
入り口で手指を消毒して中に入る。時間が早いからか、あまり人気がなかった。
西尾さんが奥に進むのに着いていき、二人で窓辺の席に座った。窓側は全面ガラス張りになっていて、ウッドデッキのテラスが見える。
テラスにはイスとテーブルが数組設置されていて、頭上には日よけのタープまであった。
「えっ、素敵!」
あずみが思わず口に出すと、西尾さんが「ああ、テラス?」と微笑む。
「温かい時期は外に出られるんだよ。まぁ今日は天気が良くないから、また今度だね」
「でも和玖さんけっこういないし、西尾さんはパートだから15時以降は私たちがフォローしなきゃですよね?そんな状況でOJTなんて可能ですか?」
どうやらあずみの研修のことで不満があるらしかった。横から上杉さんが援護するように発言する。
「そうそう。私たち忙しいんで、それはちょっと困ります。OJTのマニュアルもないし!この会社」
「それだったらみんなでフォローするっていうことにしてもらった方が良いです!」
(んん…?)
二人の主張は筋が通っているように見えるけれど、そこはかとない違和感をあずみは感じた。
(フォローしたいの?したくないの?)
「そうですね。お二人とも忙しいと思うので、ご自身の通常業務だけに集中してもらってかまいません。15時以降も。関わらなくて結構です」
創太郎が、かなり冷たく感じられる声色で言う。その突き放すような言い方にあずみは内心真っ青になった。
二人は特に何も感じなかったらしい。それどころかまだ納得が行かないのか、小声で「でも、きっとフォローが必要になるから最初に言っておいてもらわないと…」などとぶつぶつ言っている。
正直なところ、フォローする気があるなら念頭に置いて臨機応変に対応すればいいだけで、リーダーに最初に指示されるのとされないとので、そんなに違いがあるのか疑問だった。
でも、フォローしてもらう立場だし、そんなことを考えるのはよくない。
空気が悪くなりかけたところで、西尾さんがやんわり口を開いた。
「篠原さんが独り立ちするまでは、私が帰る前に篠原さんに簡単な仕事をいくつか任せて、二人の手を煩わせないようにするから」
「西尾さんがそう言うなら…」
「じゃあそういうことで、以上です。あとは月次のニュースレターを確認して、各自仕事を始めてください」
創太郎が締めくくって、各々仕事を始める。西尾さんがさっそくメールとニュースレター、チャットの使い方を教えてくれた。
見たところ、どれも添付ファイルが多い。
扱う資料がたくさんあるようなので、まずは種類を把握しなければ、と気合いを入れた。
それからは総務の山地さんが来て、各部署やプラントを案内してくれた。
なにしろ敷地が広く、歩くのに時間がかかる。ヒールの低い楽なパンプスを履いてきて良かったとあずみは思った。
欅が植えられた敷地内の並木道はとても綺麗に整備されていて、二人だけで歩くのが贅沢に感じられる。雨は降っていないものの、梅雨どきの生ぬるい風が吹いていて、土が水気を含んだにおいが濃く香った。
「あ、じゃあ山地さんと私、同い年なんですね」
山地さんはこくりと頷く。山地さんは地元出身で、高校を卒業してすぐにこの会社に就職したらしかった。ということは、もうこの会社に7年もいることになる。入社して1日目のあずみからすると大先輩だ。
山地さんは余計なことはあまりべらべら話さないという感じで全体的に口数が少ないけれど、ノリが悪いというわけではなく、むしろ話しやすかった。
その後、ミーティングスペースで会社の概要やコンプライアンスの話を聞いているうちに、もう11時を過ぎている。席に戻ると創太郎は席を外していて、寺本さんと上杉さんはひとつのPCを見て何か話し合っていた。なにやら深刻そうな雰囲気だ。
メッセージを確認してみたけれど、当然ながらあずみ宛てにはまだ何も来ていない。
あとはCCで来ているものが2件ほど。内容を見る限りあずみが何かをしなければいけないという雰囲気ではなさそうだった。
後ろから西尾さんが声をかけてくれた。
「午後から教えることがたくさんあるから、先にお昼行っちゃおう。何か持ってきた?」
「あ、はい。お弁当持ってきました」
ランチバッグを持って、西尾さんと一緒に廊下へ出た。昼休みは11時から14時までの間に1時間、各人のタイミングで取っていいことになっていると説明を受けたところだ。
「私も今日はお弁当。3階で食べようか」
パウダールームに立ち寄ってから向かったのは、3階にある、売店が併設されたカフェスペースだった。
入り口で手指を消毒して中に入る。時間が早いからか、あまり人気がなかった。
西尾さんが奥に進むのに着いていき、二人で窓辺の席に座った。窓側は全面ガラス張りになっていて、ウッドデッキのテラスが見える。
テラスにはイスとテーブルが数組設置されていて、頭上には日よけのタープまであった。
「えっ、素敵!」
あずみが思わず口に出すと、西尾さんが「ああ、テラス?」と微笑む。
「温かい時期は外に出られるんだよ。まぁ今日は天気が良くないから、また今度だね」
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