【書籍化】勤め先は社内恋愛がご法度ですが、再会した彼(上司)とまったり古民家ぐらしを始めます。
むさぼるけものと夏の夜 6 ※R-15
それがあずみと二人きりでいるときの10年前の創太郎そのもので、あずみは何も言えなかった。
昨日創太郎は昔の自分にあずみとのことを教えたいと言っていたけれど、あずみも同じだ。
彼が遠くへ行ってしまったと聞いて、ただ泣くことしか出来なかったあの頃の自分に、彼と再会出来たことを教えてあげたいと思う。
当時のことを思い出すと、また少し切ない気分になった。
思い出話がしたくなって、創太郎の方を見やると、「0.01」と大きく印字されたおしゃれなデザインの小さく四角い箱を手に持って、キリっとした顔で中をごそごそしている。
昨日「ちょっと出てくる」と出かけた時に買ったものだと察しつつ、あずみは脱力した。
思春期のころを思い出して感傷と余韻に浸っていたのが吹っ飛ぶようだった。
というか、見ているこっちも思わず息が詰まるような真剣な表情なのに、やっていることは避妊具の残り枚数の確認だなんて。
あずみがぐるぐる思考を巡らせていると、創太郎が振り返ってぷちゅ、とキスをしてきた。
考え事をしていても、彼のキスひとつでそれはどこかにいってしまう。
額の奥が甘く痺れてまたぼうっとしている間に、いつの間にか体が開かれて、膝を割られている。
足の付け根のやわらかく敏感なところに、創太郎が触れた。
その先端が触れた後の太ももに、早朝の冷えた空気がしみて、濡れているのだと気づく。
これは自分のものではない。彼も余裕がないのだろうと思った。
あずみの耳たぶに唇が触れる。切なげな吐息を感じた。
「…良い?」
了承を得る声は低く掠れていて、体の奥が揺らぐ。
「…聞かないで」
やっとのことで答えると、すぐに下から押し開かれて、そのまま何も考えられなくなった。
あずみの前に置かれたグラスに、水出しの冷たい緑茶がたっぷりと注がれる。
「こんなに作ってくれてありがとう」
あずみがお礼を言うと、緑茶の入ったピッチャーを手にした創太郎は、口の端をつり上げてかすかに笑った。
「残り物と、すぐ作れるようなものしかないけどね」
「全然だよ!こんなきちんとした朝ごはん、久しぶり」
炊き立てのごはんに、昨日のお刺身をわさび醤油でヅケにしたもの。薄黄色がまぶしい玉子焼き。おひたし。それにミョウガと豆腐の入った湯気の立つお味噌汁が、木製のトレーの上に綺麗に並べられている。
「美味しそう…」
胸を張ってSNSに投稿出来そうなくらい立派な食卓は、あずみがシャワーに入っている間にすべて創太郎が準備してくれた。
いただきますを一緒に言って、箸を取る。
「昨日も思ったけど、お米が美味しいね。ガスの炊飯器で炊いたごはんがこんなに美味しいなんて知らなかった」
「電気の炊飯器もどんどん性能が上がってるから、十分美味しいけどね」
そんなやりとりがあってから、しばらく沈黙が続いた。
考えてみれば。
10年前にいっとき親密といえる関係だったとはいえ、大人になった彼が一瞬は知らない人に見えたのも事実だった。そんな人と会ってその日のうちに同居が決まって、付き合うことになり、体の関係まで持ってしまった。
我ながらすごい展開だ。
知らない人なわけがない。頭ではわかっているのだけれど。
軽はずみに関係を持ってしまって良かったのかな、と今更ながらに不安になるのは、自分が初めてだったからなのか。
しかも、彼とあずみは同じ会社で働く同僚になるのだ。
 (私に職場恋愛なんて出来るのかな…)
彼のおかげで気持ちよく朝を迎えられたのに、気持ちが少しずつ落ち込んでくる。
「大丈夫?ちょっと疲れてる?」
声をかけられてはっとした。
「ううん、朝ごはんが美味しくて感動してただけ」
「そっか、良かった。作ったの久しぶりだったから」
表情には出ていないけれど、あずみが考え込んでいたのを察して、気を遣ってくれたように感じる。
「今日は一日、荷物の整理?」
さっき彼の部屋で過ごしていた時の荒々しさが、夢だったかのように感じるくらいに落ち着いた声色で、創太郎が聞いてきた。
「…うん。明日から出社だし、ある程度やっておかないとと思って」
「力仕事があるなら無理しないで言って、手伝うから。といってもちょっとこれから出かけなきゃいけないんだけど」
「あ、そうなんだ」
この広い家に一人なのはまだ心細い。
「午前中には帰って来るよ。必要なものがあったら連絡して」
「じゃあ、お昼ごはん作って待ってるね」
まだ時計の針は8時前を示していたけれど、食事を終えて身支度を整えた創太郎は、玄関でスニーカーを履いていた。見送りに来たあずみをきゅっと抱きしめ、キスをする。
一度キスをしたらすぐに出かけるかと思ったら、何度も唇が重ねられた。
昨日創太郎は昔の自分にあずみとのことを教えたいと言っていたけれど、あずみも同じだ。
彼が遠くへ行ってしまったと聞いて、ただ泣くことしか出来なかったあの頃の自分に、彼と再会出来たことを教えてあげたいと思う。
当時のことを思い出すと、また少し切ない気分になった。
思い出話がしたくなって、創太郎の方を見やると、「0.01」と大きく印字されたおしゃれなデザインの小さく四角い箱を手に持って、キリっとした顔で中をごそごそしている。
昨日「ちょっと出てくる」と出かけた時に買ったものだと察しつつ、あずみは脱力した。
思春期のころを思い出して感傷と余韻に浸っていたのが吹っ飛ぶようだった。
というか、見ているこっちも思わず息が詰まるような真剣な表情なのに、やっていることは避妊具の残り枚数の確認だなんて。
あずみがぐるぐる思考を巡らせていると、創太郎が振り返ってぷちゅ、とキスをしてきた。
考え事をしていても、彼のキスひとつでそれはどこかにいってしまう。
額の奥が甘く痺れてまたぼうっとしている間に、いつの間にか体が開かれて、膝を割られている。
足の付け根のやわらかく敏感なところに、創太郎が触れた。
その先端が触れた後の太ももに、早朝の冷えた空気がしみて、濡れているのだと気づく。
これは自分のものではない。彼も余裕がないのだろうと思った。
あずみの耳たぶに唇が触れる。切なげな吐息を感じた。
「…良い?」
了承を得る声は低く掠れていて、体の奥が揺らぐ。
「…聞かないで」
やっとのことで答えると、すぐに下から押し開かれて、そのまま何も考えられなくなった。
あずみの前に置かれたグラスに、水出しの冷たい緑茶がたっぷりと注がれる。
「こんなに作ってくれてありがとう」
あずみがお礼を言うと、緑茶の入ったピッチャーを手にした創太郎は、口の端をつり上げてかすかに笑った。
「残り物と、すぐ作れるようなものしかないけどね」
「全然だよ!こんなきちんとした朝ごはん、久しぶり」
炊き立てのごはんに、昨日のお刺身をわさび醤油でヅケにしたもの。薄黄色がまぶしい玉子焼き。おひたし。それにミョウガと豆腐の入った湯気の立つお味噌汁が、木製のトレーの上に綺麗に並べられている。
「美味しそう…」
胸を張ってSNSに投稿出来そうなくらい立派な食卓は、あずみがシャワーに入っている間にすべて創太郎が準備してくれた。
いただきますを一緒に言って、箸を取る。
「昨日も思ったけど、お米が美味しいね。ガスの炊飯器で炊いたごはんがこんなに美味しいなんて知らなかった」
「電気の炊飯器もどんどん性能が上がってるから、十分美味しいけどね」
そんなやりとりがあってから、しばらく沈黙が続いた。
考えてみれば。
10年前にいっとき親密といえる関係だったとはいえ、大人になった彼が一瞬は知らない人に見えたのも事実だった。そんな人と会ってその日のうちに同居が決まって、付き合うことになり、体の関係まで持ってしまった。
我ながらすごい展開だ。
知らない人なわけがない。頭ではわかっているのだけれど。
軽はずみに関係を持ってしまって良かったのかな、と今更ながらに不安になるのは、自分が初めてだったからなのか。
しかも、彼とあずみは同じ会社で働く同僚になるのだ。
 (私に職場恋愛なんて出来るのかな…)
彼のおかげで気持ちよく朝を迎えられたのに、気持ちが少しずつ落ち込んでくる。
「大丈夫?ちょっと疲れてる?」
声をかけられてはっとした。
「ううん、朝ごはんが美味しくて感動してただけ」
「そっか、良かった。作ったの久しぶりだったから」
表情には出ていないけれど、あずみが考え込んでいたのを察して、気を遣ってくれたように感じる。
「今日は一日、荷物の整理?」
さっき彼の部屋で過ごしていた時の荒々しさが、夢だったかのように感じるくらいに落ち着いた声色で、創太郎が聞いてきた。
「…うん。明日から出社だし、ある程度やっておかないとと思って」
「力仕事があるなら無理しないで言って、手伝うから。といってもちょっとこれから出かけなきゃいけないんだけど」
「あ、そうなんだ」
この広い家に一人なのはまだ心細い。
「午前中には帰って来るよ。必要なものがあったら連絡して」
「じゃあ、お昼ごはん作って待ってるね」
まだ時計の針は8時前を示していたけれど、食事を終えて身支度を整えた創太郎は、玄関でスニーカーを履いていた。見送りに来たあずみをきゅっと抱きしめ、キスをする。
一度キスをしたらすぐに出かけるかと思ったら、何度も唇が重ねられた。

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