【書籍化】勤め先は社内恋愛がご法度ですが、再会した彼(上司)とまったり古民家ぐらしを始めます。

梅川いろは

むさぼるけものと夏の夜 4 

 そのまま顔が近づいて、今度は柔らかく唇が重なる。ついばむようなキスを何度か繰り返して、彼が名残惜しそうにあずみの上唇を甘噛あまがみした後、唇が離れた。

 こつんとおでこを合わせて、目を閉じた創太郎がため息をつく。

「…中学の時の俺に教えてあげたい」

「…何を?」

「10年後には篠原さんとこんな風にセックス前提で思う存分キスが出来て、エロい顔も見られるよって」

「~~…!なにそれ。創太郎君、キャラ変わりすぎじゃない?」

 昔は口数の多くないはかなげな美少年という感じだったのに。お酒のせいもあるのだろうか。

「そうかな。あの時の俺って篠原さんとセックスする妄想で毎日抜いてた記憶があるけど。最低でも一日2回くらい?」

「……!!」

 こんなことをにやけながらではなく、淡々とした表情でさも当然のように言うからびっくりしてしまう。言っている顔は無駄にかっこいいけれど───

 内容ははっきり言って、ひどい。

 恥ずかしさで顔を上げられずにいると、おとがいをつかまれて顔を上に向けさせられた。

 間近で目が合って、唇が重なる。

「ん、…っ」

 そのままぶつかるようなキスが続いた後、あずみは抱き上げられてしまった。

「あ、っ!」

 創太郎はあずみを抱き上げたまま廊下に出て、角を曲がり、彼の自室のドアを開けた。

 奥のシンプルなベッドへと進み、後頭部に彼の手がふわっと添えられたかと思うと、あっという間にあずみはベッドに横たわっていた。

 創太郎はあずみの体の上に覆いかぶさって、どこかぼうっとした表情でこちらを見てから、Tシャツを脱ぎ捨てる。
 
 細いと思っていた彼の体はこうして見ると、しならかながらも思いのほか筋肉質で、無駄がなく美しかった。

 昔から変わらない彼のにおいが濃く感じられて、体の芯がきゅうっとなる。
 
 先ほどと同じ、どこか獣のどう猛さを感じる目つきで見つめられると、うっすらと恐怖をおぼえるものの、窓からの月の光にほの青く照らされた彼は、ぞくりとするほど綺麗だった。

──どうしよう。本当に、自分は彼とこのままセックスしてしまうのだろうか。

 初めてそういう行為をするという恥じらいと緊張と、彼のことがこの上なく好きだという気持ちが混ざり合って、あずみは混乱した。

 おそるおそる、創太郎と目を合わせる。あずみの頭の左右に手をついた彼の顔が近づいて、反射的に目を閉じると下唇をペロリと舐めてからちゅうっ、と吸われて、下半身の奥がふるりとうずく。

「んぅ…」

 自分のものとは思えない甘ったるい声が出てしまった。

 そのままぬるりと侵入してきた舌に歯列をなぞられると、意識が飛んでしまいそうになる。

 誰が言っていたのだったか、口の中は性感帯らしいというのをあずみはぼんやりと思い出した。

「…あ、は…、んっ」

 キスの音と二人の吐息が混ざり合って、月明かりに照らされた部屋の中を満たす。

 創太郎の体があずみの膝を割って近づくと、ルームウェアのワンピースの裾が大きくはだけられた。しなやかな指が太ももから腰のラインを撫でていく甘い感触に耐えていると、ワンピースが頭から引き抜かれた。

「…っ」

 柔らかく抱きしめられて、唇が重なる。彼の指が背中をたどり、ブラジャーの留め具を外したのがわかった。

「…見てもいい?」

 どこか掠れた声で言われて、あずみは震えながらこくりと頷く。

 ゆっくりと二人の体が離れて素肌が彼の目の前にさらされると、あずみは恥ずかしさと心細さで逃げ出したくなる。

 思わず両手を交差させて胸を隠そうとした。

「だめ。隠さないで」

「恥ずかしいよ…」

 彼に手首をつかまれて、ゆっくり開かれる。恥ずかしさに耐えていると、唇が重なった。キスをしている間はあずみが少しだけ安心できることを、彼は既に把握しているようだった。

 キスをしながら、そのままゆるく押し倒された。逃げ腰のあずみを追い回すように絡んでくる舌に必死に応じていると、足の付け根の芯の部分に、下着越しにこつ、と硬いものが当たる感触がある。

 彼の下半身だ。

「…んぅっ」

 あずみは恥ずかしさと、未知の感触に対する怖さを感じて身を竦めた。

 最初は軽く当てられる程度だったそれが、次第にぐりぐりと押し付けられるようになると、今までに感じたことのないとろけるような甘い痺れがまるで呼応するかのように生まれて、あずみは体をびくりと震わせた。

「ふ、んぅ…っ」

 熱い。とても熱い。逃げるように体を浮かしかけたあずみを抑え込むかのように、創太郎が体重をかけ、更に腰を強く押し付けてくる。

 その部分が熱く潤んで彼を望んでいるのが自分でもわかって、怖い。怖いけれど、いつの間にかあらがおうとする気持ちは、どこにもなくなっていた。

 今はただ本能のまま、彼とぐちゃぐちゃに混ざり合いたいとすら思っている。

 薄く開いた窓から夜風が入ってきて、汗をかいたふたりのむき出しの肌をするりと撫でていった。




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