【書籍化】勤め先は社内恋愛がご法度ですが、再会した彼(上司)とまったり古民家ぐらしを始めます。
むさぼるけものと夏の夜 3
その時のことはあずみもよく覚えている。ただ、お弁当のおかずをあげたことはあずみにとって何でもないことで、彼の中にそんなに印象として残っているというのは意外だった。
彼の話を聞いた後、15歳の彼を想って切ない気分になる。
あの時だけでなく、学校で昼食が一緒になる時はいつも、彼は菓子パンを食べていた。甘党だからそうしてるのかなと思い込んでいたけれど、本当は違ったのかもしれない。
「その後付き合うようになってから、ああ、この子はすごく家族に愛されているから、大事にしないといけないって思うことが何度もあった」
彼の言葉に、自分は本当に想われていたのだと感じて涙が出る。
彼が離れたのは、私のことを守るためだったんだ。
「俺の母親のせいでというか、俺の事情でそれを傷つけたくなかったし、母親のことを篠原さんに知られるのも怖かった。手紙を書いて何か知らせたかったけど、いざ書こうとしても何を書いたらいいのかわからなくて…その後引っ越すことになって」
あずみは彼に手を伸ばすと、首に柔らかく抱き着いた。
あの時そうできなかった分、いまこの瞬間、少しでも彼のことを慰められるように。
もう気にしないでという気持ちが伝わるように。
あの時わずか15歳だった彼が味わったであろう、小さな絶望に寄り添えなかったことへの後悔と切なさが胸にこみあげて、そうせずにはいられなかった。
「…わたし、あのとき創太郎君のことがすごく好きだった。きっと自分の気持ちの方が大きいだろうって思ってた」
中学の時にはなかなか口に出来なかった言葉があふれる。あずみの背中にゆっくりと彼の手が回された。
「創太郎君も、すごく大事に想ってくれてたんだね。ありがとう」
言いながら、彼の髪を梳かすように頭の後ろをゆるく撫でた。
洗いたての髪の良い香りと、懐かしい彼のにおいがして、頭の芯が痺れるような感覚になる。
あずみの手首を創太郎のしなやかな指が包み、きゅっと握られた。
もう片方の手は指どうしが恋人つなぎのように絡められて、ぐいっと引っ張られる。
眼前に双眸がせまる。その瞳はわずかに潤んでいて、すでに彼の欲望が高まっていることが感じられた。
切れ長の瞳に魅入られたようになって、あずみは動けなかった。体が甘く竦む。
「…あの時したくても出来なかったこと。これからしたい」
そう言うと、創太郎は膝の上にあずみを抱き上げた。
意味は分かっている。色んなことが頭をよぎった。
初めてだということ。
いつの間にか大人になっていた彼に、あずみはまだ完全には慣れていなくて、体が触れると緊張すること。
でも、答えは決まっている。
「…はい。よろしくお願いします」
頭がじんとして、鼻の奥が痛む。また涙が出そうだった。
彼とぎこちなく視線を絡ませて、何かの新しい誓いを立てるみたいに、唇を重ねた。
顔が離れて、また見つめ合う。さざ波のように震える心を落ち着かせようとあずみがこっそり深呼吸していると、創太郎が突然言った。
「…ごめん。ちょっと外歩いてくる」
「えっ、こんな時間に外に出て大丈夫?」
いまこのタイミングで外へ??という気持ちもあったけれど、なぜだかあずみはホッとしていた。
「これでも男だから心配しないで。すぐ戻ってくるから」
そう言うと、彼は早足で家を出ていった。歩いてくると言っていたのに、車の音がしたのは気のせいだろうか。
残されたあずみはとりあえずシャワーを浴びて歯をみがき、冷たい水を飲んだ。
グラスを洗っていると、玄関に人の帰ってきた気配がして、創太郎がキッチンに入ってきた。
おかえりを言おうと口を開きかけたあずみは彼に手首をつかまれて、夏の夜の空気をまとった胸に抱きしめられた。そのまま、唇が重なる。
「んぅ、」
付き合ったばかりの恋人同士がするには深すぎるキスに、頭がどうにかなりそうだった。
下腹が甘くとろける感覚がして、体を支えられなくなる。
「…ふ、」
腰が砕けたのをぐい、と強い力で支えられて、さらに深く唇を重ねられた。
「んん…」
音が立つほど繰り返されて、そろそろ呼吸が苦しくなってきたころに、ようやく体が離れる。
見上げると、彼はどこか呆然とした顔であずみを見降ろしていた。
その扇情的なまなざしから、あずみは目が離せなかった。
「…ごめん、ちょっと我慢できなくて、理性が。あのままだと俺、止められなさそうだから頭冷やしてこようと思ったのに」
内容のわりに淡々とした口調で言われて、ただでさえ何度もキスされてどうにかなりそうだったあずみは、もう両手で顔を隠すことしか出来なかった。
顔が熱い。自分がどんな顔をしているのか、まったく想像がつかない。
(や、やっぱり無理かもしれない…恥ずかしくて爆発しそう…)
そう考えていると、両手首をつかまれてぐい、と顔をさらけ出される。
「…エロい顔」
見られたくなくて、あずみは必死に顔を背けた。
「み、見ないで…!」
「だめ。こっち見て。見せて」
両手首をつかまれたまま、おそるおそる創太郎を見ると、端正な顔があずみを優しく見下ろしていた。
彼の話を聞いた後、15歳の彼を想って切ない気分になる。
あの時だけでなく、学校で昼食が一緒になる時はいつも、彼は菓子パンを食べていた。甘党だからそうしてるのかなと思い込んでいたけれど、本当は違ったのかもしれない。
「その後付き合うようになってから、ああ、この子はすごく家族に愛されているから、大事にしないといけないって思うことが何度もあった」
彼の言葉に、自分は本当に想われていたのだと感じて涙が出る。
彼が離れたのは、私のことを守るためだったんだ。
「俺の母親のせいでというか、俺の事情でそれを傷つけたくなかったし、母親のことを篠原さんに知られるのも怖かった。手紙を書いて何か知らせたかったけど、いざ書こうとしても何を書いたらいいのかわからなくて…その後引っ越すことになって」
あずみは彼に手を伸ばすと、首に柔らかく抱き着いた。
あの時そうできなかった分、いまこの瞬間、少しでも彼のことを慰められるように。
もう気にしないでという気持ちが伝わるように。
あの時わずか15歳だった彼が味わったであろう、小さな絶望に寄り添えなかったことへの後悔と切なさが胸にこみあげて、そうせずにはいられなかった。
「…わたし、あのとき創太郎君のことがすごく好きだった。きっと自分の気持ちの方が大きいだろうって思ってた」
中学の時にはなかなか口に出来なかった言葉があふれる。あずみの背中にゆっくりと彼の手が回された。
「創太郎君も、すごく大事に想ってくれてたんだね。ありがとう」
言いながら、彼の髪を梳かすように頭の後ろをゆるく撫でた。
洗いたての髪の良い香りと、懐かしい彼のにおいがして、頭の芯が痺れるような感覚になる。
あずみの手首を創太郎のしなやかな指が包み、きゅっと握られた。
もう片方の手は指どうしが恋人つなぎのように絡められて、ぐいっと引っ張られる。
眼前に双眸がせまる。その瞳はわずかに潤んでいて、すでに彼の欲望が高まっていることが感じられた。
切れ長の瞳に魅入られたようになって、あずみは動けなかった。体が甘く竦む。
「…あの時したくても出来なかったこと。これからしたい」
そう言うと、創太郎は膝の上にあずみを抱き上げた。
意味は分かっている。色んなことが頭をよぎった。
初めてだということ。
いつの間にか大人になっていた彼に、あずみはまだ完全には慣れていなくて、体が触れると緊張すること。
でも、答えは決まっている。
「…はい。よろしくお願いします」
頭がじんとして、鼻の奥が痛む。また涙が出そうだった。
彼とぎこちなく視線を絡ませて、何かの新しい誓いを立てるみたいに、唇を重ねた。
顔が離れて、また見つめ合う。さざ波のように震える心を落ち着かせようとあずみがこっそり深呼吸していると、創太郎が突然言った。
「…ごめん。ちょっと外歩いてくる」
「えっ、こんな時間に外に出て大丈夫?」
いまこのタイミングで外へ??という気持ちもあったけれど、なぜだかあずみはホッとしていた。
「これでも男だから心配しないで。すぐ戻ってくるから」
そう言うと、彼は早足で家を出ていった。歩いてくると言っていたのに、車の音がしたのは気のせいだろうか。
残されたあずみはとりあえずシャワーを浴びて歯をみがき、冷たい水を飲んだ。
グラスを洗っていると、玄関に人の帰ってきた気配がして、創太郎がキッチンに入ってきた。
おかえりを言おうと口を開きかけたあずみは彼に手首をつかまれて、夏の夜の空気をまとった胸に抱きしめられた。そのまま、唇が重なる。
「んぅ、」
付き合ったばかりの恋人同士がするには深すぎるキスに、頭がどうにかなりそうだった。
下腹が甘くとろける感覚がして、体を支えられなくなる。
「…ふ、」
腰が砕けたのをぐい、と強い力で支えられて、さらに深く唇を重ねられた。
「んん…」
音が立つほど繰り返されて、そろそろ呼吸が苦しくなってきたころに、ようやく体が離れる。
見上げると、彼はどこか呆然とした顔であずみを見降ろしていた。
その扇情的なまなざしから、あずみは目が離せなかった。
「…ごめん、ちょっと我慢できなくて、理性が。あのままだと俺、止められなさそうだから頭冷やしてこようと思ったのに」
内容のわりに淡々とした口調で言われて、ただでさえ何度もキスされてどうにかなりそうだったあずみは、もう両手で顔を隠すことしか出来なかった。
顔が熱い。自分がどんな顔をしているのか、まったく想像がつかない。
(や、やっぱり無理かもしれない…恥ずかしくて爆発しそう…)
そう考えていると、両手首をつかまれてぐい、と顔をさらけ出される。
「…エロい顔」
見られたくなくて、あずみは必死に顔を背けた。
「み、見ないで…!」
「だめ。こっち見て。見せて」
両手首をつかまれたまま、おそるおそる創太郎を見ると、端正な顔があずみを優しく見下ろしていた。
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