【書籍化】勤め先は社内恋愛がご法度ですが、再会した彼(上司)とまったり古民家ぐらしを始めます。
4章 むさぼるけものと夏の夜
「…創太郎君、雰囲気が変わったね」
普段は淡々としているように見えて、ああいう場面で少しだけ強引なのは変わらないけれど。
「10年も経てばいろいろあるからね。あの頃はまだ子供だったし」
彼はあの頃よりも更に背が伸びて、今でも細身だけれど肩幅がしっかりとあり、華奢ではなくしなやかといった風だ。
「篠原さんは、綺麗になった。あの頃から可愛かったけど」
あずみは顔が熱くなった。からかわないで欲しい。
「本当に?今も昔も、ぱっとしない気がするんだけど」
「…自分のことをそんな風に言うところは変わらないね」
そう言ってくすりと笑う横顔を見ると、いよいよ恥ずかしくてあずみは窓の外の景色を眺めることしか出来なくなってしまった。
彼が連れて行ってくれたのは地元の農協が運営している大きめのスーパーで、手指を消毒して店内に入るとすぐに地場野菜を扱うコーナーがあり、期待が高まる。
「今日は簡単に、手巻き寿司がいいかなと思ったんだけど」
あずみが提案すると、ショッピングカートを押しながら創太郎もうなずく。
「良いね、俺も食べたい。この辺は魚も美味しいよ、海が近いから」
こんなやりとりが気恥ずかしいけれど、嬉しい。
二人で話しながら地場野菜のところで足を止めた。生産者の名前が入った見るからに新鮮で立派な野菜がたくさん並べられている。しかも安い。
「すごいね…!明後日から仕事だし、いろいろ買っておいた方が良いかな」
テンションが上がって創太郎に言うと、思いのほか反応が薄かった。
「うーん。あまり最初からたくさん買わない方が良いと思う」
「え、そう?野菜、あまり好きじゃないの?」
「いや、全然食べられるし、むしろ好きだけどね。取りあえず今夜と明日の朝の分だけにしよう」
いまいちはっきりしないのが気になったけれど、とりあえずはその言葉にしたがうことにした。
ほうれん草一把とひと袋3つ入りのトマト、それに創太郎のリクエストで早生のミョウガをかごに入れる。
あとは手巻き寿司に使う大葉が欲しい。大葉の存在なくして手巻き寿司は完成しないとあずみは勝手に思っていた。
「大葉は20枚くらい買いたいな」
「大葉も買わなくて良いよ。庭で採り放題だから」
創太郎の言葉にあずみは目を輝かせた。
「…どうしたの?」
「大葉が採り放題なんて、素敵すぎる!買ったら10枚100円が普通なのに」
あずみが感激しながら言うと、創太郎はあずみの顔をじっと見つめた後にふいっと目をそらした。
「え、何?」
どきりとして思わず訊ねる。
「いやごめん。ちょっと可愛いすぎて。…お刺身見に行こう」
そう言ってさっさと行ってしまった彼の、後ろ姿から見える耳が赤いのがわかって、あずみは胸がぎゅっとなった。
鮮魚コーナーでは、創太郎が手巻きずし用のネタセットの一番豪華なものをかごに入れた。
その後は地元のお米や、今後の生活に必要となりそうな調味料、焼きのり、オイル、水などをどんどんかごに入れる。
話しているうちに二人ともお酒がいける口とわかって、ビール、ワインなども多めに買うことにした。商品のぎっしり入ったカートを創太郎が押して、セルフレジに向かう。
お会計は9000円ちょっとだった。
パネル上に各種決済方法が表示され、『お支払い方法を選択してください』と音声が流れる。電子マネーの項目を選択しようとしたのを、創太郎がさえぎった。
「カードで払うから、いいよ」
そんな、いいのにと遠慮しようとしたけれど、やんわり制される。土曜の夕飯前の時間帯とあって、後ろにはレジ待ちの長い列が出来ていた。
あっという間に創太郎がパネルを操作して、カードをリーダーに差し込んだ。ほどなく承認されて長いレシートがべろべろと出てきたのを見ると、あずみは申し訳ない気持ちになってしまう。
「ごめん、後で払うからね」
「たいした金額じゃないし、気にしないで。それより早く帰ろう。俺お腹すいた」
創太郎はこともなげに言って、買ったものがぎっしり入った重たいかごをサッカー台へ運んでくれる。
 (でも気にしなくて良いと言われても、気になる…)
そう思いながら、あずみはエコバッグを2つ載せたカートを押してさっさと車へ行ってしまった彼を小走りで追いかけた。
普段は淡々としているように見えて、ああいう場面で少しだけ強引なのは変わらないけれど。
「10年も経てばいろいろあるからね。あの頃はまだ子供だったし」
彼はあの頃よりも更に背が伸びて、今でも細身だけれど肩幅がしっかりとあり、華奢ではなくしなやかといった風だ。
「篠原さんは、綺麗になった。あの頃から可愛かったけど」
あずみは顔が熱くなった。からかわないで欲しい。
「本当に?今も昔も、ぱっとしない気がするんだけど」
「…自分のことをそんな風に言うところは変わらないね」
そう言ってくすりと笑う横顔を見ると、いよいよ恥ずかしくてあずみは窓の外の景色を眺めることしか出来なくなってしまった。
彼が連れて行ってくれたのは地元の農協が運営している大きめのスーパーで、手指を消毒して店内に入るとすぐに地場野菜を扱うコーナーがあり、期待が高まる。
「今日は簡単に、手巻き寿司がいいかなと思ったんだけど」
あずみが提案すると、ショッピングカートを押しながら創太郎もうなずく。
「良いね、俺も食べたい。この辺は魚も美味しいよ、海が近いから」
こんなやりとりが気恥ずかしいけれど、嬉しい。
二人で話しながら地場野菜のところで足を止めた。生産者の名前が入った見るからに新鮮で立派な野菜がたくさん並べられている。しかも安い。
「すごいね…!明後日から仕事だし、いろいろ買っておいた方が良いかな」
テンションが上がって創太郎に言うと、思いのほか反応が薄かった。
「うーん。あまり最初からたくさん買わない方が良いと思う」
「え、そう?野菜、あまり好きじゃないの?」
「いや、全然食べられるし、むしろ好きだけどね。取りあえず今夜と明日の朝の分だけにしよう」
いまいちはっきりしないのが気になったけれど、とりあえずはその言葉にしたがうことにした。
ほうれん草一把とひと袋3つ入りのトマト、それに創太郎のリクエストで早生のミョウガをかごに入れる。
あとは手巻き寿司に使う大葉が欲しい。大葉の存在なくして手巻き寿司は完成しないとあずみは勝手に思っていた。
「大葉は20枚くらい買いたいな」
「大葉も買わなくて良いよ。庭で採り放題だから」
創太郎の言葉にあずみは目を輝かせた。
「…どうしたの?」
「大葉が採り放題なんて、素敵すぎる!買ったら10枚100円が普通なのに」
あずみが感激しながら言うと、創太郎はあずみの顔をじっと見つめた後にふいっと目をそらした。
「え、何?」
どきりとして思わず訊ねる。
「いやごめん。ちょっと可愛いすぎて。…お刺身見に行こう」
そう言ってさっさと行ってしまった彼の、後ろ姿から見える耳が赤いのがわかって、あずみは胸がぎゅっとなった。
鮮魚コーナーでは、創太郎が手巻きずし用のネタセットの一番豪華なものをかごに入れた。
その後は地元のお米や、今後の生活に必要となりそうな調味料、焼きのり、オイル、水などをどんどんかごに入れる。
話しているうちに二人ともお酒がいける口とわかって、ビール、ワインなども多めに買うことにした。商品のぎっしり入ったカートを創太郎が押して、セルフレジに向かう。
お会計は9000円ちょっとだった。
パネル上に各種決済方法が表示され、『お支払い方法を選択してください』と音声が流れる。電子マネーの項目を選択しようとしたのを、創太郎がさえぎった。
「カードで払うから、いいよ」
そんな、いいのにと遠慮しようとしたけれど、やんわり制される。土曜の夕飯前の時間帯とあって、後ろにはレジ待ちの長い列が出来ていた。
あっという間に創太郎がパネルを操作して、カードをリーダーに差し込んだ。ほどなく承認されて長いレシートがべろべろと出てきたのを見ると、あずみは申し訳ない気持ちになってしまう。
「ごめん、後で払うからね」
「たいした金額じゃないし、気にしないで。それより早く帰ろう。俺お腹すいた」
創太郎はこともなげに言って、買ったものがぎっしり入った重たいかごをサッカー台へ運んでくれる。
 (でも気にしなくて良いと言われても、気になる…)
そう思いながら、あずみはエコバッグを2つ載せたカートを押してさっさと車へ行ってしまった彼を小走りで追いかけた。
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