君こそ勇者に相応しい
一話、はじまり
「素晴らしいだろう?異世界転生ってのは。」
「おい、それはどういう事だ?」
突然投げかけられた言葉に訳が分からなくなっている俺に、男は得意気にニヤリと笑う
「君が来る事でこの世界は幸福そのものになる。」
「は?何言ってるのかさっぱりだ、ちゃんと納得出来るように説明を……」
「私にはもう時間が残って無いんだ、許してくれ。」
男の体は少しづつ少しづつ朽ち始めている。
「良いかい?今から君にはこれを与える。私の開発した何でも願いを一つだけ叶える代物さ。」
「そんなの自分で使えば良いだろ!?」
少し強めに俺は言い放った。度々アニメやらラノベやらに出てくるこういうアイテムは何故本人達が使わないのか、不思議で仕方が無い。
「それがね、コレは強すぎる力故に幾つかの制約があるんだ。残念ながら私にこれは使えない。そして私に認められた者しか使えない。だから君しか使えない。分かってくれたかい?
……あ、私に干渉する事も無理だよ。残念ながらね。」
「なんで、そんな事……」
「僕がそうしたかったからさ。あ、そうそう。大事な事を言い忘れていたよ。コレは使うと代償として少し前までの記憶が消えてしまうんだ。叶える願いによってどのくらいの期間の記憶が消えるかは変わってくるんだけどね。」
男はそう言いながら懐から赤紫がかった水晶玉のような物体を手渡しする。
「私には必要無いからね。是非君のような人格の持ち主に渡したかったのだよ。まあ、無理に使う事も無いけど。」
「ッ、俺の願いは……」
男の言葉を聞いて、すぐさま俺は願いを告げる。
俺が願いを言い終えると男は嬉しそうに呟く。
「あぁ、君は本当に、本当に、」
意識が遠のいて行く。徐々に視界は暗くなりつつある。
「…………君こそ勇者に相応しい。」
男が満足そうにそう呟くと、俺は視界が暗転し、テレビの電源が切れたかのように、プツリと意識を失った。
◆◇◆◇◆
ここは、何処だ?
徐々に視界が晴れる。
少しづつ意識が覚醒し、それに伴い頭痛が大きくなる。
記憶が曖昧だ。
完全にここは自分の部屋のベッドである事が確信出来るのに、間違いなく自分の知らない場所である事も同時に確信出来てしまう。
間違いなく自分の体なのに、何処かまるで別の人の体に入って操作しているかのような感覚に陥る。
間違いなくさっきまで生きていたのに、さっき死んでしまったかのような強い恐怖と混乱が俺を襲う。
俺は一体どれくらいの間混乱していただろうか?
まだ一分しか経っていないようにも感じるし、数十分経ったかも知れない。
下手すりゃ何百年……いや、無いな。
だってそんなに長く生きた記憶は無いから。
有り得ない。
少しづつだが混濁した記憶がハッキリして来た。
ここが一体誰で、自分は一体何者か、
俺は、
「俺は、異世界転生者だ。」
痛みが薄れて行く脳で記憶の整理を初める。
俺は死んだら別の世界の住人になっていた、フィ クションとかで言う所謂「異世界転生者」ってヤツだ。
前世の名前は高瀬隆二。
極々平々凡々な普通科の中くらいの成績の普通の高校生だ。
青信号なのに猛スピードで飛び出してきた大型トラックに轢かれてあえなくお陀仏となった筈だ。
あれはきっと居眠り運転か何かだろう。
だが、こうして生きている。
どういう原理なのかは知らないが、俺は意識だけこの体に飛ばされた。
今世の名前はリュージィ・ウッド。
奇しくも前世と発音が似ている名前だ。
呼ばれ慣れて無いから誰かに呼ばれだ時に直ぐ反応出来ないなんて事にはならないだろう。
で、俺の今世での状況は簡単に言うと「亜人」だ。
俺は人間と魔族という二つの種族の間に産まれたハーフだ。
いや、ハーフって差別用語だっけ?まあ、良いや。
そしてこの世界には科学の代わりに魔術という文明が発展したらしい。
確か魔術がどーたらこーたらみたいな感じの絵本を今世の母親に読み聞かせて貰った覚えがある。
魔族に魔術とはなんともファンタジーでぶっ飛んだ設定の世界だ。
身分は、奴隷<貧民<平民<貴族<王族、という風になっている。
多分ここに細かい上下関係やら爵位やらが有るだろうが、一先ずそれは置いておこう。
その中でも俺は、と言うより俺の家族は貧民よりの平民。最も人口が多い身分、だと思う。
そしてその中でもかなり貧民よりの平民だ。
中の下と言うより、下の上と言った方が正しい位の。
理由は人間と魔族はあんまり仲がよろしく無いからだ。
それなのに人間と魔族の夫婦なんて、周りからの扱いが良い筈が無い。
どうやら十年前までは人間と魔族は戦争をしていたみたいだ。
元日本人からすると戦争なんて止めようぜ!ラブアンドピース!な環境で育ったお陰で全く実感が湧かないし、今現在の肉体年齢は六歳なので、戦争の記憶のようなものも無い。
ただ、両親以外の人間と魔族が余り仲が良さげでは無いなとは六歳ながらに感じていた。
もっとも、最近は人間と魔族の夫婦やカップルや、亜人の赤ん坊を街で目にする機会が増えた気もするが。
「五年前までは」と言った通り、ある原因で戦争は終了した、と言うより終了しざるを得なくなった。
その原因とは、人間魔族亜人問わずに蹂躙するこの世を脅かす邪悪、【魔王】を名乗る者が現れた事だ。
魔王は幾つもの村や町を血の海にし、各地に何百何千もの部下を従える、前世風に言うならば「ラスボス」のような存在だ。
魔王の出現により戦争は終結。人と魔は手を組み魔王を打ち倒す事になった。
と言うのが父親が何故皆が俺や俺の家族を嫌っているのかと聞いた時に話してくれた話だ。
父は白い短髪に青い吊り目、灰色の肌に額から二本の赤黒い角が生えた「鬼」と呼ばれる魔族、母は黒い長髪に緑の垂れ目の人間だ。
その間に産まれた俺は右が青、左が緑のオッドアイ、父譲りの吊り目と母譲りの白い肌、一本の父より一回り小さな赤黒い角の生えた亜人だ。髪は黒に白がメッシュに何ヶ所か入っているような色の短髪。
なんか、厨二臭い風貌だな。当たり前の姿なのに恥ずかしくなって来るのは何故だろうか。
科目数的に余った大学ノートに書いたオリ主達に似寄った所があるのが何とも心の内側から抉られる感覚がある。
あぁ、思い出してしまった。
黒歴史ノートを捨てる前に死んでしまった。
スマホとPCの検索履歴やブクマ、
黒歴史の書き綴られたメモアプリ、
保存されたエッッな画像や音声に映像、
SNSの痛々しいイキリ垢、殆ど呟いてないリア垢、愚痴をこれでもかと垂れ流した鍵垢、裏垢見る専門の垢、ネット活動者やサブカル関係者をフォローしまくり語録やテンプレやコラ画像でネタツイにクソリプを送りまくった本垢。
自分で録ってやっぱり恥ずかしくなってフォルダの下の方に並べておいた実況やら歌やら動画やらイラストやらポエムやら、
上げだしたらキリが無い。
死んだなお死にたくなる人間の闇の部分達には、誰かに中に見られる前にどうか安らかに抹消されて一緒に火葬された物だと願いたい。かなしい。
「ただいまー。」
母親の声だ。
勿論、母親というのは前世では無く今世の、だ。
「おかえり、母さん。」
そう言うと母さんは微笑みながら台所へ向かう。
「ただいま、リュージィ。ちゃんとお留守番してた?良い子に出来てた?」
前世の記憶がある為、子供扱いされると滅茶苦茶恥ずかしい。
仕方ないので恥ずかしさに耐えながら演技をしておこう。
記憶が戻る前の俺は素直で明るい男児だった。
「うん!ちゃんと出来たよ!」
そう言うと母はえらいねー、と言いながら料理の準備を初める。
しばらくして父も帰ってくる。
家族皆で夕飯を食べながら父や母の世間話で盛り上がる。
◆◇◆◇◆
それから年月が流れて、せっかく異世界に来たのだからと魔術の練習、前世で毎日趣味でしていた筋トレを続けていた。
この世界の文明レベルはそこまで低く無いらしく、学校のような場所に生かされた。
今の魔族と前の人間の王がそれぞれ教育に熱心だったらしい。そんな事を歴史の授業で聞いた。
異世界に来てスローライフを楽しむのも悪くないのかも知れない。
そう思っていたのに、幸せな時の終わりは突然訪れる。
◆◇◆◇◆
「貴方、冒険者になりなさい。」
母さんはそう言い放つ。
何故こうなってしまったのか、それは少し前に遡る。
一週間前、父さんの働いている会社が倒産した。ダジャレじゃないよ。
理由は不景気。最近魔王は大きな被害は出してない癖に、チビチビした影響はあるらしく、塵が積もり積もって山となってしまったのだ。
いや、不景気にしている時点でかなり大きな被害を出しているのかもしれないが。
「お父さんも再就職先を探してるけど、それまで時間もかかるし、貴方ももう少ししたら自分で稼がなきゃでしょ?」
いや、まだ十二歳ですけど?!
そもそも何故に就職先が冒険者オンリーなんだよ!
「いやいや、なんで冒険者なの?他にもあるでしょ!稼ぎ方!」
「だって貴方、魔術得意でしょ?剣の授業でもちょっと筋が良いって言われてたじゃない。
それに貴方勉強はあんまり得意じゃ無いじゃないでしょ?最初は凄いって言われてたけど、だんだん他の子と変わらなくなってったじゃない。」
うぐッ!そんな直球に言わなくても……
簡単に知識チートできる程現実甘くは無いか。
「分かったよ母さん、俺冒険者になるわ。」
実は少し興味があったりする。
前世では全く接点の無かった剣と魔術、この二つに才能があるという事は、なにか俺の中に眠る戦闘系の秘められし力があるに違い無い!
まぁ、今までそんな片鱗は一度も感じられなかったのだが。
しかし、前世でラノベやアニメ、ゲームを嗜んでいた俺としては冒険者や魔物討伐と聞いて少しもワクワクしないと言えば嘘になるだろう。
……もし魔物がめっちゃ怖かったら魔術や筋肉が必要な仕事を真面目に探そう。
こうして俺の冒険者生活は今、始まろうとしていた。
「おい、それはどういう事だ?」
突然投げかけられた言葉に訳が分からなくなっている俺に、男は得意気にニヤリと笑う
「君が来る事でこの世界は幸福そのものになる。」
「は?何言ってるのかさっぱりだ、ちゃんと納得出来るように説明を……」
「私にはもう時間が残って無いんだ、許してくれ。」
男の体は少しづつ少しづつ朽ち始めている。
「良いかい?今から君にはこれを与える。私の開発した何でも願いを一つだけ叶える代物さ。」
「そんなの自分で使えば良いだろ!?」
少し強めに俺は言い放った。度々アニメやらラノベやらに出てくるこういうアイテムは何故本人達が使わないのか、不思議で仕方が無い。
「それがね、コレは強すぎる力故に幾つかの制約があるんだ。残念ながら私にこれは使えない。そして私に認められた者しか使えない。だから君しか使えない。分かってくれたかい?
……あ、私に干渉する事も無理だよ。残念ながらね。」
「なんで、そんな事……」
「僕がそうしたかったからさ。あ、そうそう。大事な事を言い忘れていたよ。コレは使うと代償として少し前までの記憶が消えてしまうんだ。叶える願いによってどのくらいの期間の記憶が消えるかは変わってくるんだけどね。」
男はそう言いながら懐から赤紫がかった水晶玉のような物体を手渡しする。
「私には必要無いからね。是非君のような人格の持ち主に渡したかったのだよ。まあ、無理に使う事も無いけど。」
「ッ、俺の願いは……」
男の言葉を聞いて、すぐさま俺は願いを告げる。
俺が願いを言い終えると男は嬉しそうに呟く。
「あぁ、君は本当に、本当に、」
意識が遠のいて行く。徐々に視界は暗くなりつつある。
「…………君こそ勇者に相応しい。」
男が満足そうにそう呟くと、俺は視界が暗転し、テレビの電源が切れたかのように、プツリと意識を失った。
◆◇◆◇◆
ここは、何処だ?
徐々に視界が晴れる。
少しづつ意識が覚醒し、それに伴い頭痛が大きくなる。
記憶が曖昧だ。
完全にここは自分の部屋のベッドである事が確信出来るのに、間違いなく自分の知らない場所である事も同時に確信出来てしまう。
間違いなく自分の体なのに、何処かまるで別の人の体に入って操作しているかのような感覚に陥る。
間違いなくさっきまで生きていたのに、さっき死んでしまったかのような強い恐怖と混乱が俺を襲う。
俺は一体どれくらいの間混乱していただろうか?
まだ一分しか経っていないようにも感じるし、数十分経ったかも知れない。
下手すりゃ何百年……いや、無いな。
だってそんなに長く生きた記憶は無いから。
有り得ない。
少しづつだが混濁した記憶がハッキリして来た。
ここが一体誰で、自分は一体何者か、
俺は、
「俺は、異世界転生者だ。」
痛みが薄れて行く脳で記憶の整理を初める。
俺は死んだら別の世界の住人になっていた、フィ クションとかで言う所謂「異世界転生者」ってヤツだ。
前世の名前は高瀬隆二。
極々平々凡々な普通科の中くらいの成績の普通の高校生だ。
青信号なのに猛スピードで飛び出してきた大型トラックに轢かれてあえなくお陀仏となった筈だ。
あれはきっと居眠り運転か何かだろう。
だが、こうして生きている。
どういう原理なのかは知らないが、俺は意識だけこの体に飛ばされた。
今世の名前はリュージィ・ウッド。
奇しくも前世と発音が似ている名前だ。
呼ばれ慣れて無いから誰かに呼ばれだ時に直ぐ反応出来ないなんて事にはならないだろう。
で、俺の今世での状況は簡単に言うと「亜人」だ。
俺は人間と魔族という二つの種族の間に産まれたハーフだ。
いや、ハーフって差別用語だっけ?まあ、良いや。
そしてこの世界には科学の代わりに魔術という文明が発展したらしい。
確か魔術がどーたらこーたらみたいな感じの絵本を今世の母親に読み聞かせて貰った覚えがある。
魔族に魔術とはなんともファンタジーでぶっ飛んだ設定の世界だ。
身分は、奴隷<貧民<平民<貴族<王族、という風になっている。
多分ここに細かい上下関係やら爵位やらが有るだろうが、一先ずそれは置いておこう。
その中でも俺は、と言うより俺の家族は貧民よりの平民。最も人口が多い身分、だと思う。
そしてその中でもかなり貧民よりの平民だ。
中の下と言うより、下の上と言った方が正しい位の。
理由は人間と魔族はあんまり仲がよろしく無いからだ。
それなのに人間と魔族の夫婦なんて、周りからの扱いが良い筈が無い。
どうやら十年前までは人間と魔族は戦争をしていたみたいだ。
元日本人からすると戦争なんて止めようぜ!ラブアンドピース!な環境で育ったお陰で全く実感が湧かないし、今現在の肉体年齢は六歳なので、戦争の記憶のようなものも無い。
ただ、両親以外の人間と魔族が余り仲が良さげでは無いなとは六歳ながらに感じていた。
もっとも、最近は人間と魔族の夫婦やカップルや、亜人の赤ん坊を街で目にする機会が増えた気もするが。
「五年前までは」と言った通り、ある原因で戦争は終了した、と言うより終了しざるを得なくなった。
その原因とは、人間魔族亜人問わずに蹂躙するこの世を脅かす邪悪、【魔王】を名乗る者が現れた事だ。
魔王は幾つもの村や町を血の海にし、各地に何百何千もの部下を従える、前世風に言うならば「ラスボス」のような存在だ。
魔王の出現により戦争は終結。人と魔は手を組み魔王を打ち倒す事になった。
と言うのが父親が何故皆が俺や俺の家族を嫌っているのかと聞いた時に話してくれた話だ。
父は白い短髪に青い吊り目、灰色の肌に額から二本の赤黒い角が生えた「鬼」と呼ばれる魔族、母は黒い長髪に緑の垂れ目の人間だ。
その間に産まれた俺は右が青、左が緑のオッドアイ、父譲りの吊り目と母譲りの白い肌、一本の父より一回り小さな赤黒い角の生えた亜人だ。髪は黒に白がメッシュに何ヶ所か入っているような色の短髪。
なんか、厨二臭い風貌だな。当たり前の姿なのに恥ずかしくなって来るのは何故だろうか。
科目数的に余った大学ノートに書いたオリ主達に似寄った所があるのが何とも心の内側から抉られる感覚がある。
あぁ、思い出してしまった。
黒歴史ノートを捨てる前に死んでしまった。
スマホとPCの検索履歴やブクマ、
黒歴史の書き綴られたメモアプリ、
保存されたエッッな画像や音声に映像、
SNSの痛々しいイキリ垢、殆ど呟いてないリア垢、愚痴をこれでもかと垂れ流した鍵垢、裏垢見る専門の垢、ネット活動者やサブカル関係者をフォローしまくり語録やテンプレやコラ画像でネタツイにクソリプを送りまくった本垢。
自分で録ってやっぱり恥ずかしくなってフォルダの下の方に並べておいた実況やら歌やら動画やらイラストやらポエムやら、
上げだしたらキリが無い。
死んだなお死にたくなる人間の闇の部分達には、誰かに中に見られる前にどうか安らかに抹消されて一緒に火葬された物だと願いたい。かなしい。
「ただいまー。」
母親の声だ。
勿論、母親というのは前世では無く今世の、だ。
「おかえり、母さん。」
そう言うと母さんは微笑みながら台所へ向かう。
「ただいま、リュージィ。ちゃんとお留守番してた?良い子に出来てた?」
前世の記憶がある為、子供扱いされると滅茶苦茶恥ずかしい。
仕方ないので恥ずかしさに耐えながら演技をしておこう。
記憶が戻る前の俺は素直で明るい男児だった。
「うん!ちゃんと出来たよ!」
そう言うと母はえらいねー、と言いながら料理の準備を初める。
しばらくして父も帰ってくる。
家族皆で夕飯を食べながら父や母の世間話で盛り上がる。
◆◇◆◇◆
それから年月が流れて、せっかく異世界に来たのだからと魔術の練習、前世で毎日趣味でしていた筋トレを続けていた。
この世界の文明レベルはそこまで低く無いらしく、学校のような場所に生かされた。
今の魔族と前の人間の王がそれぞれ教育に熱心だったらしい。そんな事を歴史の授業で聞いた。
異世界に来てスローライフを楽しむのも悪くないのかも知れない。
そう思っていたのに、幸せな時の終わりは突然訪れる。
◆◇◆◇◆
「貴方、冒険者になりなさい。」
母さんはそう言い放つ。
何故こうなってしまったのか、それは少し前に遡る。
一週間前、父さんの働いている会社が倒産した。ダジャレじゃないよ。
理由は不景気。最近魔王は大きな被害は出してない癖に、チビチビした影響はあるらしく、塵が積もり積もって山となってしまったのだ。
いや、不景気にしている時点でかなり大きな被害を出しているのかもしれないが。
「お父さんも再就職先を探してるけど、それまで時間もかかるし、貴方ももう少ししたら自分で稼がなきゃでしょ?」
いや、まだ十二歳ですけど?!
そもそも何故に就職先が冒険者オンリーなんだよ!
「いやいや、なんで冒険者なの?他にもあるでしょ!稼ぎ方!」
「だって貴方、魔術得意でしょ?剣の授業でもちょっと筋が良いって言われてたじゃない。
それに貴方勉強はあんまり得意じゃ無いじゃないでしょ?最初は凄いって言われてたけど、だんだん他の子と変わらなくなってったじゃない。」
うぐッ!そんな直球に言わなくても……
簡単に知識チートできる程現実甘くは無いか。
「分かったよ母さん、俺冒険者になるわ。」
実は少し興味があったりする。
前世では全く接点の無かった剣と魔術、この二つに才能があるという事は、なにか俺の中に眠る戦闘系の秘められし力があるに違い無い!
まぁ、今までそんな片鱗は一度も感じられなかったのだが。
しかし、前世でラノベやアニメ、ゲームを嗜んでいた俺としては冒険者や魔物討伐と聞いて少しもワクワクしないと言えば嘘になるだろう。
……もし魔物がめっちゃ怖かったら魔術や筋肉が必要な仕事を真面目に探そう。
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