幼女総長と不良ヴァンパイア

Yunta

1.

「・・・・・・な、なんだ・・・・・・


君は一体・・・・・


誰だ・・・・」


アパートの扉をノックした宗平そうへいが私の返事がないことに痺れを切らし強行突破してきた。

せめて玄関で靴は脱いで欲しい。

ここは日本なのだから。


今宗平は肩のTシャツがずり下がる私を前に冷や汗を流している。

きっとこの人、子供が苦手なタイプだ。


「いや、私はいつもの伊東織果いとうおるかでしゅ。

ただほんの少しばかり背が縮んでしまいました。」


見上げると宗平は固まったままだ。

普段の私は20歳。花の女子大生。

でも今の私は多分5歳くらい。

朝起きたらこんな姿になってしまっていた。


さすがに小学生にもならない5歳となると
どう扱っていいか分からないのだろう。

靴のまま立ちすくむ彼が私を蔑むような顔で見下げる。

きっと宗平にとっては苦手よりも嫌いな部類に入るのかもしれない。


参ったな・・・

真っ先に宗平に見られるなんて・・・・。


「オルカ・・・・?」

「あい。」


宗平はイライラして幼女でも殴ってくるかもしれない・・・・。

でも私はちっちゃくたって無敵・・・・

無敵のはず!

大丈夫!!

万が一殴り掛かって来ても殴り返す!!


宗平が私に手を伸ばす。

私は触られるよりも先に、バッと走り出すと、宗平の脛目掛けて殴り掛かった!!


「っえいっっ!!!!」


ぽすっ 


・・・・・・あれ、

手応えぽすって・・・・・

恐る恐る上を見上げると、宗平の顔が闇に覆われている!

き、きけん、これは危険!!

えまーじぇんしー
えまーじぇんしー

近付いてくる大きな手に私はきゅっと目を瞑った。

ふわっと自分が持ち上げられるのがわかり、ちょっと怖くて両手できゅっと宗平のシャツを握り締めた。


「な、なんだ

この可愛さはっっ!!///」


抱っこされた状態で強くギュウッと宗平に抱き締められた私は、予想外の事態に慌てふためく。

私は全力で宗平の両腕を振り払おうとしてるのに、がっちりほーるどされた形でぴくりともしない!!


し、信じられない!!

たった1日で力を失っちゃうなんて!!!!


私は全く泣くつもりはなかったのに力を入れた反動で涙がぽろぽろ出始めた。

自分の意思と関係なく次々と涙が出てくる。


「うっううー・・・・・」


「はっ!!

ど、どうしたオルカ!!!!

なんだ?お腹が空いたのか??!

それともトイレか?!!」


「うっうぅ、私は猫じゃありましぇん~・・・」



宗平が胸から私の顔を離すと、暫しの間私の泣き顔を確認する。


彼の名前は二越宗平ふたごえそうへい

高3。

綺麗な薄栗色のさらさらヘアに美形すぎる顔立ちの金持ちセレヴヴァンパイア。

白丘しらおか高校のトップを張っている。

私は大学生にも関わらず、宗平は度々センチュリーで大学まで送り迎えをしてくれている。

運動のためにも自転車で行きたいのに何がなんでも迎えに来て無理矢理車に詰め込まれている。

それでも車の中で美味しい朝ごはんを与えてくれるから私も本気で拒否ることはない。



そして今、何故か真顔で私の泣き顔をただひたすら見つめてくる。

沈黙。

私の啜り泣く声だけが部屋に響く。

ジーッと5分ほど凝視してからハンカチでそっと涙を拭いてくれた。

怖い!5分も無言で真顔の凝視が怖い!!

トラウマになりそう!

でも宗平から借りた藍色のハンカチを両手で握るとなんだか少し安心した。

何かを掴むと赤ちゃんは安心するって聞いたことがあるけれどそれかもしれない。

なんて、自分で児虐じぎゃくを思ってみたり。。


「・・・・それよりも、その恰好はまずいよね。」


宗平が抱っこする私の身体をまじまじと見る。

Tシャツが大きすぎて半分肩が丸見えの状態、しかも短パンは当然ぶかぶかで下はパンいち。

Tシャツがワンピースのようになっている。


「うーん・・・うちのリミテッドビルまで行かないと子供服は買えないしな・・・。
でもこれから授業あるし・・・。」


「どうせ今日はもう大学には行けないのでこのままで大丈夫でしゅよ。」


「うーん・・・子供服だとオルカには何色が似合うかな。ラベンダーかな。
あ、あとそのボサボサの黒髪パーマもなんとかしないとね。」


私の言うことを無視する宗平が私を下におろすと、机を隅にやり居間の真ん中に立たせた。

ずり下がるTシャツを必死に上げていると、宗平が何故か目の前でスマホを構える。

え!!


「ななななんでしゅか?!」


という間もなくカシャッとカメラ音が鳴った。


「うん。この画像で執事に見繕ってもらうよ。」


ええ、そ、その画像他の人に見せるのぉ?!

絶対に犯罪のにほいを感じ取られるよ?!

しかも宗平がそんな画像持ってると幼女のオークションに出すのかと思われるよ!!


「じゃあ僕は学校に行って来るから、何かあったら連絡して?また放課後来るよ。」


宗平が振り返って玄関へと歩いて行く。

私も後をついて行くと、玄関で靴を履く宗平が「そうだ」と言って鞄からふわふわの卵サンドを出してきた。


「ほら、これ食べなよ。」


「ありがとうごじゃいましゅ。」


何の躊躇ためらいもなく卵サンドを受け取る。

あ、そういえば言っておかなければならないことがあった。

私は引き止めようと宗平のズボンを掴んだ。


「宗平!」


「・・・何??」


振り返って見下ろす宗平に、私はさっき貸して貰った藍色のハンカチを見せて言った。


「これ・・・
もうちょっと持っててもいいでしゅか??」


宗平の顔を必死に見上げる。

このハンカチを握っているとなんだか安心するし。


すると宗平が玄関で膝をついてガクッと崩れた。


「えっ?!ど、どうしたんでしゅか?!!」


宗平が赤く染まる顔面を両手で抑え、天井に向かって声にならない声で叫び出す!


「っっっ!!///か、可愛ッッ!!!!

あ"ーーーーっっ///・・・」


・・・・・・・・


何でもいいから、

とっとと学校行け・・・・。


宗平は本来悪魔のような笑みがお得意の、
人を見下す系男子だ。

しかも彼は基本女嫌い、動物嫌い、

となれば自然と子供嫌いになるだろうと思っていたのに・・・


「じゃあねオルカ・・・絶対に出歩いちゃ駄目だからね?」


私と視線を合わせ、優しい言葉で囁く。

普段からこうだったらこっちも素直になれるのに。。

いつもはああ言えばこう言う精神で喧嘩が絶えない。

口喧嘩だけじゃなく、身体を張った喧嘩も。


「・・・あい。」


素直に返事をすると再び宗平が私をギュウッと抱き締めた。

・・・なんだかいつもの宗平からはまるで想像つかない仕草に私は思わず顔が熱くなった。


「宗平様!そろそろ行かなくては!!学校に遅れてしまいます!!」


ドア越しに運転手さんの声が聞こえる。


「じゃあね、行って来るよ。」


ここに住んでいるわけでもない宗平があたかも住んでいるような言い方で玄関のドアを開ける。


「行ってらっしゃい。」


私もつい見送りの言葉を掛けてしまった。


パタンとドアが閉まる。

貰った玉子サンドを食べるため居間に戻ろうとすると、ゴムを限界までつめたパンツが落ちそうになった。

やっぱり子供用の下着も必要かも・・・

下着が落ちないように片手で上げると再び玄関のドアがバンッッ!!と開かれた!


「な、なに?!」


音の勢いに振り返ると何故かまた宗平が入って来た。

玄関から靴のまま膝をつき、再び私を全身で覆い始める。


「え?!わ、わしゅれもの?!!」


ハテナしか頭に浮かばない私に宗平がキツく抱き締める。


「はあー・・・駄目だ。。
学校に行きたいのに・・・
この僕を思い留まらせる可愛いさったら・・・
///」


頼むから学校に行って下さい。






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