故郷
里帰り
厳しい日照りの中を,四時間ほど運転して,離れて十年になる地元へ帰ってきた。
この間まで桜が咲いていて花見をしたいと思っていたが,過ごしやすい季節はあっという間に過ぎてセミが鳴く季節はあっという間にきた。山陽道に差し掛かって地元に近づくにつれて,夏空を思わせる空はどんどんと怪しくなり,生ぬるい風がごおごおと音をたてて開けた窓から吹き込んできた。運転席から横目で外をうかがうと,薄汚れた鼠色の曇天の空からわびしい住宅が点々と,人が住んでいる活気も感じさせずに横たわっていた。思わず郷愁の念が込み上げてきた。
そうだ,これがおれが生まれ育った村だ。都会の生活になじみながらも心のどこかで離れることのなかった故郷だ。
昔の地元はここまでではなかったが,今思えばさびれたところだった。昔からさえない場所だった。ただ,美しかった。生まれ育った村の美しさを思い浮かべると心躍った。その頭の中に浮かんだ綺麗な思い出とその景色を,改めて目の前に見える風景とを見比べると,何か違う気がする。昔のこの村と今のこの景色とで何が違うのかを言葉にしようとしても,上手く言い表せない。きっと,昔から変わらずこのままの景色でこの村はありつづけたのだ。変わったのはおれの方だったのかもしれない。長くはない時間見た村の景色とともに運転を続けているとそう思えた。
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