親の職業が○○な娘さん達
小児科にて
アワビ、ココロ。2人が部屋から出ていくと、残ったのはココロが思う存分に頬張ったメロンの香りだけ。
「おー、新井くん。体の具合はどうだね? 気分が悪かったりとかは?」
現れたのは羽織る白衣の上からでも分かる大きなお腹をした男性医師。患者の心配なんてしている余裕があるのかと問いたくなるくらいの不摂生なメタボリック具合である。
「ええ、今のところは特に……」
「女の子が2人でお見舞いに来てくれるなんて、君はなかなかやる男だね。廊下まで楽しそうな会話が響いていたよ」
「は、はい。…………すみません」
どの会話が聞こえていたのだろうかと、ツナギは心配になった。当たり障りのない部分なら問題ないが、アワビが調子に乗っていた部分だとだいぶまずい。
とりあえずツナギは謝ってしまっていた。
「いいよ。……それじゃあ、このスリッパ履いて行こうか。下の階で検査やるから。そんなに時間は掛からないからね」
うるさくしてごめんなさいという風に捉えたのだろうか、医師は手にしていた緑色のスリッパを床にペタンと置き病室を出る。
ツナギはベッドから起き上がり、足をベッドの側面まで持ち上げてそのままスリッパを履いて立ち上がった。
医師に着いて歩く白い廊下。建物の中央辺りまでやってくると、そこには3機並んだエレベーターがあった。
「いやあ、しかし今日はあったかいなあ」
エレベーターの反対側にある窓から外を眺めながら、下の階へ向かう呼び出しボタンを押した。
5階で待機していた真ん中エレベーターが反応し、6階、7階、8階と近付いてくる。
ツナギはそのエレベーターが来るドアに耳を押し付ける。
スゥー………
スゥー………
エレベーターを支えるワイヤーが稼働する音に加え、箱形の物体が空気を押し上げながら近付いてくる音に妙な緊迫感を覚えるツナギ。
「何をしているんだね?」
窓に送っていた視線を戻した医師が少しぎょっとしながら訊ねた。
「エレベーターを見ると、自然とこうしてしまうんですよ」
ツナギは右耳ドアに押し当てたまま、そう答えた。
エレベーターが近付けば近付く程、ドアの向こう側から聞こえる音が厚みを増す。
エレベーターの到着を知らせるベルが鳴るのと、ツナギがドアから耳を離したのはほぼ同時だった。
開いたドア。やってきたエレベーターの中にはだれもおらず、ツナギは腕を大きく振りながらそこに乗り込む。
「何階ですか? 検査する部屋は」
「3階だ」
「ラジャー!」
医師もエレベーターに乗り込んだのを確認してから、ツナギは3Fのボタンをこれでもかと連打した。
「お疲れさん、検査は以上だ。君は先に部屋へ戻りたまえ。また、様子を見に行くからね」
体温を測定するところから始まり、血液を取り、血圧や心拍数。尿も少量採取し、簡単な問診を経て、およそ30分で目を覚ましてからの、とりあえずの検査は終了した。
担当した医師は問診表を確認しながら、パソコンに向かっている様子。ツナギは検査服から、着なれたジャージに着替え直し、検査室を後にする。
検査室から出た廊下は冷たく静か。どこからか、コツコツと音が聞こえたかと思うとすぐにまた聞こえなくなる。
どこからか吹き抜けた風が髪の毛を揺らし頬を冷めさせながらを過ぎ去っていく。それだけの空間。
ツナギはそう思っていたのだが、少し歩くと子供達のはしゃぐような声が微かに聞こえる。
立ち止まって見上げてみると、そこには小児科と書かれたプレートが天井から釣り下がっていた。
そして、そちらの方から………。
テーン、テーン。
硬い床に、キラキラした鮮やかな赤い色のボールが跳ねながらツナギの方へと転がってきた。
「まって〜」
さらにそのボールを追いかけるようにして、小さな子供が小児科のプレートがかかったすぐ側の部屋から飛び出してきた。
ちょうど膝丈くらいのピンク色のスカート。白い長袖のシャツの胸には、何かのキャラクターのデザインされているのが見える。
靴下を履いた足のまま音もなく廊下を走る女の子。頭の右側でまとめた黒い髪の毛を揺らしながらボールを追いかける。
ツナギは左手で掬うようにボールをキャッチし、右手は女の子の腹部にぐるりと回して捕まえた。
「きゃあっ!」
女の子はびっくした様子のままツナギに抱き抱えられた。
「コラ。こんなところでボール遊びなんて関心せぬな」
ツナギは女の子を抱え直した。
「ごめんなさい。ボールが転がっちゃって」
「廊下を走ったりしたら危ないんだぞ。車に引かれたらどうする」
「こんなところに車は走ってないよ?」
「そいつはどうかな? …………ブーン! ブーン!」
ツナギがエンジンを吹かすような口真似をしながらボールを足元に転がし、捕まえた女の子を肩車した。
「ご乗車ありがとうございます。運転中は、しっかりと手すりにお掴まり下さい」
「えーっ!?」
女の子は口を大きく広げて驚きながらも、ツナギの頭を両手でしっかりと掴んだ。
それを確認して、ツナギはボールをドリブルしながら廊下を歩き出す。
「ブーン!! ブーン、ブブーン!!」
肩に乗っている女の子にちょっとしたスリルを感じてもらうように。ちょっとジャンプしたり、横にステップするようにしながら、奥の部屋へと突き進むツナギ。
目に入ったのは、女の子が飛び出してきた部屋。その中では女の子と同じくらいの年齢の子供達が、テーブルでお絵かきをしたり、テレビを見ていたりしながら過ごしている。
「そりゃー!」
ツナギはその部屋に向かって赤色のボールを蹴り上げた。
ボールは2度3度。壁や床を跳ねながら、部屋の隅に置かれていた段ボール箱の中に見事収まった。
「ゴール!!」
ツナギがそう叫びながらまた走り出すと、女の子も頭を掴む手に力を入れながら真似をした。
「ごーる!!」
          
「おー、新井くん。体の具合はどうだね? 気分が悪かったりとかは?」
現れたのは羽織る白衣の上からでも分かる大きなお腹をした男性医師。患者の心配なんてしている余裕があるのかと問いたくなるくらいの不摂生なメタボリック具合である。
「ええ、今のところは特に……」
「女の子が2人でお見舞いに来てくれるなんて、君はなかなかやる男だね。廊下まで楽しそうな会話が響いていたよ」
「は、はい。…………すみません」
どの会話が聞こえていたのだろうかと、ツナギは心配になった。当たり障りのない部分なら問題ないが、アワビが調子に乗っていた部分だとだいぶまずい。
とりあえずツナギは謝ってしまっていた。
「いいよ。……それじゃあ、このスリッパ履いて行こうか。下の階で検査やるから。そんなに時間は掛からないからね」
うるさくしてごめんなさいという風に捉えたのだろうか、医師は手にしていた緑色のスリッパを床にペタンと置き病室を出る。
ツナギはベッドから起き上がり、足をベッドの側面まで持ち上げてそのままスリッパを履いて立ち上がった。
医師に着いて歩く白い廊下。建物の中央辺りまでやってくると、そこには3機並んだエレベーターがあった。
「いやあ、しかし今日はあったかいなあ」
エレベーターの反対側にある窓から外を眺めながら、下の階へ向かう呼び出しボタンを押した。
5階で待機していた真ん中エレベーターが反応し、6階、7階、8階と近付いてくる。
ツナギはそのエレベーターが来るドアに耳を押し付ける。
スゥー………
スゥー………
エレベーターを支えるワイヤーが稼働する音に加え、箱形の物体が空気を押し上げながら近付いてくる音に妙な緊迫感を覚えるツナギ。
「何をしているんだね?」
窓に送っていた視線を戻した医師が少しぎょっとしながら訊ねた。
「エレベーターを見ると、自然とこうしてしまうんですよ」
ツナギは右耳ドアに押し当てたまま、そう答えた。
エレベーターが近付けば近付く程、ドアの向こう側から聞こえる音が厚みを増す。
エレベーターの到着を知らせるベルが鳴るのと、ツナギがドアから耳を離したのはほぼ同時だった。
開いたドア。やってきたエレベーターの中にはだれもおらず、ツナギは腕を大きく振りながらそこに乗り込む。
「何階ですか? 検査する部屋は」
「3階だ」
「ラジャー!」
医師もエレベーターに乗り込んだのを確認してから、ツナギは3Fのボタンをこれでもかと連打した。
「お疲れさん、検査は以上だ。君は先に部屋へ戻りたまえ。また、様子を見に行くからね」
体温を測定するところから始まり、血液を取り、血圧や心拍数。尿も少量採取し、簡単な問診を経て、およそ30分で目を覚ましてからの、とりあえずの検査は終了した。
担当した医師は問診表を確認しながら、パソコンに向かっている様子。ツナギは検査服から、着なれたジャージに着替え直し、検査室を後にする。
検査室から出た廊下は冷たく静か。どこからか、コツコツと音が聞こえたかと思うとすぐにまた聞こえなくなる。
どこからか吹き抜けた風が髪の毛を揺らし頬を冷めさせながらを過ぎ去っていく。それだけの空間。
ツナギはそう思っていたのだが、少し歩くと子供達のはしゃぐような声が微かに聞こえる。
立ち止まって見上げてみると、そこには小児科と書かれたプレートが天井から釣り下がっていた。
そして、そちらの方から………。
テーン、テーン。
硬い床に、キラキラした鮮やかな赤い色のボールが跳ねながらツナギの方へと転がってきた。
「まって〜」
さらにそのボールを追いかけるようにして、小さな子供が小児科のプレートがかかったすぐ側の部屋から飛び出してきた。
ちょうど膝丈くらいのピンク色のスカート。白い長袖のシャツの胸には、何かのキャラクターのデザインされているのが見える。
靴下を履いた足のまま音もなく廊下を走る女の子。頭の右側でまとめた黒い髪の毛を揺らしながらボールを追いかける。
ツナギは左手で掬うようにボールをキャッチし、右手は女の子の腹部にぐるりと回して捕まえた。
「きゃあっ!」
女の子はびっくした様子のままツナギに抱き抱えられた。
「コラ。こんなところでボール遊びなんて関心せぬな」
ツナギは女の子を抱え直した。
「ごめんなさい。ボールが転がっちゃって」
「廊下を走ったりしたら危ないんだぞ。車に引かれたらどうする」
「こんなところに車は走ってないよ?」
「そいつはどうかな? …………ブーン! ブーン!」
ツナギがエンジンを吹かすような口真似をしながらボールを足元に転がし、捕まえた女の子を肩車した。
「ご乗車ありがとうございます。運転中は、しっかりと手すりにお掴まり下さい」
「えーっ!?」
女の子は口を大きく広げて驚きながらも、ツナギの頭を両手でしっかりと掴んだ。
それを確認して、ツナギはボールをドリブルしながら廊下を歩き出す。
「ブーン!! ブーン、ブブーン!!」
肩に乗っている女の子にちょっとしたスリルを感じてもらうように。ちょっとジャンプしたり、横にステップするようにしながら、奥の部屋へと突き進むツナギ。
目に入ったのは、女の子が飛び出してきた部屋。その中では女の子と同じくらいの年齢の子供達が、テーブルでお絵かきをしたり、テレビを見ていたりしながら過ごしている。
「そりゃー!」
ツナギはその部屋に向かって赤色のボールを蹴り上げた。
ボールは2度3度。壁や床を跳ねながら、部屋の隅に置かれていた段ボール箱の中に見事収まった。
「ゴール!!」
ツナギがそう叫びながらまた走り出すと、女の子も頭を掴む手に力を入れながら真似をした。
「ごーる!!」
          
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