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親の職業が○○な娘さん達

わーたん

命よりゲーム機

「そしてツナギよ。お前には、この事件でトラウマを抱えたという演技をして欲しいんだ」


「この事件でトラウマを抱えたという演技? 親父、どういうことだ?」



「ここ何日か、ネットで調べてみたんだが、こんな通り魔のような突発的な事件に巻き込まれた被害者が何かしらのトラウマを抱えるケースがあるらしいぞ。

………しかも、それにより段階的な精神異常が認められれば、賠償金の額が上がったり、保険会社からの保険金が割高になったり。国からの生活受給金がもらえたりするみたいなんだ。そして、恐らく明日、お前は精神病棟での検査があるだろう。そこで上手く演技をして、上手く精神疾患を認めてもらいたいんだ」



「おいおい、親父。そんなことをして大丈夫なのか? もし、そうやってるのがバレたりしたら……」


ツナギがそう言うと、父親は椅子から立ち上がり、ツナギの両肩を力強く掴む。



「何を甘いこと言ってるんだ、息子よ! お前は死にかけたんだぞ! その賠償金が1000万、2000万で納得出来るか! お前の命はそんなに安くないぞ!!」



「でも、その本心は………?」




「相手が金持ちなら少しでも多くの慰謝料をもらって、お前のことなんてどうでもいいから、母さんと豪華なハワイ旅行に行きたい!」



「ろくでもない父親だな!」




「母さんも父さんの意見に賛成だわ! あと、新車に乗り換えたい!!」




「お前らどうなってんねん!」



死にかけながら5日間昏睡していたくらいじゃ変わらない両親の姿にある意味安堵感を抱きながらも、急に張り上げたせいか、少し傷んだ腹部に顔を歪めるツナギ。



しかし、そんな息子の様子など本当にどうでもいい様子の母親がツナギの目の前にニンジンを垂らした。



「もちろん、あんたにもいい思いをさせてあげるわよ! 欲しがってた最新のゲーム機も買ってあげられるし、新しい自転車も! 1000万円上乗せ出来れば、あんた専用のパソコンも付けちゃうわよ!」



痛む腹部を擦りながらも、ツナギはその言葉に自らを奮い立たせた。


「本当に買ってくれるんだな? ゲーム機にパソコンに、クロスバイクに、あと新しい液晶テレビもだぞ! ブラウン管じゃないぞ!」



「ええ、もちろんよ。その代わり、上手くやるのよ。精神科のお医者さんはなかなか手強いはずよ」



「ゲーム機のためならなんでもやってやらあ!!」




「よーし! その意気だ! 頼んだぞ、我が息子よ!!」







「あなた、そろそろ………」



「おっ、もうこんな時間か」



作戦会議が終わるないなや。ちゃんとした家族らしい会話はあまりないまま、ツナギの父親と母親は帰り支度を始める。



換気のために開けていた窓を閉め、使っていた椅子を元の場所に戻した。



「それじゃあなツナギ。また暇があったら来るから。くれぐれも例の件は頼んだぞ」


「ちゃんと病院のご飯食べて、先生の言うことを聞くのよ」



ツナギの両親はそう言って、5日間昏睡していた息子との別れを全く惜しむこともなく、なんなら少しウキウキした様子で病室を出ていった。


そしてそれと同時に、何やら廊下が騒がしくなった。


たった今出て行った両親と、若い女の子の会話が病室まで響いてきた。




「あ、お父様、お母様、こんにちは!」


「おお、2人とも来てくれたのか!」



「あら、こんにちは。……聞いて! ツナギが復活したのよ!!」




(復活って言うな。息子の昏睡回復を復活って言うな、母親よ)



ツナギはそう心の中でツッこんだ。



「本当ですか!? ツナギくんに会ってもいいですか!?」


「ああ、もちろんだよ。君たちは命の恩人だからね!!」


「それじゃあ………会ってきますね!」



「うん。ゆっくりしておいで」



「はい!!」




ツナギは凄く不安だった。声を聞いても、その女の子が誰だか分からなかったから。


中学時代の子でもないし、従姉妹や親戚の子でもない。


しかし会話から察するにその女の子は自分に会えるのを心待ちにしている様子。



だからこそ、誰が来たのか分からなくて不安になった。



ダッダッダッ! と、猛烈にダッシュして廊下を走る音がすぐ側まで聞こえ、勢いよく病室のドアが開かれた。



そして、黒い髪の毛を振り乱すようにしながら、素早い横ステップでそのブレザー姿の女の子が目の前に現れた。



          

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