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親の職業が○○な娘さん達

わーたん

汚い家族会議

「5日間だよ。………輸血は上手くいったから、本当はもっと早く目覚めて欲しかったんだがね。まあ、よしとしよう。担当医である私もようやく家に帰れるよ」



看護士からカルテを受け取り、そこにペンで何やら書き込みながら担当医は続ける。



「ツナギ君。気分はどうかな?」



「………んー、これと言って特には……」



「何か目が見にくいとか、聞こえにくいとか。話しにくいなんてことは?」



「特には大丈夫ですかね………」



「そうか。お腹の方はどうだい? 12針も縫ったから少しは違和感があるかも分からないが………痛んだりとかは?」




そう言われたツナギは、着ている衣服の上からヘソの少し上辺りを撫でてみる。


肌が突っ張っているような感覚があったが、痛いとか痒いというような症状はない。



そのことを伝えると、担当医はまた明日様子を見ながらもう少し詳しくメディカルチェックをする必要があるとツナギに話した。




次の瞬間、病室のドアが激しく開け放たれた。



「ツナギ!!」



「ツナギ! 目を覚ましたの!?」



作業着ズボンに青色の薄いジャンバー姿の男性とジーンズに長袖のニットセーターを着た女性。その上からエプロンを着用したままの共に中年の男女が病室に駆け込んできた。



ツナギの父親と母親である。



ベッドで寝たままであるが、担当医と話すツナギのその姿を見て、2人はその場に崩れ落ちるようになりながら涙を流す。



「よかったあ! 本当によかったあ………」



「ツナギはもう大丈夫、大丈夫なんですね!?あなた!本当によかったわねえ!!!あなた、あなたぁ!!」



通り魔にナイフで刺され、出血多量で意識を失い、病室へ運ばれたと聞いた彼らは愕然としたことだろう。


大切な1人息子であり、輸血が極めて難しい白銀の血を持つ彼であったのだから。

ツナギが目を覚ますまでのこの時間は生きた心地がしなかった。そんな日々を送っていたのは想像に容易い。




しかし、ツナギは気づいてしまった。




父親が持つ紙袋の中に、海外旅行のパンフレットがぎっしり詰まっていることを。




すかさずそのことを指摘する。




「その紙袋の中身はなんだ? 俺の手術や入院の案内ではなさそうだな!」


右腕を伸ばしながら、ビシッと差し示されたツナギの指先が閃光を放った。



「まさか、今回の件の保険金とかそういうので、事もあろうか海外旅行なんてものを企てるつもりなんじゃないだろうな!」




「ひいっ!!?」



「どうしてそれをっ!!」




子供という存在は、得てして親の知らぬところで成長するというが、ツナギの洞察力。勘の鋭さに関しては想像を遥かに凌駕していた。






担当医と看護士が退室し、ツナギの家族による作戦会議が開かれた。


話し合いの内容は、加害者家族から、いかに多くの慰謝料をせしめるか。その1点である。


「ツナギ、よく聞け。幸運にも、お前をナイフで指した犯人はかなりデカイ会社の次男坊だったんだ」


ツナギの父親はそう言いながら、胸ポケットからペンとメモ帳を取り出す。



「マジ? どのくらいデカイ会社?」



ツナギがそう訊ねると、母親が両手を大きく広げる。



「栃木県の中でも、3本の指に入るくらい大きいIT企業らしいわよ!」



「へー。てか、なんでそんなお金持ちの息子が通り魔なんてするんだよ」



「さあ。そんなのは知らん。とにかくそれより今はお前に頼みたいことがある。……今後の我々の懐に大きく関わる頼みだ」



父親はそう言って、座っていた椅子を引き寄せるようにしながら、ツナギが横になるベッドに寄りかかる。




そして万が一、ドアの向こう側にいる人間に聞かれないように声を潜めながら話した。



「実は、加害者の家族側とある程度話し合いは進んでいるんだ。お前が寝ていた間にな」



「ほほう。それでその話はどこまで?」




「他にも、被害者がいただろ? お前は覚えているか?」


「………えーっと確か………派手な服を着たおばさんと、サラリーマンの人が倒れていたような」



「そうそう。その軽症だったおばさんには、800万。サラリーマンの男には、1200万ほどが支払われるそうだ」



想像していたよりも高額な賠償金に、ツナギも思わず身を乗り出す。



母親が続く。



「そしてツナギ。重症で死の危険性が1番考えられたあなたには、2000万円で訴えるのは取り下げてくれないかと話が来ているのよ」


「な、2000万………」



ナイフで刺された以上の衝撃で思わず体の力が抜けた。



当たり前だが、こんな経験は初めてで、それが高いのか安いのかは分からない。しかし、それだけのお金があればゲームソフトが一体何本買えるのだろうかと、そんな想像しか今のツナギには出来なかった。

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