なにげない日常で通り魔に襲われる。

女の子がツナギに中指を立てたその時、すぐ側の路肩に大きな白色のワンボックスカーが停車。


助手席のドアが開かれると、巨人のように大きな女の子が現れた。


中指を立てた女の子とツナギは思わずその大きな女の子に興味を奪われる。



「…………ん……？」



巨人のように大きな女の子は、横断歩道で信号待ちをする２人の視線を感じながら、ワンボックスカーのバッグドアを開き、自転車を取り出した。




そんな瞬間だった…………。








「…………ううっ！！？」



ツナギの背後から、男性のうめき声。喉奥から染み出した嗚咽のような声が聞こえた。


中指を立てた女の子とツナギはふと振り返る。


そこで目にしたのは、立つ力をなくしたサラリーマンの男性が、街灯からずり落ちるゆうにアスファルトの上に倒れる光景。


そのすぐ側では、黒いパーカー姿のキャップを被った男がしばらく固まったまま立っていた。


その男の手には、鈍く光る包丁。刃の７分程が赤黒い血に染まり、地面に向かって僅かに傾いた切っ先からは、ボトリボトリと倒れた男性に血が落ちる。



「…………！！」



包丁を持った男は、男性が倒れてから数秒膠着した後、今度はその刃先を派手な服のマダムに向かって突き刺す。


「…………ギャアァァッ！！？」



マダムの脇腹に、包丁が深く刺さる。甲高い悲鳴をあげる猶予もなく、まるで夜中の暗い台所で黒光りする害虫を素足で踏み潰してしまったような。



そんな声だった。



サラリーマンの男性よりも厚く重い音でマダムもアスファルトの上に倒れた。




「………コロす………全員コロしてやる……」



包丁を持った男はそう呟きながら、深く被ったキャップの奥で目をギラリと光らせる。


そして次の標的に、ツナギの横にいた女の子を選んだ。



(まずい！)



ツナギがそう感じた瞬間には、包丁を持った男はこちらに向かって走り出していた。



包丁を両手でがっしりと握り、それを同じく鈍く光る眼光を揺らしながら、その男が一気に距離を詰めてきた。



何か考えねば。もう２人刺した包丁男に対抗できる手段はないかと、ツナギは必死に頭を回そうとしたが、殺意に満ちた狂人を目の当たりにしては冷静な判断、対策などというものは全く浮かぶことはない。




唯一出来たことは、女の子と包丁男の間に体を入れることくらい。相手のタックルを待ち受ける格闘家のようにそれなりに構えてはみたものの、男の勢いを止めることは出来なかった。





グスリ。



男の体がぶつかった瞬間、腹部にそれまで味わったことのない異物感をツナギは感じた。



鋭く、冷たく。重たく、鋭かった。



その腹部に手を当てることも出来ずに、俺の肩に乗せられた格好になったツナギの両手はだらりと力を無くし、そのまま足元のアスファルトに体が叩きつけられた。






倒れたツナギを見て、にやりと笑った男は、今度こそと女の子を狙って包丁を振り上げる。



女の子は倒れたツナギの姿に動揺し、包丁男がこちらを見ている恐怖で声を出すことも出来ない。



「お前もしねえぇっ！！」




もうダメだ………。女の子が出来たことは、体中を強ばらせ、目を瞑ることだけ。


男が手にする包丁の先が女の子の頭目掛けて振り下ろされる。




その瞬間だった。




「やらせるかぁー！！」



冗談のように体の大きな女の子が自転車に乗り、猛スピードで包丁男に激突していったのだ。