実況!4割打者の新井さん

わーたん

ビクトリーズはどうかしている

「オッケーイ、奥さんナイスピッチング!!」

「奥田さん、ナイスピッチっす!!」

相手バッターをショートゴロに打ち取りチェンジになると、ベンチから控えのメンバーが全員出て来て、好リリーフの奥田さんを出迎える。


なかなかドキドキする場面だったからね。ほっとした感情もひとしおといったところである。

みんな、まるで自分のことのように喜び、ハイタッチを手を差し出す。それが奥田さんの寡黙ながら男らしい頼れるその人柄を物語っている。

「ウッス、ウッス」

奥田さんは帽子を外しながら、利き手で1人1人の手に優しくタッチしていく。

そして最後に奥田さんを出迎えたのは、この回連打されて降板した、もちゃ男………じゃなくてロンパオだった。


「オクサン、アリガトゴジャイマス」

もちゃ男………じゃなくてロンパオは片言の日本語で奥田さんに対してそんな風に謝った。

すると奥田さんは……。

「気にすんな。次も思いきって投げろ」

そう言って、ベンチの1番裏へ。大きな紙コップにクーラーサーバーから、スポーツドリンクを並々注ぐと、美味しそうにそれを一気に飲み干した。

そして、ドカッとベンチの1番後ろに座り、プレッシャーから解放された安堵の表情でしばらくグラウンドを見つめていた。


一気飲みの速度なら負けんと、俺も対抗してスポーツドリンクを煽るが………。



「………ゴフッ! ゲホッ………ゴボッ!?」



思い切りむせてしまった。


「なにしてんだ、お前さんは」


そして奥田さんに呆れられた。







「空振り三振! 最後はズバッとインコースストレート!!ストッパー岸田! 1アウトからランナーを2人背負いましたが、なんとか最後は凌ぎ切りました!これで今シーズン12セーブ目です」

キッシーが1アウトからフォアボールを連発してピンチを迎えたが、まあ、しっかりコーナーを突いた攻めのフォアボールなのであまり心配はなし。

最後はしっかりと右打者のインコースに投げきって空振り三振で試合終了。

なんとか勝った。


これで埼玉との2連戦を1勝1敗で乗り切り、次は水道橋ドームで東京スカイスターズとの3連戦だ。


次こそはビジターで勝って、東京の街に繰り出すぞ。最後は守備固めの為、ベンチに退いた俺は、グラウンド上でハイタッチをするチームメイトの輪に加わる。





「赤月さん! 赤月さん! シェパードさん!シェパードさん! 奥田さん!奥田さん!」

試合が終わり、ベンチ裏でケータリングのおにぎりやサンドイッチをむさぼり食べている後ろで、宮森ちゃんの声がする。

お立ち台に上がる選手を探して走り回っている。

そんな彼女にツナマヨサンドイッチを差し出す。

「宮森ちゃん、サンドイッチ食べる?」

「新井さん、邪魔です! どいて下さい。サンドイッチはまだいりません!」

「むぐぅ!」

逆にサンドイッチを口に押し込まれた。


ひどい! お兄ちゃんは君をそんな子に育てた覚えはないぞ!



「ビクトリーズファンの皆様、お待たせ致しました! ヒーローインタビューです! 本日はお三方をお呼び致しました! 貴重な勝ち越しタイムリーの赤月選手! 決勝ホームランのシェパード選手! そして見事なピッチングの奥田投手です!!」


1塁側のファウルグラウンドではスポンサーのロゴがこれでもかと敷き詰めるように印刷されたパーティションを並べた前でヒーローインタビューが行われている。

今日は3人の選手が上がりお立ち台の上はぎゅうぎゅうだ。

俺があそこに上がる時はいつになったら訪れるのだろうかと、1人ぼんやりと眺めながらそんなことを考えていた。

普通さ、1軍に上がったルーキーがそこそこ活躍したら、お立ち台に上げるでしょ。それほどヒーロー的活躍してなくてもさ。

ヒット2本くらい打ったり、プロ初タイムリーとかしたタイミングでさ。


それでファンの前に立って、マイク握って、自己紹介して、これからも応援よろしくお願いします!! ワアアアッ!! みたいな流れになるのが普通じゃん。

それがファンの皆様にする初めての挨拶。ルーキーの選手がやる通例行事なところがあるじゃない?

それなのに、俺に全然お呼びがかからない。

ヒット4本打った試合もあったけど、呼ばれなかった。


どうかしてるな、このビクトリーズとかいう球団は。

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