実況!4割打者の新井さん

わーたん

みのりんよ、どうか朗らかに

「新井さん、どうです? 痛かったら言って下さいね。まだ勉強したてなのであまり慣れていませんから」

「ああー、めっちゃ気持ちいいわよっ。………ああんっ、そこ、そこぉー!」

「気持ち悪い声を出さないで下さい」


さっきはほんの少しばかり感情が高ぶってしまって、ポニテちゃんに軽蔑されかけたが、誠意の籠ったヘッドスライディング土下座を披露して、なんとか許しを得て、マットレスの上にご招待された。

その懇親のヘッドスライディング時に、足の小指をテーブルにぶつけることになったが、被害はたったそれくらい。

仰向けに寝転がって、片方の足を曲げて、胸に膝がつくまで押し込んでもらうだけなのだが、ポニテちゃんがなかなか力強いので、これが思いの外気持ちいい。

太ももの裏とお尻がグーっと伸ばされる感覚で、そこに溜まっていたこりや疲れが循環のよくなった血液に流れていく感覚。

ぐっぐっとポニテちゃんに押し込まれる度に、俺は溜まりに溜まっていたものが声となって漏れていく。


「あー、そこー!そのままー! さやちゃん、あーん!」

「新井くん、うるさい」

何故だか少しイラついているみのりんに、大粒のイチゴを口の中に押し込まれた。




「あー、すごい!! めっちゃ体軽くなった気がする」

「本当ですか? よかったです。でも、新井さんは結構体がかたいですね。もうちょっと柔らかくした方がいいですよ」

ポニテちゃんにそう指摘されたが、自分でも全くその通りだと感じていた。

入団直後の2軍キャンプの時から、よく関西弁のトレーニングコーチに、これじゃあかん! と、しこたま残業ストレッチをさせられたし。

小学生の頃からも、部活のウォーミングアップアップなんかで簡単なストレッチを行うが、周りの友達達より、ダントツで体がかたかった記憶がある。

背中に上と下から両腕を回しても指先が全然くっつかないし、座って両足の裏をくっつけただけで股がめちゃめちゃいたい。

中学生の時の顧問の先生に、こんなかたい肩回りではピッチャーをさせられないとか、全然地肩の強さを生かせていないともよく言われた。

遠投がチームで1番遠くに投げられたが、マウンドに上がって投球すると、全然球が走らない。

それは体がかたくて、使い方が下手だから、ボールに力を伝えられないと、ピッチャー失格の烙印を押されたものだ。

「あっ、もうこんな時間! みのりさん、私失礼しますね。ごちそうさまでした!」

「うん、気をつけて帰ってね」

熱心にストレッチとマッサージをしてくれたポニテちゃんが、額の汗を拭いながら、急いで帰り支度を始めた。

「さやかちゃん、家まで送って行こうか? もう夜遅いし……」


俺は彼女を気遣ってそう言ったのだが。

「大丈夫です! 新井さんが1番危ない人なので!」


ポニテちゃんはそう言って、カバンを持ち、また明日ー!と言いながら、玄関から出て行ってしまった。

取り残された俺は少しむなしい。


「まあ、日頃のあんたの言動を見ている女の子の判断としては正解ね」


「自業自得」


みのりんもギャル美もひどい。



「新井くん、まだイチゴあるよ。食べて」

「いただきまーす」

忙しくポニテちゃんが帰っていき、静かになったみのりんの部屋。

ダイニングからリビングに3人で移動して、ソファーに腰掛けてテレビを見ながら、地元産のイチゴをパクつく。

ギャル美もそうだろうが、この何を話すわけでもなく、なんとなくテレビのバラエティ番組を見ている時間が俺にはむず痒く感じた。

2人掛けの方のソファーに1人で寝転がりながら、大粒のイチゴをちゅぱちゅぱとくわえたまま食べるギャル美。

癖なのか、ショートパンツからあらわになったムチムチした白い太ももに、付け根から膝近くまで、時々すーっ指を這わせる。

なんの気なしにそれを見ていたら、1人掛け用のソファーで狭く一緒に座るみのりんにつねられた。

「…………」

何も言わず、ただつねっただけで、みのりんはテレビ見たまま。


普段はおっとりしていて口数少ない彼女だが、それ故に全てを見通されているような気がしてならない。

ちょっとでも隠し事をしようものなら、彼女にはすぐバレてしまうのではないかと勘ぐってしまう。


「新井くん」

「なに?」


「可愛い女の子と食べたピザは美味しかった?」


「…………」



ほら、怖い。

コメント

コメントを書く

「現代ドラマ」の人気作品

書籍化作品