実況!4割打者の新井さん
食事制限される新井さん5
9回ウラ、4ー1。1アウト満塁。
試合に勝つためなら、2人までのランナーは返したってかまわない。
最後に1点多ければ勝ちなのだ。
すなわち、2塁ランナーを返したとしても、外野の間を破られて1塁ランナーも返して同点になってしまうのはなんとしても避けたい。
つまりは長打警戒が第一の深めの守備位置になる。
しかし、相手は左バッター。いくらパンチ力があるとはいえ、レフトの俺としては気持ち前に出たい。
定位置より、3歩ほど前にいたい。自分の勝手な判断で。
しかし、カツーンとレフトに流し打たれ、よし! レフトフライだ! と思ったら、俺が勝手に前の方に守っていて、頭の上を越されてサヨナラ負けになったりしたら、俺は今日、ホテルの外で野宿する羽目になる。
野宿はいやだが、この場面、頭の上を越される長打よりも、目の前にポトリと落ちるヒットになる光景が想像できてしまって仕方ない。
守備走塁コーチのおじさんは、ベンチ前に出て外野3人に深めに守れと指示をしたが、俺はそれをスルーしてやることにした。
一応深めには守ってやろうと思うけど、キッシーが投げる瞬間に、前に走ってやろうと思う。
「カウント、1ボール1ストライク。ピッチャー岸田第3球を投げました!!低め変化球打った! レフトへ流し打ち!」
普段、俺の勘なんて全然当たらないのに。
競馬をやれば1番最初に切った馬が最後の直線で大外から突っ込んできたり、こいつは鉄板だろうと思った1番人気を買えば、スタートを派手に出遅れて勝負にならないままにレースが終わってしまったり。
パチンコをやれば3万4万入れて当たらなかった台を知らんおばちゃんに大連チャンされたり。
俺の勘なんてそんなレベルだなんて思っていたけど、野球になるとちょっと話が変わってくる模様。
キッシーの投げたボールは、左バッターのアウトコース低めに落ちる縦のスライダー。
それをバッターは、多少タイミングを外されながらも、上手くバットのヘッドを残してコツンとミート。
その打球が思い描いたように、俺の真正面に飛んできた。
「打球はレフト前! …………いや! レフトの新井がここにいた! 前進、前進! 前進して……… 掴みました!!3塁ランナー、タッチアップ!!
いや、ランナーが戻った、3塁に戻りました! ボールは新井からダイレクトでホームに返ってきました! さすがにこれは無理! ……2アウト満塁となります!なんと今の打球はレフトライナーです」
俺がバックホームしたボールがキャッチャーの鶴石さんに届くと、少しの時間が過ぎて、スタジアムがどよめいた。
俺はそのどよめきを背中で感じながら、頭の上にグラブを乗せて、その場にしゃがみ込んでゆっくりとスパイクの紐を結び直した。
打球が飛んだ瞬間に歓喜したフライヤーズファンと打球が飛んだ瞬間に悲鳴したビクトリーズファンが俺が打球を処理した瞬間に一気に両チームのファンの感情がひっくり返ったのだ。
なんであんな前にレフトがいたんだ?
みたいな雰囲気が辺りを包み、守備走塁コーチのおじさんがベンチから乗り出して俺の方を見ているので、俺はあさっての方向を向いて口笛を吹いてごまかした。
相手チームのファンからしてみれば、打った瞬間は、よっしゃ! タイムリーだ! と喜んだ瞬間に、なんでレフトがそんなとこにいるーん!? なんて、そんなわけ分からん状況。
長打警戒の守備をしていなくても、普通に定位置にいたとしても、十分レフト前ヒットになる当たりだった。
俺の目の前でポトリと落ちて、ちょっと打球の処理をもたつけば、3塁ランナーに続いて2塁ランナーも返って1点差になっていただろう。
それが2アウト満塁のままだ。
守備位置とは恐ろしい。
          
試合に勝つためなら、2人までのランナーは返したってかまわない。
最後に1点多ければ勝ちなのだ。
すなわち、2塁ランナーを返したとしても、外野の間を破られて1塁ランナーも返して同点になってしまうのはなんとしても避けたい。
つまりは長打警戒が第一の深めの守備位置になる。
しかし、相手は左バッター。いくらパンチ力があるとはいえ、レフトの俺としては気持ち前に出たい。
定位置より、3歩ほど前にいたい。自分の勝手な判断で。
しかし、カツーンとレフトに流し打たれ、よし! レフトフライだ! と思ったら、俺が勝手に前の方に守っていて、頭の上を越されてサヨナラ負けになったりしたら、俺は今日、ホテルの外で野宿する羽目になる。
野宿はいやだが、この場面、頭の上を越される長打よりも、目の前にポトリと落ちるヒットになる光景が想像できてしまって仕方ない。
守備走塁コーチのおじさんは、ベンチ前に出て外野3人に深めに守れと指示をしたが、俺はそれをスルーしてやることにした。
一応深めには守ってやろうと思うけど、キッシーが投げる瞬間に、前に走ってやろうと思う。
「カウント、1ボール1ストライク。ピッチャー岸田第3球を投げました!!低め変化球打った! レフトへ流し打ち!」
普段、俺の勘なんて全然当たらないのに。
競馬をやれば1番最初に切った馬が最後の直線で大外から突っ込んできたり、こいつは鉄板だろうと思った1番人気を買えば、スタートを派手に出遅れて勝負にならないままにレースが終わってしまったり。
パチンコをやれば3万4万入れて当たらなかった台を知らんおばちゃんに大連チャンされたり。
俺の勘なんてそんなレベルだなんて思っていたけど、野球になるとちょっと話が変わってくる模様。
キッシーの投げたボールは、左バッターのアウトコース低めに落ちる縦のスライダー。
それをバッターは、多少タイミングを外されながらも、上手くバットのヘッドを残してコツンとミート。
その打球が思い描いたように、俺の真正面に飛んできた。
「打球はレフト前! …………いや! レフトの新井がここにいた! 前進、前進! 前進して……… 掴みました!!3塁ランナー、タッチアップ!!
いや、ランナーが戻った、3塁に戻りました! ボールは新井からダイレクトでホームに返ってきました! さすがにこれは無理! ……2アウト満塁となります!なんと今の打球はレフトライナーです」
俺がバックホームしたボールがキャッチャーの鶴石さんに届くと、少しの時間が過ぎて、スタジアムがどよめいた。
俺はそのどよめきを背中で感じながら、頭の上にグラブを乗せて、その場にしゃがみ込んでゆっくりとスパイクの紐を結び直した。
打球が飛んだ瞬間に歓喜したフライヤーズファンと打球が飛んだ瞬間に悲鳴したビクトリーズファンが俺が打球を処理した瞬間に一気に両チームのファンの感情がひっくり返ったのだ。
なんであんな前にレフトがいたんだ?
みたいな雰囲気が辺りを包み、守備走塁コーチのおじさんがベンチから乗り出して俺の方を見ているので、俺はあさっての方向を向いて口笛を吹いてごまかした。
相手チームのファンからしてみれば、打った瞬間は、よっしゃ! タイムリーだ! と喜んだ瞬間に、なんでレフトがそんなとこにいるーん!? なんて、そんなわけ分からん状況。
長打警戒の守備をしていなくても、普通に定位置にいたとしても、十分レフト前ヒットになる当たりだった。
俺の目の前でポトリと落ちて、ちょっと打球の処理をもたつけば、3塁ランナーに続いて2塁ランナーも返って1点差になっていただろう。
それが2アウト満塁のままだ。
守備位置とは恐ろしい。
          
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