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実況!4割打者の新井さん

わーたん

食事制限される新井さん3

硬球を木製バットの芯で捉える、カツンとした耳に残る音だけが聞こえた。

打球は右中間の真ん中。これ以上ないど真ん中に上がった。

しかし所詮は俺の打球。火が出るような、目を見張るような痛烈な打球ではないが、前進守備で前に出ていたセンターとライトの向こう側に落ちるには十分だった。

バックしていく共に俊足と評判のセンターとライトが追いかける背中を眺めながら、その2人の間に打球が落ちた瞬間。ここは広い札幌。

もう3塁打が見えた。

「打球は右中間の深いところを転々! 打った新井は、1塁を蹴って、2塁へ!! 同点、そして逆転の2塁ランナーが楽々返ってきます!

1塁ランナーの柴崎も俊足を飛ばす!3塁を回って一気にホームへ返ってきました!ボールは今ようやく中継のセカンドに返ってきただけ!打った新井は悠々3塁到達、ガッツポーズ!!走者一掃! 8回表、ビクトリーズ逆転!!」



ふーっ……なんとか打てた。


俺は大きく息を吐いて、はしゃぐ3塁コーチャーのおじさんとハイタッチ。

火照って熱くなる自分の体、スーッとクリアになっていく頭の中。両手に残るボールをインパクトした瞬間の手応え。

「「あらい!! あらい!! あらい!!」


そこでようやく周りの景色が視界に入ってきて、俺は声援を送ってくれるレフトスタンドの応援団に右手を上げた。





とまあ、逆転したそこまではよかったのだが、8回ウラに登板したロンパオがまさかの2失点。先頭打者を打ち取るものの、続く打者はショート前のボテボテ内野安打。粘りに粘られてフォアボールを出して1、2塁とされたとこでライト線へのツーベースで2人のランナーが返ってしまった。

走者一掃のスリーベースで逆転した直後にすぐさま同点とされる展開。これはきちい。

この北関東ビクトリーズとかいうチームは、よほど俺のことが気にくわないみたいで、あと2イニングをなんとかすれば、ビジターでとはいえ 、俺の初ヒーローインタビューが炸裂するところだったのに。

あっという間に同点に追い付かれてしまったのだ。

まあ、相手の北海道フライヤーズも、首位東京スカイスターズとは4ゲーム差。

東日本リーグを制するには、これ以上のゲーム差を許すわけにはいかないと、最下位のうち相手にも容赦ない選手起用と、得意の機動力で目の前の1点を死に物狂いでもぎ取りにくる。

俺の右中間への走者一掃スーパータイムリーで逆転して、意気消沈していたライトスタンドがまたやかましくなった9回ウラ。

同点のため、岸田ではなく、登板した若手のピッチャーが、ライトスタンドへの痛恨の1発を許した。


すなわち、サヨナラ負けである。

6月とはいえ、北海道の夜はまだまだ冷えているようだ。




チームは北海道フライヤーズとの3連戦の2戦目も負けてしまい、またしてもススキノお楽しみ祭りは中止となったわけだが、3戦目となる、木曜日のこの日。

ようやく北関東ビクトリーズの攻守が噛み合い始める。

初回、果敢な初球攻撃で先頭打者の柴ちゃんがプレーボールヒットを放つと、続く2番の俺も初球バスター。

100%バントだと思い前進してきたサードの足元を強襲する楽しい内野安打になり、3番阿久津さんがここは堅実に送りバント。

2、3塁となったところで4番赤ちゃんの詰まった打球が左中間に落ち、幸先よく2点を先制した。

うちの先発、ドラ2ルーキー左腕の碧山くんが、緩いカーブを軸にしながら130キロ中盤のストレートを決め球にする大胆なピッチングを披露。

俺に以外の野手による好守に盛り立てられながらフライヤーズ打線を5回1失点に抑えると、6回には女房役である鶴石さんの3号ツーランがレフトスタンドに着弾。打った瞬間にそれと分かる当たり。本人も確信歩きをかます完璧な1発でさらにリードを広げた。

先発の碧山くんにはこれ以上ない心強い援護点となり、7回はベテランの奥田さんが左打者から三振を2つ奪い、8回をリリーフしたロンパオも今日は素晴らしいピッチング。相手のクリンナップを3者凡退に抑えた。

ビクトリーズ3点リードで、9回ウラを迎えた。

          

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