実況!4割打者の新井さん

わーたん

ヒーローインタビューをしたい新井さん6

同点。9回表、サヨナラ勝ちに向かってなんとか抑えたい場面。


2アウトでランナーが2人。セットポジションからの1球がキャッチャーの構えたコースビシャッ! っと収まる。


「ストライクアウト!!」

もっちゃりした台湾人サウスポーが投げた148キロの快速球。

左打者のアウトコース低めへ、まるで糸を引く如く収まった渾身のストレート。捕球した瞬間に、キャッチャーの鶴石さんがびょんと勢いよく立ち上がり、ベンチに向かって歩き出すような完璧なコースと高さ。

審判の決めポーズが炸裂すると、マウンド上のロンパオは飛び跳ねるようにし、ドヤ顔を披露しながらゆっくりとベンチに戻っていく。

「リ・ロンパオ、素晴らしいピッチング!ランナーこそ背負いましたが、最後は素晴らしいストレートが決まって見逃し三振! さあ、同点のまま、9回ウラ、サヨナラ勝ち目指して、ビクトリーズは8番守谷からの攻撃が始まります!!」

ベンチに戻ると、2イニングを0に抑えたロンパオがチームメイトに出迎えられる。

連続ヒットを許して少しハラハラしたが、最後は気迫の三振を奪い、逆に絶好のサヨナラムードを作り出した。

そして打順は8番から、なんかちょうど良さそうな場面で2番の俺に回ってきそうじゃないか。

守谷ちゃん頼むよ! 出塁してくれよ!





「きわどいコース見送った! フォアボール!! さあ、サヨナラ勝ちへ、ビクトリーズノーアウトのランナーが出ました!」

さすが。浜出君からセカンドのレギュラーを奪った形になりつつある、守谷ちゃんがじっくりボールを見て、フルカウントからフォアボールを選び、価値ある出塁。先頭バッターとして最高の仕事。

最後もきわどいボール球を見極めた守谷ちゃんが、よしよしと何度も頷き、大きく息を吐きながら、1塁ベースまでゆっくり向かい、コーチャーのおじさんとグータッチを交わした。

分かるよ、その気持ち。俺らみたいな選手は1打席1打席が勝負だもんな。

1つ仕事しただけでめっちゃ安心するのよ。また次も使ってもらえるって思うからね。


「よっしゃあ! いいぞ、守谷!」



「サヨナラいけるぞ!」



フォアボールを選んだ瞬間、固唾を飲んで見守っていたビクトリーズナインが一斉に立ち上がり、守谷ちゃんを褒め称えた。



「さあ、ノーアウト、ランナー1塁となりまして、打順は9番ピッチャーロンパオのところですが………当然ここは代打ということになるかと思いますが………」


「北関東ビクトリーズ、選手の交代をお知らせします!バッター、李に代わりまして、浜出。バッターは浜出」

おっ! 守谷ちゃんの活躍の後に浜出君を使うなんて、監督ってば、分かってるじゃない。



セカンドのスタメンでこのところ出場している守谷ちゃんがフォアボールで出塁した後に、浜出君を代打で使う。

目の前でライバルの選手が活躍してるとなれば、浜出君だって負けるわけにはいかない。

俺だってやってやると打席に入るはずだ。


左打席の脇で2度3度と強く素振りをして、浜出君はバッターボックスに入った。


ノーアウトランナー1塁で、バントのサインはない。左バッターとして思い切り引っ張るようなバッティングが出来る絶好の場面だ。


ベンチから見る浜出君の背中からは闘志を感じる。メラメラと燃えるような熱い気持ち。スタメンを外された悔しさをぶつけるにはここしかないという思い。

そんな気持ちがよく分かる果敢な初球攻撃。


カキッ!

打球も鋭くライト線へといい当たりが飛んだ。抜ければ長打コース、一気にサヨナラもあるか!?

そう思ったのだが、いいポジションを取っていたライトの選手が勢いよくダッシュして、打球に飛び込むと、ライン際いっぱいのところでダイビングキャッチ。

そのグローブの先ギリギリで、打球を掴み取っていた。

「うわあ! これはライトのファインプレー! ライト線抜けていれば長打………1塁ランナー守谷の足ならばサヨナラかという打球でしたが……ここは素晴らしいプレーに阻まれました」

浜出君が1塁ベースの前で悔しがる。

しかしこれは仕方ない。

相手のプレーを褒めるしかない。

まあ、柴ちゃんが送りバントを決めてランナー2塁にしてくれるなら、俺が仕留めてサヨナラにして、お立ち台に上がってやるよ。

          

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