実況!4割打者の新井さん
知らぬ女性とおでん屋台
「柴ちゃん。……今からってのはちょっと。ほら、今日の試合に負けたから、外出禁止なわけだし……。勝手に外に出たら後々……」
グラスに僅か残ったお冷やを飲みながらそう言ったのだが、今の柴ちゃんには冷や水にもならなかったらしい。
ガターンと音を立てながら椅子から立ち上がる。
「何言ってんすか!会いにいけって言ったのは新井さんじゃないですか。ほら、行きますよ。早く立って!」
うそーん。
「ユウスケ! ここ、一緒に片付けといて!」
「ういっす」
柴ちゃんはテーブルの片付けを近くにいた浜出君に頼むと、残っていた油淋鶏を平らげた俺を引っ張ってレストランを出ていく。
そして部屋に戻り、外に出る準備を済ませて、誰も見つからないようにホテルを出て、タクシーに乗り込んだ。
俺は押し込まれた。
「彼女が今、近くで友達とメシ食って帰るところだったみたいなんですぐ着きます」
「あ、ああ……」
タクシーの中から見える横浜の夜の街並みがどんどん過ぎ去っていく。
宇都宮にはない高いビル。鮮やかなネオン。行き交うたくさん人々。
10分少々走ったところ。繁華街の1角でタクシーは止まった。
「お釣は大丈夫っす」
柴ちゃんはお金を払うと、さっとタクシーを下りる。
目の前には、イタリアンのお店があった。
柴ちゃんは迷うことなく、そのお店にズカズカと入っていく。
柴ちゃんは堂々とおしゃれなイタリアンのお店に入っていったけど、俺はここでいいやと、店の前で様子を見ていた。
すると、店の中から柴ちゃんが現れる。
「新井さん、すいません。ちょっと、彼女と2人で話したいんで待っててもらっていいですか?」
あ、ああ。いいけどと。了承した俺だったが。
俺が来たところで何の意味があったのだろう。
彼女と話すだけなら、1人でくればよくね?
監督に外出がバレたりしたら、大変なことになるリスクがあるのに。俺に得になることがないじゃないのよ。
柴ちゃんよ。お前は彼女と仲直りしてめでたしめでたし。
その後はホテルに行って彼女を愛でたし愛でたしかもしれないが。
俺になんか旨味をよこせ、旨味を。
と思ったら、柴ちゃんは店から女性を2人引き連れて出てきた。
俺と同じくらい。身長が170センチくらいありそうなスラッと背高く、明るくつやつやした茶色髪の長い女性。まるでモデルみたいに美人でスタイルがいい。
もう1人は、小柄で可愛らしく、愛想の良さそうな黒髪セミロングの女性。俺の姿を見て、ペコリと会釈をした。
「新井さん、彼女の友達とちょっと一緒にいてもらっていいですか? 終わったら電話するんで……」
「え?」
それだけを言い残して、柴ちゃんは背の高い女性を連れてどこかへと歩いていってしまった。
俺は名前も何も知らない女性と2人っきり。
「……………」
「……………」
非常にきまずい。
相手の女性も俺のことを、友達の彼氏の連れ。
ぐらいの情報しかない。
「………」
「………」
何か話さなければ。
え、えーと。
「とりあえず、ラブホ行きます?」
「いきなりか!!」
バッグでバシーンと殴られた。
「あの……お腹すいてます?」
少しの間、もじもじしていると、女性の方から話を切り出した。
ホテルでご飯は食べたが、油淋鶏を4切れとご飯。あとサラダくらいしか食べられなかったので、中途半端に小腹はすいている。
しかし、この女性もさっきイタ飯屋さんで柴カノと一緒に食事をしていたはずなのだが。もしかしたら、俺に気を使ってそう言ってくれたのかもしれないと思うと、少し申し訳ない気持ちになってくる。
「若干すいてるかな。何か食べに行きます?」
「それじゃあ、おでんなんていかがですか?」
「いいね! おでん食べたい!」
今日はちょっと肌寒いし、小腹を満たすにはちょうど良さそう。ナイスアイディアと親指を立てると、彼女もそれを真似した。
「よかったです。こっちにお店があるんでいきましょう」
女性はそう言って、暗がりの路地へと俺を誘い込む。
繁華街のガヤガヤした表の通りから遠ざかった少し静かな場所。
電車が走る高架下のすぐ側に、昔ながらの雰囲気がある屋台のおでん屋さんがあった。
「すいませーん。2人でーす」
女性は屋台骨にかかった赤い暖簾をくぐりながら、中にいた店主のおじさんに声をかけた。
「はい、いらっしゃい」
少し強面の渋い雰囲気のおじさん。頭にねじったハチマキを巻いて、おでん鍋に菜箸を伸ばしていたおじさんは、俺と女性の方をチラリとだけ見た。
他にお客さんはいないようで、おでん鍋を挟んでおじさんの正面に座る。
風情のある年季の入った焦げ茶色の丸い木製の椅子に腰を下ろす。
「お酒飲みます?」
女性はそう言った。その訊ね方で、きゅっと熱燗をいきたいという彼女の気持ちを汲み取った俺は頷いて、店主のおじさんに注文する。
「熱燗を2本と、彼女に大根、卵、がんも、あとはんぺんを………からしは少し多めで」
俺がちょっとかっこつけてそんな注文をすると、たいそう驚いた顔をした。
「え!? どうして私の好きなもの分かったんですか!?」
「それは秘密さ。さあ、俺達が出会った素敵な横浜の夜に乾杯しよう」
とっくりを傾けて女性のおちょこにお酒を注ぐ。
しかし、いくらかっこつけようとも、そんな慣れないことをしたので、せっかくの熱燗をおちょこからだいぶ溢れてしまい、テーブルにだいぶこぼしてしまった。
「あー、ごめんなさい、ごめんなさい!」
俺は慌てておしぼりで彼女の目の前のテーブルを拭く。
「あ、全然平気ですよ! 気にしないで下さい」
彼女はおもしろそうに笑いながら、俺の拭き残しを彼女もおしぼりで拭いた。
「はい、大根、卵、はんぺん、がんもお待ち。牛スジはおまけね」
「ありがとうございまーす!」
グラスに僅か残ったお冷やを飲みながらそう言ったのだが、今の柴ちゃんには冷や水にもならなかったらしい。
ガターンと音を立てながら椅子から立ち上がる。
「何言ってんすか!会いにいけって言ったのは新井さんじゃないですか。ほら、行きますよ。早く立って!」
うそーん。
「ユウスケ! ここ、一緒に片付けといて!」
「ういっす」
柴ちゃんはテーブルの片付けを近くにいた浜出君に頼むと、残っていた油淋鶏を平らげた俺を引っ張ってレストランを出ていく。
そして部屋に戻り、外に出る準備を済ませて、誰も見つからないようにホテルを出て、タクシーに乗り込んだ。
俺は押し込まれた。
「彼女が今、近くで友達とメシ食って帰るところだったみたいなんですぐ着きます」
「あ、ああ……」
タクシーの中から見える横浜の夜の街並みがどんどん過ぎ去っていく。
宇都宮にはない高いビル。鮮やかなネオン。行き交うたくさん人々。
10分少々走ったところ。繁華街の1角でタクシーは止まった。
「お釣は大丈夫っす」
柴ちゃんはお金を払うと、さっとタクシーを下りる。
目の前には、イタリアンのお店があった。
柴ちゃんは迷うことなく、そのお店にズカズカと入っていく。
柴ちゃんは堂々とおしゃれなイタリアンのお店に入っていったけど、俺はここでいいやと、店の前で様子を見ていた。
すると、店の中から柴ちゃんが現れる。
「新井さん、すいません。ちょっと、彼女と2人で話したいんで待っててもらっていいですか?」
あ、ああ。いいけどと。了承した俺だったが。
俺が来たところで何の意味があったのだろう。
彼女と話すだけなら、1人でくればよくね?
監督に外出がバレたりしたら、大変なことになるリスクがあるのに。俺に得になることがないじゃないのよ。
柴ちゃんよ。お前は彼女と仲直りしてめでたしめでたし。
その後はホテルに行って彼女を愛でたし愛でたしかもしれないが。
俺になんか旨味をよこせ、旨味を。
と思ったら、柴ちゃんは店から女性を2人引き連れて出てきた。
俺と同じくらい。身長が170センチくらいありそうなスラッと背高く、明るくつやつやした茶色髪の長い女性。まるでモデルみたいに美人でスタイルがいい。
もう1人は、小柄で可愛らしく、愛想の良さそうな黒髪セミロングの女性。俺の姿を見て、ペコリと会釈をした。
「新井さん、彼女の友達とちょっと一緒にいてもらっていいですか? 終わったら電話するんで……」
「え?」
それだけを言い残して、柴ちゃんは背の高い女性を連れてどこかへと歩いていってしまった。
俺は名前も何も知らない女性と2人っきり。
「……………」
「……………」
非常にきまずい。
相手の女性も俺のことを、友達の彼氏の連れ。
ぐらいの情報しかない。
「………」
「………」
何か話さなければ。
え、えーと。
「とりあえず、ラブホ行きます?」
「いきなりか!!」
バッグでバシーンと殴られた。
「あの……お腹すいてます?」
少しの間、もじもじしていると、女性の方から話を切り出した。
ホテルでご飯は食べたが、油淋鶏を4切れとご飯。あとサラダくらいしか食べられなかったので、中途半端に小腹はすいている。
しかし、この女性もさっきイタ飯屋さんで柴カノと一緒に食事をしていたはずなのだが。もしかしたら、俺に気を使ってそう言ってくれたのかもしれないと思うと、少し申し訳ない気持ちになってくる。
「若干すいてるかな。何か食べに行きます?」
「それじゃあ、おでんなんていかがですか?」
「いいね! おでん食べたい!」
今日はちょっと肌寒いし、小腹を満たすにはちょうど良さそう。ナイスアイディアと親指を立てると、彼女もそれを真似した。
「よかったです。こっちにお店があるんでいきましょう」
女性はそう言って、暗がりの路地へと俺を誘い込む。
繁華街のガヤガヤした表の通りから遠ざかった少し静かな場所。
電車が走る高架下のすぐ側に、昔ながらの雰囲気がある屋台のおでん屋さんがあった。
「すいませーん。2人でーす」
女性は屋台骨にかかった赤い暖簾をくぐりながら、中にいた店主のおじさんに声をかけた。
「はい、いらっしゃい」
少し強面の渋い雰囲気のおじさん。頭にねじったハチマキを巻いて、おでん鍋に菜箸を伸ばしていたおじさんは、俺と女性の方をチラリとだけ見た。
他にお客さんはいないようで、おでん鍋を挟んでおじさんの正面に座る。
風情のある年季の入った焦げ茶色の丸い木製の椅子に腰を下ろす。
「お酒飲みます?」
女性はそう言った。その訊ね方で、きゅっと熱燗をいきたいという彼女の気持ちを汲み取った俺は頷いて、店主のおじさんに注文する。
「熱燗を2本と、彼女に大根、卵、がんも、あとはんぺんを………からしは少し多めで」
俺がちょっとかっこつけてそんな注文をすると、たいそう驚いた顔をした。
「え!? どうして私の好きなもの分かったんですか!?」
「それは秘密さ。さあ、俺達が出会った素敵な横浜の夜に乾杯しよう」
とっくりを傾けて女性のおちょこにお酒を注ぐ。
しかし、いくらかっこつけようとも、そんな慣れないことをしたので、せっかくの熱燗をおちょこからだいぶ溢れてしまい、テーブルにだいぶこぼしてしまった。
「あー、ごめんなさい、ごめんなさい!」
俺は慌てておしぼりで彼女の目の前のテーブルを拭く。
「あ、全然平気ですよ! 気にしないで下さい」
彼女はおもしろそうに笑いながら、俺の拭き残しを彼女もおしぼりで拭いた。
「はい、大根、卵、はんぺん、がんもお待ち。牛スジはおまけね」
「ありがとうございまーす!」
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