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実況!4割打者の新井さん

わーたん

どうしてですかねえ。

昨日の4安打は本当に俺の実力だったのだろうか。実はたまたまのたまたまで一生に1度の奇跡が起こってしまったのではないのだろうか。

それが気になってしまって、日付が変わる前にみのりんの部屋を後にしたのだが、結局寝付けたのは午前3時を回ったくらいの時間になってしまった。

ベッドに入り、布団をかぶって目を閉じてみるが、なかなか寝付けない。打席で見えた景色、ボールを打ち返した感覚。阿久津さんひ誉めちぎられたこと。


体験したこと1つ1つがフラッシュバックする。

初めての1軍スタメンで、たくさんの観客の前でプレーした緊張感とか重圧なんかで体は疲れているのだが、なかなか寝られないのだ。

1度外に出て、マンションの下の公園で素振りでもしようかとも思った。

今すぐにでも打席に立ちたい。そんな気分にもなってしまう。

明日は同じようにヒットを打てるのかどうか。

それを早く試したくて、体がウズウズしていたのだ。

そんなわけで若干寝不足になりながらも、夜は明け、昼になってスタジアムに向かう。


試合開始3時間前のフリーバッティングの時間だ。

「新井選手、バッティング練習開始でございます」


「よろしくお願いします!!」

「あっ、来たな! 打率10割ルーキー」

バッティングピッチャーのおじさんが、そう茶化しながら、バットを構えた俺にボールを放る。

外よりの低めのハーフスピードのストレート。

それに合わせて、俺はスイングした。

バットの芯でとらえた打球はライナーでライト方向へ。

その最初の1球で分かった。

今日も、俺は行ける! と。



よし! 今日の俺は昨日にも増して調子がいいぞ! バッティング練習の感触は完璧。むしろ、昨日よりも調子がいいかもしれない。


体は軽いし、力がみるみるとみなぎってくる。目もよく見える。体調もいい。心身ともに充実している感じだ。




昨日発表された予告先発では、相手投手は埼玉ブルーライトレオンズのエース左腕の桜池投手。

MAX156キロのストレートに威力抜群の高速スライダーがウイニングショット。

今シーズンここまで10試合に先発して8勝1敗。防御率1,80という好成績を残しているすごいピッチャー。

だが、不安はあまりない。対戦するのが楽しみなくらいだ。

うちの打線ではそう何点も取れないだろう。

1点ないし2点以内の勝負になるだろう。今日のうちの先発であるドラ1の連城君が相手エースとまずは対等に投げ合えるかにかかっているのだが。ロースコアのゲーム。


終盤まで接戦の展開ながら十分に勝つチャンスはある。


とにかく早く試合がしたい。試合がしたいのだが…………。




北関東ビクトリーズスターティングメンバー

1番センター 柴崎
2番ライト 桃白
3番サード 阿久津
4番ショート 赤月
5番レフト シェパード
6番キャッチャー 鶴石
7番ファースト川田
8番セカンド 守谷
9番ピッチャー 連城



どうして俺がスタメンじゃないんですかねえ。




試合開始2時間前のミーティングでスタメンが発表された時は耳を疑ったわ。


俺の名前がスタメンにないんだもの。


正直、正直よ? 昨日4安打したら次も文句なしでスタメンで出れると思うじゃん。阿久津さんが3本ホームラン打った以外はほとんどヒットらしいヒットはなかったからね。



しかも、今日の相手さんの先発が左ピッチャーなんだから、右バッターのボクちんが使われると思うじゃない。なんなら、1番バッターとして起用されるんじゃないかと心構えていましたよ。



ちょっとガッカリしましたわ。同じくスタメンを外れた高田さんという風俗大好きの先輩がミーティングが解散になった瞬間に、俺の背中を優しく叩いてくれましたから………。ぐっと前向きに堪えられることが出来ましたけれども。



とにもかくにも試合は始まり、展開はあっという間。うちの連城君と相手の桜池の壮絶な投げ合い。


試合は0行進のまま、8回表2アウトというところまでやってきた。






「これはいい当たり!センター柴崎、背走! センターの柴崎がバックしていく!!

………取りました! 取りました!!8回表、2アウトランナー満塁のピンチでしたが、センター柴崎がフェンス際まで俊足を飛ばして打球を掴みました!

依然として0ー0のまま、試合は8回ウラ、ビクトリーズの攻撃は8番守谷から始まります」


絶対絶命のピンチを連城君がなんとか踏ん張り相手に点を与えなかった。

そして8回ウラ。うちの攻撃である。

今日はスタメンではないので、ひたすら声を張り上げてチームメイトを鼓舞する俺の元に、知らんコーチが近寄ってきた。

「よし、行くか。新井! 連城のところで代打行くぞ!!」



やっと。やっときた。

「待ってました!遅すぎますよ!」

「まあ、そう言うな。大事な8回の攻撃だ。昨日みたいにきっちり打ってきてくれよ」

知らんけど多分な打撃コーチはそう言って、代打の準備をする俺の背中をポンポンと叩いた。


          

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