実況!4割打者の新井さん

わーたん

ギラギラした目のランナー

「それと、相手は左ピッチャーだが、かなり速い牽制があるから、調子に乗ってリード取りすぎんなよ」

「はーい」

俺は知らんコーチの言い付けを守ることなく、一応ベンチからのサインを3塁コーチャー経由で確認して、調子に乗って大きなリードを取る。

ピッチャーがサインを確認している時に1歩2歩3歩。

ピッチャーがセットポジションに入る動きに合わせてもう1歩。

ピッチャーがセットポジションで静止したのを見てもう1歩。

すると、牽制球が飛んできた。

俺は慌てて戻る。

ピッチャーからの牽制球を取ったファーストはキャッチしただけで、タッチはせず、目線だけを俺に向ける。

俺は素早く立ちあがって、土を払い、ボールがピッチャーに返ったのを見て、またさっきと同じようにリードを取る。

タイミングはちょっと危なかったが、決してリードを小さくするなんてことはしない。

調子に乗るなと言われてもアウトにならなければいいのだ。




またリードを取り、3歩4歩とベースを離れる。

俺も高校までピッチャーだったからよく分かる。

なんとなくリードしながら、目をギラギラさせるようなランナーには、牽制球を放りたくなるものだ。

俺もみのりんのエプロン姿にも向けるギラギラした視線を送りながら、セットポジションのピッチャーを見つめる。

ピッチャーの長い間合い。

長い間合いから俺を見たまま、高くゆっくりと足を上げてホームへと足を踏み出した。

その瞬間、俺は2塁へのスタートを切る。

ベンチから初球エンドランのサインが出ていたのだ。

悪くないスタートだ。リードも大きく取っていたし、変化球ならバッターが空振りしても2塁に盗塁成功となるかもしれない。

2塁へダッシュし、3歩4歩走ったところで、スイングするバッターの方をチラリと見る。

バッターはスイングした。

カンッ!

打ち返した。

打球は強いゴロ。

2塁カバーに入った、ショートの正面に飛んだ。

バカァ!!





いくらヒットエンドランの作戦で2塁へスタート切っていたからといって、野手がカバーに入っていた2塁ベース上に打たれてしまっては、1塁ランナーの俺はどうすることもできない。

走りながら心の中でバカァ! と叫ぶしかなかった。

目の前で相手ショートが2塁ベースの位置を確認しながら打球を捕球する。

そのまま2ベースを踏む。そして、送球動作に入る。

一瞬、ゲッツー崩しのスライディングをかましてやろうかと思ったが、最近のプロ野球でもベース上の交錯は風当たりが強い。

俺は真面目にスライディングした。

「アウト!」





「アウト!!」




普通にゲッツーが完成してしまった。

せっかく先頭打者でヒット打ったのに。

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