実況!4割打者の新井さん

わーたん

静岡の旅館にて2

「あっ、さみ………」

駅を出てロータリーに出ると、5月初旬の夜風がびゅうっと吹いてくる。

スーツ姿ではかなり肌寒い中、荷物を抱えて俺は駅前を歩き出す。

向かうは新幹線の掃除おば様が言っていたハンバーガー屋のある路地を入った食堂。

考えてみたら、大阪サウザンドドームの屋台でたこ焼きを食べただけだったので、活きのいい鯛やホタテなんて言われてしまって、俺の腹の虫が2軍落ちの悔しさから目覚めてしまったのだ。

ハンバーガー屋は、ロータリーからよく見えた。赤黄色の有名なカンバン。

新幹線が止まる駅とはいえ、時間も時間なので、人も疎らな駅前の道を歩く。

ハンバーガー屋の脇の路地。そこに入って歩くこと30メートル程。

居酒屋やバーがいくつか並ぶその中に、おそらくは掃除のおば様が言っていたらしきお店はあった。

海鮮食堂つるいし

店先の看板とのれんにはそう書かれていた。

俺はあと1時間ちょっと、営業時間があることを確認して、その店の戸に手をかけた。



「あら、いらっしゃい! カウンターに座ってちょうだい!!」

ガラガラとゆっくり様子見で開けた俺に、間髪入らずに店内から元気のいいおば様の声が突き刺さった。

1歩入るやいなや席に座るような促された。

店内はカウンターに6つ程椅子が並べられていて、4人がけのテーブル席が1つあるだけ。

他にお客さんはおらず、テレビではニュース番組が始まったところだった。

俺は言われた通り、カウンターの1番端に座る。

すると、温かいお茶の入った湯飲みが目の前に置かれた。

「あんただね? 妹の言っていた人格で居眠りしていたという人は」

おば様はそう言いながら、嬉しそうな顔をする。それに若干の寒気を感じながらも、おば様はすぐに厨房の方へと足を向ける。

そして、すぐに戻ってきた。

そして、小鉢を2つ俺の目の前に置く。美味しそうだ。

「もつ煮込みとサーモンのカルパッチョだよ。嫌いなものはあるかい? もう閉店だから、メニューは任せてもらうけど、いいかい?」

「はい、モグモグ……。お構い無く」

「あんた、食べるの早いねえ。お箸くらい使いな」



「はい、お待ち!! ちらし寿司!!」

もつ煮込みとカルパッチョをすぐに平らげて、お茶を飲んで待っていると、大きなどんぶりがご登場した。

マグロの赤身と中トロがこれでもかと、鯛のきれいな白身がその横できれいに輝き、さらにウニもどんぶりから溢れんばかり。

こんな具だくさんの海鮮丼ははじめて。一体いくらするのだろうか。

そんなことも考えてしまったが、一口食べると、マグロの旨味が口いっぱいに広がる。

俺は夢中でどんぶりをかきこんだ。

「もっとゆっくり食べな。はい、えびの味噌汁」

大きい海老がまるごと入った味噌汁もダシが効いていて、海鮮丼と相性抜群。

どーん! と大きいどんぶりを俺はあっという間に平らげた。

「見事な食べっぷりだねえ。さすがプロ野球選手だよ!」

「えっ、おばちゃん知ってたの!?」


心底驚く俺に、おば様はケータイ電話を見せる。

「そりゃあ、三島駅で働く妹に電話で教えてもらったからねえ」

なるほどねえ。

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