実況!4割打者の新井さん
新井さん、非正規ルートで脱走する。
「新井さん、おつかれっす! 後は任せて下さい」
必死になって、ベストを尽くして、それなりのリスクを負ってこの3塁ベースにたどり着いたのに。
今さらベンチから代走の選手が現れ、俺はベンチへと下がらなくてはいけない。
確かに代わりの田沼君の方が足は速いかもしれないが。
このタイミングでこんなことしなくてもいいじゃない。
3塁ベースを引っこ抜いてベンチに持ち帰ってやろうとも思ったけど、今度こそそんなことしたら、退場になるだろうから、それだけはやめておいた。
俺は惜しむようにベースから離れ、ベンチへと向かう。
相手チームさえ、あれ? なんで?みたいな空気なっている中、1人寂しくベンチに戻るのはアホらしかったので、バックネット横の少し低くなっているフェンスをよじ登り、客席の方へと消えて行ってやった。
素直にベンチに戻るのはなんかいやだったのだ。
そして、スタンドから球場の外へ出たところで、関西弁トレーニングコーチとすれ違った。
「新井くん、何してんねん? デッドボールもらって、ランナーに出てたんとちゃうんか?もう試合終わったんか?」
「さ、午後のトレーニング始めましょ」
「ほら、早くトレーニングやりましょう。坂道ダッシュでも、トレーニング室で筋トレでも、なんでもやりますよ」
邪魔なヘルメットを外して、上のユニフォームも脱いだが、関西弁コーチからの返事はない。
なにをボサッとしとんねん。いつもみたいにはよ指示出さんかい! と、言おうとしたら、何やら彼は俺の方を見るだけでなにも喋らない。
そして彼は俺の足元に目線を落としているようだった。
「コーチ? どうしたの?」
「お前さん、足痛ないんか?」
「足?…………いてて」
今まではなんとも思わなかったのだが、言われてみて俺も自分の足元に視線を落とすと、右の足首が少しズキズキと痛んでいることに気付いた。
「いつやったんや? 走塁の時か? ちょっと見せてみい」
関西弁コーチにスパイクを剥ぎ取られ、ソックスを捲られるとくるぶしの辺りが少し腫れているような気がした。
「軽くひねったんやな。病院は行かんでええけど。2日3日は様子見した方がええな。ちゃんと監督さんに言いに行くんやで」
「………はい。でもよく俺が立ってるだけで分かりましたね」
「当たり前や。こっちもプロやで。なめんなや。はよ、監督さんとこ行ってこい」
関西弁コーチと別れ、監督室に向かう間に少し冷静になった俺は2軍の監督とヘッドコーチも俺が足を痛めたことに気付いたんじゃないかとそう思った。
俺自身だけが気付いていないだけで、ベンチにいた人間はみんな気付いていたんじゃないかと、そういうことだったのかもしれない。
だから、あのタイミングで俺に代走を送って交代させたのだ。
きっと。
コンコン。
そうこう考えているうちに監督室に着いてしまった。
試合は終わっているみたいだから、中に監督がいるだろう。
ノックすると、少し間を置いてから返事が聞こえた。
「おお、開いてるぞー」
ガチャリとドアを開けると、部屋にはユニフォーム姿の監督が1人だった。
「なんだ、新井か。どうした? 足の具合を報告しにきたのか?」
「え、ええ。トレーニングコーチには、2日3日様子を見ろと………」
「そうか、そうか。大したことなくてよかったな。…………しかし、悪いな。ちゃんとお前を使ってやれなくて」
「え?」
必死になって、ベストを尽くして、それなりのリスクを負ってこの3塁ベースにたどり着いたのに。
今さらベンチから代走の選手が現れ、俺はベンチへと下がらなくてはいけない。
確かに代わりの田沼君の方が足は速いかもしれないが。
このタイミングでこんなことしなくてもいいじゃない。
3塁ベースを引っこ抜いてベンチに持ち帰ってやろうとも思ったけど、今度こそそんなことしたら、退場になるだろうから、それだけはやめておいた。
俺は惜しむようにベースから離れ、ベンチへと向かう。
相手チームさえ、あれ? なんで?みたいな空気なっている中、1人寂しくベンチに戻るのはアホらしかったので、バックネット横の少し低くなっているフェンスをよじ登り、客席の方へと消えて行ってやった。
素直にベンチに戻るのはなんかいやだったのだ。
そして、スタンドから球場の外へ出たところで、関西弁トレーニングコーチとすれ違った。
「新井くん、何してんねん? デッドボールもらって、ランナーに出てたんとちゃうんか?もう試合終わったんか?」
「さ、午後のトレーニング始めましょ」
「ほら、早くトレーニングやりましょう。坂道ダッシュでも、トレーニング室で筋トレでも、なんでもやりますよ」
邪魔なヘルメットを外して、上のユニフォームも脱いだが、関西弁コーチからの返事はない。
なにをボサッとしとんねん。いつもみたいにはよ指示出さんかい! と、言おうとしたら、何やら彼は俺の方を見るだけでなにも喋らない。
そして彼は俺の足元に目線を落としているようだった。
「コーチ? どうしたの?」
「お前さん、足痛ないんか?」
「足?…………いてて」
今まではなんとも思わなかったのだが、言われてみて俺も自分の足元に視線を落とすと、右の足首が少しズキズキと痛んでいることに気付いた。
「いつやったんや? 走塁の時か? ちょっと見せてみい」
関西弁コーチにスパイクを剥ぎ取られ、ソックスを捲られるとくるぶしの辺りが少し腫れているような気がした。
「軽くひねったんやな。病院は行かんでええけど。2日3日は様子見した方がええな。ちゃんと監督さんに言いに行くんやで」
「………はい。でもよく俺が立ってるだけで分かりましたね」
「当たり前や。こっちもプロやで。なめんなや。はよ、監督さんとこ行ってこい」
関西弁コーチと別れ、監督室に向かう間に少し冷静になった俺は2軍の監督とヘッドコーチも俺が足を痛めたことに気付いたんじゃないかとそう思った。
俺自身だけが気付いていないだけで、ベンチにいた人間はみんな気付いていたんじゃないかと、そういうことだったのかもしれない。
だから、あのタイミングで俺に代走を送って交代させたのだ。
きっと。
コンコン。
そうこう考えているうちに監督室に着いてしまった。
試合は終わっているみたいだから、中に監督がいるだろう。
ノックすると、少し間を置いてから返事が聞こえた。
「おお、開いてるぞー」
ガチャリとドアを開けると、部屋にはユニフォーム姿の監督が1人だった。
「なんだ、新井か。どうした? 足の具合を報告しにきたのか?」
「え、ええ。トレーニングコーチには、2日3日様子を見ろと………」
「そうか、そうか。大したことなくてよかったな。…………しかし、悪いな。ちゃんとお前を使ってやれなくて」
「え?」
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