実況!4割打者の新井さん

わーたん

2軍で頑張る新井さん2

「8番キャッチャー、北野」

8番バッターが打席に入る。ここのところ20打席ほどヒットがないという若手のキャッチャーだ。

肩やリード、キャッチング辺りは1軍でもまあやっていけそうなレベルなのだが、打撃がてんでダメ。

ボールの見極めは出来ないし、ストレートには振り負ける。変化球は初めて見たかのようなスイングで空振りをする。

上背はそこそこあるが、細身でプレーに力強さがない。

2軍で今のところ全試合に出場しているのだが、打率は1割2分台でホームランはなし。

そんな彼が8番で俺の前を打っているのが気にくわないのだが。

まあ、今日はそんな彼が虚しく凡退しまくっているので、送りバント祭りにならなくてすんでいるわけで。

バキッ!

「わあっ!! あぶなっ!!」

折れたバットがネクストで待つ俺に襲いかかる。

俺はなんとかギリギリのところでかわした。


「よーし、いいぞ! 北野!!」

起き上がると、打った北野は1塁に到達していた。


打球はセンター前に落ちるラッキーヒットのようで、塁上の北野は俺に謝る素振りを一切見せることなく、久々の出塁に興奮している様子だ。

飛んできた折れたバットと、粉々になった破片をきれい拾って綺麗に掃除したのに、ベンチから俺に出されたサインは送りバントだった。



無論、決して足の速くない北野君が楽に2塁へ進めるようにきっちり決める。




「さすが新井、ナイスバント!」

「さすが1軍でも決めてきただけありますね!!」

「いやー、人間1つは得意なことがあるんだなあ」

1塁線を這うような素晴らしきバントを決めて、俺は意気揚々とベンチに戻る。

なんだか軽く小馬鹿にされているような気がするが、まあ自分の仕事が出来たからなんでもいいけど。

いい加減俺が送ったランナーを返してくれよ。



俺の願いが通じたのか、1番打者の当たりは鋭いライナーとなってセンターへ。


と思ったら、ショートが横っ飛びしてスーパーキャッチ。

そのまま2塁ベースを踏んでダブルプレー。

スリーアウトチェンジ。

俺は大きなため息を吐きながらレフトの守備位置へと向かう。

少しこう春の青空を見上げながら、俺は守備位置に着くのだ。






カアンッ! と、硬球を木製バットで叩く乾いた音がグラウンドに響く。

うちのピッチャーが投げた低めのストレート。右打者がスイングした瞬間。

あ! こっち来る! そう思った俺の心臓がドーンと高鳴る。

案の定、打球は俺の頭上へと上がった。考えてみれば、2軍ではあるが、プロに入って初めての守備機会である。

青空に吸い込まれるように高く上がった白い打球。これはわりと飛距離が出ているぞ。後ろだ!と思ったら、風に押し戻されて結局は元いた場所に戻る。

打球が落ちてくる。


バシッとしっかりボールをキャッチした。

やったぜ。

差し出した左手のグラブに打球が収まった衝撃はなかなかのもの。いや、久しぶりだったからそう感じただけかもしれないが、やっと野球をしている気分になってきた。

キャッチした打球をショートの子に返すと、センターの子が1アウト1アウトと大きな声を出す。

1つのフライを処理しただけで、少し緊張が和らぎ、俺はまたふーっと息を吐いた。

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