実況!4割打者の新井さん

わーたん

新井さん、1軍に上がる2

「今日、レフト守れるか?」

「イエアッ!」

もうすぐスタメンが発表される直前の時間で、1軍ヘッドコーチの鷹嘴(たかのはし)コーチが何かこそこそとベンチ裏で何かしていた。

なんとなく着いて行ってみると、そこには練習で汗だくになった長身の欧州人野球マンがいらっしゃった。

「それじゃ頼んだぞ」

「オーケイ」

そのまま2人はバイバイしていなくなる。

普段は、ファーストを守るシェパードがレフトってことは、代わりに内野のユーティリティプレイヤーである高田さんがファーストに入る感じだろうな。

まあ、ハナから俺がスタメンなんて思っちゃいなかったけど、マジで外野のだれかがケガしたりしたら、マジで俺が試合に出なきゃいけない感じになるよ。

いや、マジで。







「よーし、全員集まったな。スタメンを発表するぞ。………1番センター柴崎」

「はい!」

俺と同期入団同じテスト生のドラフト9位ルーキーの柴崎。今季チーム初勝利の試合で勝ち越し2ランを放ってお立ち台に上がり、一気に1番センターの定位置を掴んだ男だ。イケメン。

「2番ファースト高田」

「はい」

内野ならどこでも守れるインフィールドユーティリティ。球団就任の際に、1軍監督が唯一獲得要望した、経験豊富な30才。小技も得意。

「3番サード、阿久津」

「はい……」

福岡の球団で2度日本一を経験した大ベテラン。プロ18年目の36歳も持ち前の長打力は健在だ。

「4番ショート赤月」

「おっしゃあ!」

高校通算本塁打70本の鳴り物入りでプロ野球界に飛び込んだ甲子園のスターも、度重なる故障で一昨年ついに戦力外。それでも1年じっくり取り組んだ肉体改造のおかげで、キューバのウインターリーグで大活躍した。

「5番レフトシェパード」

「スィ」

アメリカ企業の親会社が推薦したイタリア人3Aリーガー。193センチの長身を生かした豪快なバッティングでチーム最多の3本のホームランを放っている。今のところ当たり助っ人だ。

「6番ライト桃白!」

「ウィ!」

高い身体能力が持ち味のドラ6外野手。桃ちゃんの愛称でファンからの人気も高い。まあまあイケメン。

「7番キャッチャー鶴石」

「はい」

今はなき静岡ヒーローズの頭脳。プロ野球随一のインサイドワークと、プロ8年で90本塁打を放ったパンチ力も魅力だ。

「8番セカンド浜出!」

「はぁい!!」

高校生離れしたセカンド守備とガッツ溢れるプレーで去年の甲子園を沸かしたドラ8ルーキー。

「9番ピッチャー連城」

北関東大学リーグでノーヒットノーランを達成したタフネス右腕。MAX150キロのストレートと切れ味抜群の高速スライダー。迫力満点のマウンド度胸が持ち味のドラ1ルーキーだ。



「よーし、シートノック始めるぞ! 行くぞ、おめーら!!」

「「よっしゃい!!」」

まだ名前の知らん1軍の守備走塁コーチが吠えて気合いを入れると、選手達がベンチから飛び出す。

試合開始およそ1時間前。最大32000人のキャパシティがあるビクトリーズスタジアムのおよそ4分の1くらいが埋まってきているように見える。

外野の応援団席、バックネット裏、内野指定席辺りを中心に観客が集まり始めている。

おじさん。おばさん。みのりん。楽しそうにはしゃぐ子供。


みのりん!?

グラブをはめて、1塁側ベンチからレフトのポジションに走り出そうとした時、ふと見たスタンドに愛しのみのりんの姿が。

俺が気付いて驚いた様子を見た彼女は、防球ネット越しに、照れたように笑いながら、俺に手を振る。

「コラー。よそ見すんな! しっかりやんなさいよー!」

げっ、ギャル美!

「新井さーん! 頑張って下さいねー!!」

あっ、巨乳のポニテちゃんまで。

彼女達の応援に思わず緩んだ頬を隠すように、顔にグラブを当てながら、俺はレフトへのポジションへと走り出した。

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