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実況!4割打者の新井さん

わーたん

かしまし3人娘。

「「いただきまーす!!」」


みのりんのお部屋にて、みんなで晩ごはん。台所のすぐ脇のダイニングに、俺の部屋からも椅子を持ち出し、4人でテーブルを囲む。

今日ディナーは、ミートソースパスタ。


ちょっと遠いスーパーに売っているという生パスタをごっそりと買ってきた、ちょっと美味しいやつ。


ミートソースは、もちろんみのりんの手作り。ひき肉がたっぷり入っていて、トマトの仄かな酸味が堪らない。

お腹をぐーぐー鳴らしながらいただきますと手を合わせる。

「ねえ、どーなのよ。あんた、怪我の具合は。大丈夫なの?」

ギャル美は、フォークで丸めたパスタを頬張りながら、俺の折れた左手に視線を落とす。

俺はそれに合わせて、ちょっとだけ顔を歪めながら薬指を動かしてみる。折れてから10日程になるのだが、心なしか調子は悪くない。

「なんかね、もしかしたら治って来てるんじゃないかって思ってるんだよね。あと2、3日したら、病院で診てもらおうかなって感じで」


ヘラヘラしながらそう答えると、ギャル美は唾を飛ばしながら声を上げた。

「バッカじゃないの!? 骨折でしょ? 10日やそこからでくっつくわけないでしょうが。早く治したいのは分かるけど、くれぐれも無理すんじゃないわよ!変に無理をして余計長引いたらどうすんのよ!」


ギャル美は俺のことを心配したいのか叱りたいのか、よく分からない。それでも、俺にかまいたいのはなんとなく分かるので、嫌な顔をせずに受け答えする。


「あの、ちなみに新井さんは、今何年目の選手なんですか?」

タイミングを見計らうようにして、山名さんが訊ねる。パスタがだいぶお口に合うようで、ほっぺたまで少しソースで赤くしたお顔をこちらに向けたら、

「1年目だよ。こう見えて、ピカピカのルーキーマンなんだよ」

それを聞いて、山名さんが心底驚いたような表情を見せた。

理由はなんとなく分かる。

「そうだったんですか!?すみません。私、新井さんのこと、5年目くらいの方だと思っていました」

うん、まあ。年齢的にはね。



「ほんとそれよね。28才になるシーズンにプロ入りって、どれだけオールドなのよあんたは。今まで何をしていたの?」

ギャル美にそう言われた時、俺は今までの色んなことを思い出した。

高校時代に監督批判で干されていたこと。大学で野球をやりたいと言った時に、親にブチギレられたこと。

やっと見つけた社会人野球チームが加入してすぐになくなってしまったこと。

気力をなくし、俺には野球をやる資格はないのかと自分の境遇を呪い、ダラダラとただアルバイトをしていたこと。

今の今まで彼女というものが出来たことがないことまで思い出してしまった。

しかし、それを口にしようとは思わなかった。

彼女達は3人ともそれを聞きたそうにしているが、1つとして何も話す気は起きないのだ。




          

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