実況!4割打者の新井さん

わーたん

人生が変わるとき4

「新井さん、お疲れ様です。何かありますか?」



ようやく午後4時になり、朝礼を遅番組が出勤。俺が現在空き台になっている台も灰皿部分もピカピカに磨き上げられており、スロット台のメダル補給機の中も閉店まで持つくらいにパンパン。

これ以上なく完璧に整えたコースに入るのは、まさにさっきの面談で話に上がった研修明けの新人スタッフ。

台を開閉する鍵とデータ表示器のランプを操作するリモコンのセットを渡し、今日は特に異常がないこと伝えた。



俺を含む早番組は引き継ぎを終えた人間から、景品カウンターの後ろにある、重たい鉄扉の向こう側に向かい、インカムを充電器に戻しながら、ぞろぞろと事務所前の開けたスペースに集まる。

早番組が全員集まり、社員も事務所から出て来て終礼が開始される。数日後に控えた新台入れ替え、それに伴う店休日の作業の割り振り。最近流行っている、ゴト行為に関する啓蒙だったり、今日獲得した新規会員数の確認など。

いつもと変わらないそんな感じの終礼が終わり、みんなでゾロゾロワイワイしながら事務所に入り、タイムカードを打刻した。



「いやー。今日も疲れましたねー。飲みに行きましょうよ!!」



この前ガッツリ飲んだばかりなのに、酒好きの後輩はまた向かいの居酒屋へと俺を誘う。しかもまだ夕方前だ。



給料も出たとこだし、俺としては隣町のパチンコ屋が今日新装開店日なので、車を出すから行こうと返してなんとか揉み消そうと試みる。



「まあ、いいっすけどー。その後はちゃんと飲み行きますからね。誤魔化さないで下さいよ……」



彼は不服そうな顔をしているが、結局は同じくパチンコ好きなので、わりかし悪い提案ではないという顔つき。



俺達2人はそんな会話しながら、更衣室に入り、私服に着替え、店を出ると、そこにはスーツを着た1人の男が待ち構えていた。


「どうも、こんにちは。初めまして新井君。私はこういう者です」



男は黒い生地に細い白ラインの入ったスーツをぴちっと着こなしており、スポーツマンのようななかなかの体格。そして、薄いピンク色のネクタイを締めている。



見た感じ30前後の短髪で、爽やかな印象のある男だ。



彼は何度も頭を下げる動作をしながら、名刺を差し出してきた。



「新井さん…………?」



男の様子と名刺を見て後輩が恐る恐るながら、ちょいと俺の顔を覗き込む。



俺はなんだかまずいと思い、今日の飲み代にでもしろと1万円札を突き付けて、空調の室外機に向かって蹴り飛ばした。


「ありがたき幸せ!!」


後輩はそう叫びながら、1万円札を拾い、どこかに居なくなった。



受け取った名刺には、北関東ビクトリーズ。間違いなく、北関東ビクトリーズ、スカウト部。中込智則と書かれていた。



スカウト。プロ野球のスカウツ。一瞬にして、ドクンと心臓が跳ね上がったのが分かった。



「この後時間あるかな? ちょっと話があるんだ」



一体何の用だろうか。

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