実況!4割打者の新井さん

わーたん

人生が変わるとき3

休みの日は必ずといっていいくらいパチンコ屋で遊んでいるわけだけど、いつも思う事がある。



それは、なんだかしょーもないなー。



という事。



俺はパチンコなんかしてていいのだろうか。



土日には競馬をしてていいのだろうか。



他にやるべき事があるのではないだろうか。





俺はパチンコ台に座り、当たり外れに一喜一憂しながらそんな事ばかりを考えている。



ただね。どーも仕事がない、まるっきり予定のないので休日になると自然に、自堕落で楽天的な生活、考え方になってしまう。根本的にそういう性格なのだからだと思うが。



そりゃあ、パチンコ屋でもいいから社員として雇用してもらってちゃんと働かないとなあとは考えたりすることもあるが。



そういう行動を起こさなければいけないのだけれど、どうにもなんだかやる気が起きない。



よくプロテストなんか受けにいったなと、自分を誉めてやりたいくらいだ。



「新井君。無線取れる? 手空いたら面談やるから事務所に来て」



パチンコ店では、周りにたくさんのパチンコスロット台が常時稼働しているため、側に寄らなければ言葉を交わす事も難しい。



そのため、携帯電話よりも少し大きいサイズの無線機。うちではインカムと呼んでいる機械を腰につけ、イヤホンを片耳に装着し、首から下げたピンマイクを使ってやり取りをしている。



常連のお客が獲得した出玉をザバーっとシマ端にある機械で計数していると、店長からお呼びの無線が入った。



出玉を記録したレシートをそのお客に渡し、自分の持ち場になっていたシマを同僚スタッフに任せ、俺は事務所へと入る。



そこにはデスクに設置したパソコンで仕事をする店長がいるだけ。

「悪いね。君だけ評価面談がまだ終わってなかったからすぐにやっちゃおう」



店長は脇に置いていた数枚の用紙を持ち出し、向かいに椅子を用意し、俺をそこに座るよう促す。



たまたま自分の仕事が片付いた時に、俺の評価面談を思い出したものと推測出来る。そんな風に後回しにして始められた評価面談。聞く必要もなく、俺の評価は可もなく不可もなくということなのはすぐに察知出来た。



「それじゃあ、始めよっか。まずは、いつも通り遅刻欠勤はなしで…………。通常業務も問題なしと。最近は新人スタッフの指導にも積極的に力を入れていると。…………ん? ちょっとごめん系列店から電話来ちゃった」



店長は面談の用紙を持ったまま受話器を取ると、すぐ笑い声を上げながら電話の向こうの相手と話を始めた。



これは最低5分は待たされるな。



俺は座ったちょうど目の前にあった、社員が共同で使っているパソコンをカタカタとなり、今度出る新台のパチンコ台の情報やスペックなどを確認して時間を潰していた。


そしてきっかり5分。話を終えた店長が白い電話機の受話器を置いた。



「いやー、ごめんね。話が長引いちゃってさ。………どこまで話したっけ? ………そうそう。それで、勤務態度もよくて、結構常連さんから元気がよくて、丁寧な接客だってよく耳にするんだよね。まあ、前からそうだけど……」



店長は俺の評価面談の用紙に目を通しつつ、紙コップに入ったコーヒーを啜りながら話を続ける。



俺なりにも、普段からそれなりに頑張っていたつもりなので、店長の口からはお褒めの言葉がそれなりに出てくる。



この調子なら先月に続いて更なる時給アップは確実だな。という手応えを掴みつつはあったのだが………。



「それでこれからの時給なんだけど、本当は少し上げる予定だったんだけど。新人スタッフの研修明けと重なっちゃってさ。今回はそういうわけで時給変動なしでということでお願いしていいかな?」





なんだと。あんだけ誉めといて。しかも評価額面談の採点はほぼ満点。



それなのに、新人スタッフの方が優先にされてしまうのか。





まあ、いいけど。



「ごめんねー。助かるよ。次の面談では、今回の分のお詫びするからさ。ほんとありがとう。それじゃあ、ここにハンコ押してくれる?」



フルカウントから投げたアウトローいっぱいの真っ直ぐをボールと判定されてしまったりそんな気持ち。



提示された用紙には据え置き時給の1250円がそのまま。


俺は胸元から印鑑を取り出し、自分の名前の横にゆっくりと押してやった。

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