実況!4割打者の新井さん

わーたん

プロテスト5

「よーし、いくぞー!! サード!!」

もうすぐクリスマスだ。

そう言っていいくらいの時期なので、外はとても寒い。

野球のポジションの花形といえば、やはりピッチャーだ。

豪速球でバッタバッタ三振に取ったり、巧みな投球術で打者を手玉に取る。

野球の7割はピッチャー。そう言われるくらいの重要なポジションなのは当たり前の事だ。

今回集まったトライアウト生の60人中30人はピッチャーだ。

残りの選手はみんな野手なのだが、大半は内野手。もしくは外野でも、センターのポジションに就いている。

この期に及んでレフトのポジションにくるようなやつは、俺以外誰もいない。

だって、他のポジションのガチ感が半端じゃなかったんだもの。

平和なのはここだけだよ。

センターにいる俊足野郎共や、ライトにいる強肩自慢野郎共に対し、俺はただ1人さみしくレフトのポジションで、内野手達のスピーディーなノックを見つめていた。


内野のポジションに就いた面々の動きは俊敏で、目立つミスはほとんどなく、スムーズなノックが行われている。

打球に対して最短距離で正面に入り、捕球してから素早いステップで送球している。

内野の深い位置からでも、ワンステップで1塁手へ鋭い正確な送球だ。

どーせみんな大学とか社会人とか。独立リーグとかでレギュラー張ってるような奴らだ。

それくらいは当然のプレーなのだろう。

守備だけなら、プロレベルの奴が何人もいる。

前後ろ、横にいる奴全員がライバルだからな。凌ぎを削りながら、少し他人のミスを期待しながら。ファールグラウンドで腕組みをしているおじさん達にアピールを続けている。

そんなノックも順調していったようで、ノッカーのコーチが2、3歩前に出て、バットの先を俺の方へと向けた。

心臓がドクリと跳ね上がる。

俺がグラブを上げて声を出すと、乾いた打球音が俺に向かって心地よく響いた。



ボールが高く上がった上空を見つめる。

少し右かなとそちらに動き、風に流されて左に動き直して、結局元いた定位置でフライをキャッチした。

そして、危なげなく中継の遊撃手に返球する。

ふう。緊張したぜ。

「はい、次センター!!」

ホームベース付近から打たれた打球が高く上がり、センターの定位置付近のフライとなり、トライアウト生達が順番に捕球していく。

左中間、右中間の深いところでフライをキャッチしても、1歩踏み込むだけで、カットマンを通り越して2塁ベースに素早くボールが返ってくる。

俺はそれをただ関心しながら眺めていた。

「よーし、もう1回レフトいくぞー!」

なんとか他に意識を移す事で緊張をほぐそうとしたけど、いざノッカーが自分に打球を打とうとバットを掲げるとめちゃくちゃ緊張する。

頼むから、正面のライナーだけは止めてくれとか、取れるか取れないか際どい打球だけは勘弁してくれとか。

そんな願いが通じたのか、レフト線への低い打球が放たれた。

俺は安心しながら下を向き、緑色鮮やかな芝生を視界にして、フェンス際に転がる打球を追った。

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