最強暗殺者は落ちこぼれ学園生

葉音香桜

最強暗殺者

  「やーい!落ちこぼれ!」
   殴られる、蹴られる。 
「や、やめて……痛い……」
   そういじられている黒髪の、中性的な顔をした少年が弱く言うと、いじめっ子達がげらげら笑う。
「痛い…やめて…だって!」
「ははは!笑える〜!!」 
「やめるかっての!」
   そしてまた蹴り始める。
「やめてほしかったら俺を超えてみせろ!」
   勝手なことを言ういじめっ子。

「なにしているの!あなた達!」
   そういう声が聞こえる。
   いじめっ子たちは慌て始めた。
「やっべ!」
「帰ろう!」
   バタバタと帰っていく。
   すると先生が言った。
「大丈夫ですか?」
   少年が答える。
「うん、大丈夫」
   あれだけさんざん殴られたのに、傷一つついていない。
   それを見て、白色のきれいな髪の先生が言った。
「よく我慢できますね。わたしには無理です」
「そう?先生も魔術師なんだし、できるでしょ」
「プライドを引き裂かれて、私には我慢できません。先手必勝、こちらから仕掛けます」
「ははは……」
   苦笑いをする少年。
   しかし、少し真剣な顔になると、まるで言い聞かせるように行った。
「けど、こういう時は、プライドは捨てたほうがいい。僕たち暗殺者は、こういうことも大事になってくる。こういう依頼も来るからな」
「なるほど、肝に銘じておきます」
   生徒に指摘される先生。
  周りから見れば、なんとも不思議な光景だった。



   この国では、魔術師は暗殺者だ。国に認められた暗殺者。残酷な仕事をする代わり、名誉と一生遊んで暮らせるくらいの報酬がもらえる仕事。低い位の貴族が主だ。

   しかし、魔術師は今、十人にも満たない。先程の先生、名は、ハンナ・ローガン。国立魔術師育成学園の校長。その人も魔術師の一人だ。

   そのうちの一人であり、最強と謳われる少年がいた。
   レアン・オルドーラ 。

   先程のいじめられていた生徒の名前でもある。
 しかし、この世でこの名前を知っているのは、同僚の魔術師か、公爵、王家だけだ。

   その他の人には「闇の暗殺者」と言われている。誰もレアンの姿顔を見たことがないからそう呼ばれている。しかし彼は、平民育ちで、名誉はいらない、報酬も半分程度しか受け取らない。

   不欲な彼は、国民からの支持も得ている。そんなレアンがなぜ学校に行っているかというと、単に、「学校に行ってみたかったから」。
 たった6歳で暗殺者になった彼にとって、同年代が通っている学校が羨ましかったのだろう。

   「学園に行くこと」それがある日の依頼の報酬だった。



   レアンはハンナに明るく言った。
「じゃ、先生、僕はもう行くね。明日も学園だし」
「はい、おやすみなさい、レアン君」
   そしてハンナはお辞儀をして見送る。
   魔術師の世界は実力が全て。
   だから魔術師としての経験が自分より短いレアンにそう接さなければならないのだ。

   しかしそれは仕方がない。そう接しているのはハンナだけではないからだ。その他の魔術師、そして魔術師である国王の弟までもがレアンに敬意を払っている。

   ハンナは学園生活を楽しんでいる、最強魔術師をほほえみながら見送った。



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