愛と呼べるかもしれない境界線の狂気
空洞に染みる雨
少女は銃口を少しも震わせずに、真っ直ぐに空を狙っていた。
緑色のフェンスに覆われた屋上からは、周りの建物が気にならないほど、空がとてつもなく広く感じる。彼女のための舞台のように、その空間は彼女と綺麗に一体となっていた。
俺は指先一つでも動かしてしまえば、その美しい光景が崩れてしまいそうな気がして、彼女をただ見つめていた。
俺と少女は、彼女の持つ拳銃の射程より少し短いくらいの距離で、互いに身動き一つせずに向かい合って立っている。
彼女はじっと狙いを雲の切れ間に定めて、そこから目を反らそうとしない。俺は視線だけは動かして、少女が呼吸する度に少し膨らんではまた縮む胸や、風にはためいてヒラヒラと揺れるスカート、その隙間から見え隠れする太もも、今にもすっと零れそうな頬に彫られた雫型のタトゥーに見とれていた。
しばらくの間、二人はそうしていた。永遠にも感じる時間のなかで、俺はこの時間がずっと続けば良いのにと思っていた。
俺が、教室の後ろの席からいつも見ていることなんて、きっと気づいていないのだろう。彼女はそれどころではないのだから。そして、俺を気にも留めないような彼女だからこそ、好きになってしまったのだろう。
前触れもなく、少女は引き金にかける人差し指に力を込めた。その瞬間、拳銃のシリンダーは回転し、それに合わせて撃鉄が跳ねる。そして、耳を貫くような爆発音と共に一発の弾丸が、空へ向かって放たれた。
弾丸は空気を切り裂き、一直線に雲を掻き乱して空の彼方へ消えた。すると切れ切れになった雲が互いを引き付け合い、ぐるぐると回転しながら収束していった。
やがて辺りは、滝のような雨に包まれた。少女は雨に打たれながら、濡れた体を気にも止めず、弾丸が消えた空を眺めながら微笑んでいた。彼女の頬の雫型のタトゥーが雨に溶けて流れ出そうとしていた。
突然、俺は体の中心に違和感を感じる。何事かと頭ごと視線を動かして、自分の胸を見る。俺の体にはボーリングの玉ほどの穴が大きく空いていた。背中側までそのまま貫通している。
その穴の中心、本当なら心臓があるはずの位置に、強烈な痛みを感じた。あまりの激痛に、俺はその場にうずくまる。だが、体を倒したのは間違いだった。
なおも降り続く雨が、俺の体に空いた穴をすり抜けて地面に落ちる。雨の雫が、穴を通り抜ける度に、ないはずの心臓が激しく痛む。
そんな俺を気にすることもなく、少女は雨に打たれるままに微笑み続けていた。
俺は、彼女に俺の方を向いてほしいと心から思った。
緑色のフェンスに覆われた屋上からは、周りの建物が気にならないほど、空がとてつもなく広く感じる。彼女のための舞台のように、その空間は彼女と綺麗に一体となっていた。
俺は指先一つでも動かしてしまえば、その美しい光景が崩れてしまいそうな気がして、彼女をただ見つめていた。
俺と少女は、彼女の持つ拳銃の射程より少し短いくらいの距離で、互いに身動き一つせずに向かい合って立っている。
彼女はじっと狙いを雲の切れ間に定めて、そこから目を反らそうとしない。俺は視線だけは動かして、少女が呼吸する度に少し膨らんではまた縮む胸や、風にはためいてヒラヒラと揺れるスカート、その隙間から見え隠れする太もも、今にもすっと零れそうな頬に彫られた雫型のタトゥーに見とれていた。
しばらくの間、二人はそうしていた。永遠にも感じる時間のなかで、俺はこの時間がずっと続けば良いのにと思っていた。
俺が、教室の後ろの席からいつも見ていることなんて、きっと気づいていないのだろう。彼女はそれどころではないのだから。そして、俺を気にも留めないような彼女だからこそ、好きになってしまったのだろう。
前触れもなく、少女は引き金にかける人差し指に力を込めた。その瞬間、拳銃のシリンダーは回転し、それに合わせて撃鉄が跳ねる。そして、耳を貫くような爆発音と共に一発の弾丸が、空へ向かって放たれた。
弾丸は空気を切り裂き、一直線に雲を掻き乱して空の彼方へ消えた。すると切れ切れになった雲が互いを引き付け合い、ぐるぐると回転しながら収束していった。
やがて辺りは、滝のような雨に包まれた。少女は雨に打たれながら、濡れた体を気にも止めず、弾丸が消えた空を眺めながら微笑んでいた。彼女の頬の雫型のタトゥーが雨に溶けて流れ出そうとしていた。
突然、俺は体の中心に違和感を感じる。何事かと頭ごと視線を動かして、自分の胸を見る。俺の体にはボーリングの玉ほどの穴が大きく空いていた。背中側までそのまま貫通している。
その穴の中心、本当なら心臓があるはずの位置に、強烈な痛みを感じた。あまりの激痛に、俺はその場にうずくまる。だが、体を倒したのは間違いだった。
なおも降り続く雨が、俺の体に空いた穴をすり抜けて地面に落ちる。雨の雫が、穴を通り抜ける度に、ないはずの心臓が激しく痛む。
そんな俺を気にすることもなく、少女は雨に打たれるままに微笑み続けていた。
俺は、彼女に俺の方を向いてほしいと心から思った。
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