愛と呼べるかもしれない境界線の狂気
美しい結婚
 彼女と彼は、この世の全ての美を極めたように美しい。そんな彼らが交際するのは、まるで川の水が下流に向かって流れていくような、この世の理の一種に思えるほどに自然なことだった。
「ねえ君、僕らは美しい結婚をしよう。」
彼は、力強く真っ直ぐに彼女を見つめて言った。その一言を聞くと彼女は泣いてしまった。だが、それは喜びの涙ではないのだった。
その一言は、母親に聞いた言葉と同じだった。
「あなたの本当のお父さんがね、そう言ったのよ。僕らは美しい結婚をしようって。」
母は、今の夫の前に、誰もが羨む様な結婚をしていたという。しかし、子供をもうけた二人はすぐに離婚してしまった。周囲は不審がった、子供が生まれて直ぐであったし、何よりこの二人に非の打ち所などなく、生活に不満などないように見えていたからだ。
「私たちは「離婚の子」を作ることにしたのよ。そうして私たちの愛と幸福を、永遠にしようって、そう決めたの。」
離婚の母は、恥知らずにも誇り高かった。彼女にはそれを直視することができなかった。
今、自分と彼の容姿が激しく恐いものに思えていた。自分の髪も、指も、唇も胸も。彼の背中も、瞳も、手も腕も、どうしてこんなに美しいのだろう。
それは罪人の腕に付けられた焼印のように、二人にその事実を突きつけてくるのだった。
――彼は――
「あなたは、私たちの子供にまで、こんな結婚をさせるのでしょう?」
彼女は咽びながら、流れる涙をそのままにして彼に言った。
「違うよ。」
彼は、彼女を包み込むような柔らかな声で語りかけた。
「僕も君も、別の誰かと家庭を持とう。そうして僕らは美しく結婚しよう。」
――ああ、やっぱり彼は――
「あなたを愛しているわ。」
「僕もだよ。永遠に愛しているよ。」
彼女の涙は止まっていた。ゆっくりと染まっていく頬を彼に見せつけながら笑った。
「そうしたら、私たちの子供は、私たちのように恋をするかしら。」
「するに違いないさ。僕と君のように、互いを見つけあうよ。」
そう言って彼は、彼女にキスをした。いつの間にか、この血の繋がりを愛おしく思い始めていた。すると言葉が思わず飛び出した。
「美しく恋をさせてやりましょうね。」
彼は深く頷いてくれた。しかし、彼女は最後の一言を心の中で叫んだ。
――そして、うんと醜い結婚をさせてやりましょう!――
「ねえ君、僕らは美しい結婚をしよう。」
彼は、力強く真っ直ぐに彼女を見つめて言った。その一言を聞くと彼女は泣いてしまった。だが、それは喜びの涙ではないのだった。
その一言は、母親に聞いた言葉と同じだった。
「あなたの本当のお父さんがね、そう言ったのよ。僕らは美しい結婚をしようって。」
母は、今の夫の前に、誰もが羨む様な結婚をしていたという。しかし、子供をもうけた二人はすぐに離婚してしまった。周囲は不審がった、子供が生まれて直ぐであったし、何よりこの二人に非の打ち所などなく、生活に不満などないように見えていたからだ。
「私たちは「離婚の子」を作ることにしたのよ。そうして私たちの愛と幸福を、永遠にしようって、そう決めたの。」
離婚の母は、恥知らずにも誇り高かった。彼女にはそれを直視することができなかった。
今、自分と彼の容姿が激しく恐いものに思えていた。自分の髪も、指も、唇も胸も。彼の背中も、瞳も、手も腕も、どうしてこんなに美しいのだろう。
それは罪人の腕に付けられた焼印のように、二人にその事実を突きつけてくるのだった。
――彼は――
「あなたは、私たちの子供にまで、こんな結婚をさせるのでしょう?」
彼女は咽びながら、流れる涙をそのままにして彼に言った。
「違うよ。」
彼は、彼女を包み込むような柔らかな声で語りかけた。
「僕も君も、別の誰かと家庭を持とう。そうして僕らは美しく結婚しよう。」
――ああ、やっぱり彼は――
「あなたを愛しているわ。」
「僕もだよ。永遠に愛しているよ。」
彼女の涙は止まっていた。ゆっくりと染まっていく頬を彼に見せつけながら笑った。
「そうしたら、私たちの子供は、私たちのように恋をするかしら。」
「するに違いないさ。僕と君のように、互いを見つけあうよ。」
そう言って彼は、彼女にキスをした。いつの間にか、この血の繋がりを愛おしく思い始めていた。すると言葉が思わず飛び出した。
「美しく恋をさせてやりましょうね。」
彼は深く頷いてくれた。しかし、彼女は最後の一言を心の中で叫んだ。
――そして、うんと醜い結婚をさせてやりましょう!――
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